ガラスジュエリーと聞くと、人によってはベネチアンガラスやとんぼ玉、もしくは宝石のように輝く色とりどりのガラスを思い浮かべるかもしれない。ガラスジュエリーブランド「AyaUemura」は、一見するとアート作品のように、水彩画のような美しいグラデーションを描き、彫刻のようなフォルムによって独特の世界観を描いている。研磨と焼成によって、そのときどきの具合で変わるガラスの表情をていねいに紡ぎ出しながら、身につける人の気持ちに寄り添った、鋭敏さと柔らかさをあわせもつ唯一無二のジュエリーだ。2017年にブランドを立ち上げて以来、アーティストや写真家、デザイナーなどものをつくる人たちを中心に着実にファンを増やし続けている。今回、新たにポップアップショップを開くことになったデザイナーの上村彩氏に、自身のブランドやガラスジュエリーに込めた想いについて伺った。

ファッションの世界でさまざま仕事を経験してきたそうですが、どうしてガラスジュエリーのブランドを立ち上げようと思ったのですか?

元々ファッションが好きで、スタイリングの仕事や洋服をつくったりしていました。紙や糸、粘土を使って手作業で何かものを生み出すのが好きで、撮影に使うプロップスタイリストもやっていました。それからガラス工芸の教室に通うようになって、いろんな作家さんの作品を見るうちに、ガラスに関する高い技術を持つことに憧れるようになったんです。

ガラス工芸というと花器などが一般的ですが、毎日身につけて鑑賞できるものがあれば、と。工芸とファッションの中間に位置するものをつくりたいと思い、2017年に自分のガラスジュエリーブランドを始めました。

どんなアイテムを主に製作しているのですか?

メインはボリューム感のあるガラスの指輪、ネックレス、イヤリングです。ジュエリーとしての機能だけでなく、アート作品として、鑑賞する価値があるものを生み出すように心がけています。また、スタイリングの延長でつけてほしいので、洋服と一緒にコーディネートすることを前提につくっています。

ガラスの耐久性を保つため、あまり薄くはできないのですが、ボリュームを保ちつつ、自然と華奢に見えるようデザインを工夫しています。

ガラス工芸というと、製作の工程が大変そうなイメージですが、どうやってこのような美しい作品が生まれるのでしょうか?

一般的に言うガラス工芸は、高温の溶けたガラスを吹いたり伸ばしたり、熱いガラスを扱うイメージがあるかと思うのですが、私の場合はそうではないんです。ガラス工芸にはいわゆる「ホットワーク」と「コールドワーク」の2つがありますが、コールドワークの製法でつくっています。

パートドヴェールといって固体の状態のガラスを電気炉に入れて溶かし合わせます。もちろん、熱を使うのですが作業中、作り手には熱が伝わらないのがコールドワークの特徴です。

簡単に流れを説明すると、油粘土を使って原型をつくった後、その原型の上に液体状の石膏を流しかけます。40分くらいで硬化するので、油粘土の原型を取り出して、できあがった石膏の中にガラスの粒や粉をつめます。ここまでは自宅でできる作業です。

そこからガラス工房に行き、電気炉に入れます。ここで時間と温度の設定を行います。その日はそれが終わったら帰宅します。

翌日、再び工房に行き、できあがったガラスを取り出して家に持って帰ります。石膏の型をこわすと、中から溶け合わさったガラスが出てきます。ガラスの周りについた石膏を歯ブラシと水で洗い流します。そしてできあがったものを、今度はまた別の工房に持ち込みます。

石膏の型を工房に持ち込んだり、完成したガラスを取り出して別の工房に持って行ったり、結構な重労働ですね!

そうなんです。石膏もガラスもとても重たいので…。さらに、次の研磨もなかなかハード。研磨は、光の透過度が調整できる重要な作業なんです。

最初の工房から取り出して自宅で石膏を洗い流した作品を、切削研磨が行える工房に持っていき、ダイヤモンドの粒子を使ったグラインダー(加工物の表面の切削・研磨に使う機械)で大まかな形をつくっていきます。

それから、直径70cmくらいの平盤で表面を削ります。このとき、砂の種類を変えて細かくしていきます。一般的に荒い状態の表面をつやっと光らせるには、さらに6段階くらいかかるんですよ。最終的にガラスの板の上に研磨剤と水をのせて擦る、共擦りという作業も行います。

仕上げに、ハンドリューターで角を取るなど最終調整して完成です。このとき、摩擦熱が伝わって割れるのを防ぐために水につけて冷やしながら作業を行います。

ざっと流れを聞いただけでも複雑で大変そうですが、作る過程で最も難しいポイントは何ですか?

温度調節ですね。最終的に800℃くらいにもっていくことが多いのですが、0℃から800℃に上昇させるまでには数時間かかります。急に温度を上げるのではなく、ゆっくり数時間かけて上げていきます。最高温度を何時間キープするのか、何度まで下げて、その温度で何時間キープするかなど色々なことを考えなければならず、複雑です。急激に温度を下げると割れてしまうので、注意が必要です。

溶かし具合によって温度と時間の設定が変わるのがおもしろいところであり、難しいポイントですね。そのような調節を経て、長いときは、丸一日かかるときもあります。

また、ガラスは焼くと体積が縮まるので、あらかじめ体積を計算しておく必要もあります。

なるほど… まるで化学の実験のようですね!作っていて一番楽しいと感じる瞬間はどんな時ですか?

コールドワークの特徴の一つとして、ガラスの分量の微調整があるのですが、色の溶け合い具合をコントロールできる部分と、コントロールできない部分があるんです。ガラスが想定とは違うところに流れてしまうと、全く違う色になってしまう時があります。

そのように「失敗した!」と思ったガラスの配合で予想外にきれいなものができた時は、逆にすごく嬉しかったりします(笑)

シンプルに透明度の高い3色を混ぜたり、パウダー状のガラスを使ってマーブル模様のように色の粉が流れるようにしたりと、さまざまな工夫をしています。粒状のガラスは透明なものを作りやすく、パウダー状のガラスは不透明を表現しやすいんです。

ブランドのフィロソフィーや、こだわっているポイントは何ですか?

シャープさ、都会的、モダン、クリーン、ミニマル――ブランドを表現するいくつかのキーワードがあるなかで、柔らかさが共存できるようなフォルムを意識しています。そのため、「ガラスだけどあたたかみを感じる」と言ってくれる人も多いんですよ。

ガラスの持つシャープでエッジーな表情の中に、いかに丸みを表現できるかが課題です。実際、小さい子供がいる友だちがいるので、誰かに触れたりして危険な目にあわないように、角はできるだけつけないようにしています。

実は、原型となる石膏の型は1回しか使えないので、すべての作品は世界に一つしか存在しません。苦労して製作する分、この技法でしか出せないような表情を出したいですね。

NUDITY SAND, MERMAID, SANCTUARY, RESURRECTION…など、一点一点、ユニークな名前がついていますね。これはどのように決めているのですか?

できあがってから、自分の指にはめて眺めながら、思いついたときに名付けています。

これまでに影響を受けたアーティストはいますか?

ファッションの世界では、フィービー・ファイロ。彫刻家は、ブランクーシです。

どんなブランドを目指していますか?

量産されているファッションもいいのですが、そこにはどこか欠けているものがあるなと感じるんです。均質で、おもしろみがないな、と。私だったら、ここはゆがませよう、とか色々考えます。

最近はガラス以外のものもつくりたいと思い、石塑(せきそ)粘土を使ったピアスやネックレスも発表しました。石塑粘土は石の粉がベースとなっていて、やすりや彫刻刀で研磨が可能な素材です。

失敗から発見が生まれる、そんなジュエリーづくりをこれからも続けていきたいですね。


AyaUemura
デザイナー上村彩によって2017年にスタートしたガラスジュエリーブランド。研磨や焼成のその時々の具合によって変わるガラスの表情に目を向けて、一つ一つの作品と会話をするように製作している。ガラスという素材の持つ鋭敏さと柔らかさを同時に表現できることを目指して。同じ作品を鑑賞しても浮かぶ心象は人それぞれ。小さな彫刻作品としてのジュエリーを身につける方と、作品を通して特別な会話ができるようなブランドでありたいと思っている。

POP-UP SHOP INFORMATION
12/6(木)-12(水) ルミネ新宿2 「QUARTIER-LA(カルチェラ)」にて、期間限定ショップを開催!
住所:新宿区新宿3-38-2 ルミネ新宿 ルミネ2-2F
TEL:03-3349-8081
営業時間:平日 11:00~21:30 土日祝 10:30~21:30
デザイナー来店日時:12/6(木)11:00-13:00、12/8(土)16:00-18:00、12/9(日)14:00-16:00、12/12(水)20:00-21:30

Website: http://www.ayauemura.com
Instagram: @ayauemura_glassart