香りは、時に気分を一新したり、懐かしい記憶を思い出したり、季節を感じさせてくれたりする、不思議なもの。そして香りを感じる嗅覚は、人間の持つ五感のなかでも本能や感情、記憶にダイレクトに働きかける、繊細な感覚のひとつだ。
例えば、どんな場面でも本来の自分を呼び覚ましてくれる、魔法のような香り。着心地や素材にこだわることと同じように、お気に入りの服によく似合う香りを纏いたい。そして、多くの香水がある中でも、選択するなら、天然の原料を使用していて“サステイナブル”なものを選びたい。もし、あなたがそんな香りを探しているのであれば、本質的かつ独創的な視点を持ち、天然香料フレグランス界の最高峰とも呼ばれる『FUEGUIA 1833(フエギア 1833)』から届いたばかりの、新たな2つのコレクションをぜひ試してみてほしい。
アルゼンチン・ブエノスアイレス生まれの調香師、ジュリアン・ベデル(Julian Bedel)によって2010年に生み出された、『FUEGUIA 1833(フエギア 1833)』は、南米パタゴニアの大自然をベースに最高峰の天然材料のみを厳選して作られる、リミテッド・エディションのフレグランスメゾンだ。纏う人のパーソナリティを際立たせ、センシュアルな魅力を引き立ててくれるという同ブランドは、世界中に熱狂的なファンを持ち、現在はミラノ、ニューヨーク、チューリッヒ、ブエノスアイレス、東京に店舗を展開している。
幼い頃から畑や自然の中で育ち、建築家である祖父やアーティストである父と兄から受けた影響も大きかったと話すジュリアンにとって、香水は、絵を描いたり曲を作ったりすることと同じように、アーティストとしての表現のひとつなのだという。大自然とアートに囲まれて育った彼自身、弦楽制作家、デザイナー、アーティストの3つの顔を持つ、多才な人物だ。
これまで数々のセンセーショナルなフレグランスを生み出してきたジュリアンに、新しい2つのコレクションと、自身のクリエイションについてインタビューした。
『FUEGUIA 1833(フエギア 1833)』の香水ができるまでのプロセスについて教えていただけますか?
植物のリサーチ、採取、抽出、調香、生産、販売まで、すべてのプロセスを一貫して自分たちの手で行っています。全ての過程を一貫して管理していることは、ほかのブランドと大きく違う点です。また、多くの一般的な香水は人工香料を使用していますが、「フエギア 1833」では素材が生分解性であることがとても重要であると考えており、プラスティックなどの合成樹脂は一切使っていません。原料は全てオリジナルでオーガニックのものを使っています。
数年前、自分たちで材料の生産を行うために、ウルグアイに5万ヘクタールもの広さを持つ自社の植物学研究所「フエギア 1833 ボタニカルセンター」を開設しました。そこには100種を超える南米生育の植物や、水生植物を育てるための美しい池もあります。ミラノにあるフレグランス・ファクトリーには1200種以上の天然原料を揃え、まるで実験のように調香を行っています。
先ほどのお話でも伺えるように、サステイナブルであることを信条とされていますが、ジュリアンさんご自身、そのようなものづくりにおいて、これまで影響を受けたものはありましたか?
私は小さい頃から自然に囲まれて育ったので、自分にとって意識せずともナチュラルなことです。全ての過程において持続可能性を意識することは実際チャレンジングなことですが、私たち「フエギア 1833」にとって原点でもあります。例えば香水を入れる木箱は、捨てられた木や流木を再利用して作っています。また、工場では、過激なエネルギーを使って作らないことを大事にしています。実は効率の面から考えても、全てのプロセスを把握し管理することは、非常に良いことなのです。
今回、新たに発表された2つのコレクションについて教えてください。
南米で伝統的な療法に使用されてきた植物のマジカルな側面と美しさを体感できる「TONICO(トニコ)」と、抗菌・抗ウイルス効果を持つ原料をベースに、ワードローブと一体となるフレグランス「TEXTILE(テキスタイル)」の2つのコレクションで構成されます。
「TONICO(トニコ)」コレクションは、フエギア・ボタニーに自生していたり、育てている花やハーブ、樹木を使用していています。6種類の香りは、ビターな芳香が印象的な「カルケハ」、時に赤い花を咲かせる鑑賞樹木で、アロマティックグリーンそのものを引き出した香りの「シレネア」、そしてウッディなハニードリンクを思わせる、ユニークで独特な香りの「コバイバ」、ジャスミンやミモザのような香りが特徴の「エスピニージョ」、独特の素晴らしい芳香を持つ「マルセラ」、アルゼンチンの国民的ドリンクとしても人気を集める、美とエネルギーに満ちたマテを使用したハーバルでグリーンな香りの「マテ」です。
一方、「TEXTILE(テキスタイル)」コレクションは、肌ではなく、ワードローブにマッチした香水を作りました。例えば、ウールやカシミヤ、リネン、コットン、シルクなど、それぞれの繊維に合わせ、生地と一体となるように設計しています。
日本原産の檜の葉がトップノートの「アルパカ」。こちらはウールのスーツに纏うと、天然の動物の毛が持つ豊かな高級感を引き立ててくれます。「セダ」は、マグノリア(モクレン)やイリス、稀少性の高いジャスミンを贅沢に使い、エレガントでフェミニンに仕上がりました。そしてアンデス山脈に生息する、ヴィクーニャ(ラクダ科の哺乳類)の毛皮の柔らかさからインスピレーションを得た「ヴィクーニャ」は、サンダルウッドやオークウッド、ベチバーなどの重い分子を持つ香りを使って、ふんわりとした軽さと暖かみを表現しています。「インディゴ」は、コットンや特にデニムに最も馴染みます。さわやかにリフレッシュするイメージの力強いハーブの香りです。ナツメグやオレガノ、タイム、ペッパーなどのスパイスを基調としている「リノ」は、ラベンダーとムスクが太陽の光溢れた広野を思わせるような香りです。
ジュリアンさんにとって、今回のラインナップの中でも特にお気に入りの香りはありますか?
選べません。全ての香りを気に入っています!
新たに進行中のプロジェクトや、コラボレーションなどはありますか?
最近、ロールス・ロイス・モーター・カーとコラボレーションをして、ビスポーク・オリジナルの香水を作りました。ロールス・ロイスのレザータンニングプロセスから生まれた天然成分のみを使用し、調香した、ロールス・ロイス車の所有者のためだけの特別な香水です。
ジュリアンさんは京都がお好きで、過去に来日した際、藍染を経験されたと伺いました。日本や日本文化について、どのように思われますか?
私の故郷であるアルゼンチンと日本には共通する部分があり、親近感を感じます。それは神秘的な文化だけではなく、日本の神道のように、自然を崇拝してきた歴史にも、近いものがあると感じますね。そしてヨーロッパにはない、日本の人々の職人技や、アグリカルチャー(農業)、建築にもとても興味があります。
お話を伺っていると、ジュリアンさんは本当にアーティスティックで多くの才能をお持ちですね。最後に、本質的なクリエイティビティを鍛え高めようとする、若い世代へのメッセージをいただけますか?
若い人だけでなく、どんな世代にも言えることだと思いますが、まずは自分がやっていることを信じて、ビジョンを大事にすること。たとえ途中で方法やアプローチが変わったとしても、自分が情熱を持っていること、パッションが変わらなければ最終的なゴールは変わらない。また、良いアイディアや最高だと思うことは、失敗から生まれることもあります。試行錯誤を重ねながら、情熱を持って取り組むことで正しい方向に繋がっていくでしょう。
BOUTIQUE FUEGUIA 1833
店舗住所:東京都港区六本木6-10-3 グランド ハイアット 東京 1Fロビー内
営業時間:11:00〜20:00
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【POP UP STORE INFOMATION】
FUEGUIA 1833 ポップアップストア
GINZA SIX
住所:東京都中央区銀座6丁目10-1 GINZA SIX 3F
期間限定:2018年11月21日(水)〜2019年1月15日(火)
営業時間:10:30〜20:30
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Julian Bedel ジュリアン・ベデル
FUEGUIA 1833創業者、調香師。1978年ブエノスアイレス生まれ。
アーティスト、弦楽制作家、デザイナーの顔を持つベデルは、フレグランスに文化的なアイデンティティが欠如していることに気づき、愛する詩やタンゴをはじめ、彼の人生に影響を与えた大自然や歴史、文化、人物からインスパイアされたフレグランスを展開する。彼の手で巧みに調香された香水は、まとう人の肌に応じて香りが変化し、唯一無二の物語を紡ぎはじめる。