アメリカ・ニューオーリンズ出身のクリエイティブディレクター、カルロス・ズニーガは、世界各地を旅し、訪れた土地の様々な文化や人々に触れる中で感じたことをインスピレーション源として、モダンバッグブランド「T・S・O・G」を展開している。異なる背景のものが交わることで今までにないものが生み出されるという、カルチャーミックスの経験から着想を得たデザインは、シンプルながら他にはない個性を放っている。この秋、満を持して東京で初の展示会を開催したカルロスにインタビューを行った。

カルロスさんの両親はホンジュラス出身、自身はニューオーリンズで生まれ育ったとのことですが、そのような背景はライフスタイルや考え方に影響を与えていますか?

そうですね。私はアメリカの中でも特に異なる文化が交錯する環境で、そこを行き交う人々の姿を見て育ちました。生まれ育ったニューオーリンズも、大学時代にアートを勉強したマイアミも、実に多種多様な人々がいます。マイアミでは、キューバ、プエルトリコ、ハイチ、ジャマイカ、ロシアと様々な国籍の友達ができて、カルチャーに対する想いが自然と強くなりました。以来、私は異なるバックグラウンドを持つ人々と出会い、コミュニケーションをはかることを心から愛するようになったんです。

ベトナム系アメリカ人の妻と出会ったときにも、ベトナムについて自分は何も知らなかったので、質問攻めにしたのを覚えています(笑)いまでは夫婦で世界中を旅し、多様な文化に触れることが何よりも楽しみであり、生きる源です。その土地土地で暮らす人々と会話をすることでインスピレーションが生まれるし、旅を通して視野を広げることで、自分が何者であるかを知るきっかけにつながると思っています。

T・S・O・Gのキーワードは、“コネクティング with カルチャー”。世界を旅して様々な文化に触れ、それぞれを繋げることをミッションにしているとお聞きしました。これまでに発表したデザインの中で、インスピレーション源となった印象的な旅先のストーリーがあればいくつか教えてください。

オールレザーで作られたTHE ONEという名のバッグは、ニューヨークのワンワールド・トレード・センターを訪れ、その壮大で美しいビル群からインスパイアされてデザインしました。数あるニューヨークの高層ビルの中でもワンワールド・トレード・センターは、その大きさとシャープなデザインが際立っています。無駄を省き、ミニマルでありながらも存在感を放つシティリュックです。

また、私はスノーボードをしに毎年スイスに行くのですが、そこで見た風景に魅了されてデザインしたのが、MONTREUXというバッグです。ニューオーリンズもマイアミもあたたかい場所なので雪山とは無縁だったのですが、友人がダボスに住んでいるのでよく遊びに行くようになり、スノーボードが生活の一部となりました。

スイスでは、多くの企業幹部の方々が、毎日電車やバスで約1〜2時間かけて通勤していました。そして、通勤中には美しい山脈の景色を眺めることができます。MONTREUXは、この通勤時に似合うシティリュックをイメージして作りました。スイスの山並みはどこを切り取っても、まるで風景画のよう。外ポケットの斜めカットのデザインは、山脈からインスパイアされたものです。

数多く旅をされている中で、特にお気に入りの場所はどこですか?

バルセロナは私にとって、特別な場所です。両親がホンジュラス出身なのですが、スペインに行くとホームのように感じます。自分たちの家族のルーツがスペインのどの地域であったかなど、現地の人たちと話すことで理解することができました。

バルセロナではairbnbに泊まって、スクーターで街や海沿いをドライブしたり、暮らすように旅をするのが好きです。バルセロナは、市街地から海岸までが一日で回れるほど近い距離にあることに驚きました。BARCELONAというバッグには、その名の通りこの場所で過ごして感じたライフスタイルが反映されています。昼間は海で泳いで、そのまま夕食に繰り出す――そんなライフスタイルを過ごしている人たちを見て、このバッグをデザインしました。水着やタオルを入れられるほど容量がたっぷりあり、バッグ表面にはゴムコーディングレザーとキャンバス地を使うことでカジュアルさも演出しながら、都会的な要素も持ち併せたバッグです。

また、日本も住んでみたいと思う国のひとつです。東京の街は、アートやファッションに溢れていて刺激的だし、何より清潔。しかも限られたスペースを効率的に、賢く有効活用していますよね。同じ大都会でもニューヨークはカオスなのに対し、東京の人はとても規律があることに驚きました。

京都も好きで、今回の来日の間にも足を運ぶ予定です。MUKOというリュックは、京都の伝統的な建造物とモダンな要素の融合をテーマにデザインしました。クラシックな雰囲気のリュックですが、細部にまでこだわりを表現しています。これは他のシリーズにも共通しているのですが、持ち手の部分に、ブランドのアイコンであるコットン織を使っているのは、珍しいかもしれません。また、MUKO(ムコ)は、日本で伝統的な結婚式を見る機会があったことをきっかけに、「花婿」から名前をとりました。

インスタグラムにも、たくさんの旅の写真がアップされていますね。今後の旅の予定や訪れてみたい国について教えてください。

12月にメキシコのカンクンに行く予定です。いつも仕事で忙しいので、今回は家族とビーチやプールでのんびりできればと思っています。これから行きたい場所については、アフリカ大陸にまだ足を踏み入れたことがないので、いつかケニアに行ってみたいですね。

なぜ、バッグのブランドを立ち上げようと思ったのですか?

大学卒業後、プロダクトデザイナーやグラフィックデザイナーとしてとして家具、シューズ、時計などさまざまなものをデザインしてきましたが、バッグは経験したことがありませんでした。また、世の中にあるバッグはどれも、ポケットや収納がたくさんあって機能的ではあったのですが、機能面だけでなくスタイリッシュさを持ち併せたバッグが欲しいと思ったんです。そこで2015年に、T・S・O・Gを立ち上げました。私自身、旅に出ることが多いですがT・S・O・Gは旅だけでなく、シティでも使えるようなモダンさを兼ね備えています。素材も本革やキャンバス生地を組み合わせることで、オンフォーマルスタイルにもオフのカジュアルスタイルにも馴染むようにしています。

ユニセックスなバッグということですが、あえてターゲットを女性や男性に絞らない理由は何ですか?

ターゲットについては、男性や女性といった特定の人物を想定していません。それよりも、その人がどんな生活をしているのかといった、バッグを持つ時のライフスタイルやストーリーを意識しています。


これまでに影響を受けたアーティストはいますか?

ジャクソン・ポロック、それから(KAWS)カウズのグラフィティ・アートが好きです。

日常の生活において、大切にしていることは何ですか?

「時間」です。アメリカでは、フルタイムの仕事をしながらサイドビジネスをやるのが珍しいことではありません。私はクリエイティブディレクターとして他のデザインの仕事もフルタイムでやりながら、自分のブランドもやっているのでほぼ一日中、デザインのことを考えています。そういう意味でも、いかに時間をうまく使うかは非常に重要です。

毎朝起きるたびに、好きなことを仕事にできていることに感謝し、ワクワクしています。ファッション業界で、2つのクリエイティブな仕事にたどり着くことができて幸せです。

今後の目標があれば教えてください。

T・S・O・Gは私にとって赤ん坊のような存在。自分自身が一番好きなスタイルを表現しています。これからは、そんなT・S・O・Gをよりライフスタイルブランドとして育てていきたいですね。そしていつか東京、ニューヨーク、トロントにお店を出せたら嬉しいです。



T・S・O・G(ティー・エス・オー・ジー)

創業者カルロス・ズニーガが2015年に設立したアメリカ発のモダンバッグブランド。“コネクティング with カルチャー”をキーワードに、世界各国を旅し、その土地のムードやカラー、熱気、匂い、建築や、人々との交流などさまざまな要素からインスピレーションを得てクリエイトされている。カルロス自らの交錯するバックグラウンドならではの審美眼、洞察力、複雑さ、そして文化的な深みによって創造されたアイテムは、それを持つ人々が、各アイテムの文化的背景とつながる喜びと刺激を大切にしている。

Website: https://tsog.jp
Instagram: @tsogofficial