近年、3Dプリンタやプロジェクションマッピング、AIといった言葉がどんどん身近に迫ってきたように思う。文明が発展したことによって社会や環境にもたらした変化は決して良いことばかりだとは言えない中で、これらのデジタル技術がどこまで自分たちの生活に普及していくのか、楽しみでもありややナーバスな気持ちでもある。しかし今をしっかり見つめることによって、未来を選択することは可能かもしれない。
そこで今回はパリを拠点に活動する、主にiPadのタッチスクリーンや3Dアニメーション、3Dプリンタの技術を活用し、21世紀におけるインダストリアルデザインについて疑問を呈し新たな可能性を探求する、アーティスト兼デザイナー「ロールリーヌ・ガリオ」を紹介させて頂きたい。
ロールリーヌは、パリの国立アート&デザインスクールEnsaama Olivier de Serresでファッションデザインを勉強した後、フランス国立工業デザイン学院ENSCIでプロダクトデザインを専攻し、2012年に卒業後、アーティスト兼デザイナーとして活動している。ロールリーヌのiPadのタッチパネルによるハンドドローイングは、何本もの太い線によって独特の色使いとコントラストで陰影を描き出し、挑戦的だがどこか心地よく、すっと引き込まれるような美しさだ。
iPadを使いながらも水彩画を描くのと同じように色を重ねていったり、または彫刻を作るように3Dデザインを用いてオブジェクトを構築したりと、まるでデジタルな要素は後から付け加えられたかのように、古典的な要素をベースにしつつ、力強くも繊細に、彼女の世界観を現代的な方法で表現している。
今回ロールリーヌは、パリデザインウィークの一環で、主に絨毯などを作るテキスタイルカンパニーの「Balsan」と協業しいくつかの新しい作品を製作した。Balsanのショールームにて展示を行っていた彼女を訪れて、話を伺った。
テーマは「Dried & Soft」
新しい作品とは、乾燥した草花を秋の色に映し出しパターン化し、絨毯のデザインに落とし込むというもの。道端に落ちていた枯葉などをモチーフにしたり、たまたま目に留まった、冷蔵庫に入っていた玉ねぎに美しさを見出しデザインに落とし込んだという作品も。それに加えて他にも今までに作成した、パリのポンピドゥー・センターに飾られた過去の作品や、ドローイングなどもいくつか展示されていた。
もともと絵の具など他の方法を用いてのドローイングもしていましたか?
オイルペイントや水彩画などいろんな方法でペインティングをしていましたし、いまでもその方法で絵を描くことが大好きです。iPadや3Dアニメーションを使い始めたのはここ3、4年くらいかな。iPadは場所を選ばず、直感的に思い描いているものをデザインに落とし込めるところが良いところです。
もともとファッションを勉強していたそうですが、どうしてプロダクトデザインに移行したのですか?
もともとファッションを勉強し始めたきっかけは、オープンスクールでいくつかのクラスを見に行ってみた結果、たまたまそこにいた人達や先生が好きだったから。ファッションデザインの勉強からプロダクトデザインの勉強に移行したのも、たまたま良い出会いがあったからで、特に意識してプロダクトデザインを勉強しようと思ったわけではなくて。モノづくりも同じで、内容で選ぶというよりは、この人と一緒にコラボレートしたいと思うかどうかが決め手だと思います。
3Dプリントについてどう思いますか?
今では欲しいと思ったものを、どこでどうやって作られたかなんて気にせず、簡単に手に入れられてしまう時代ですよね。トマトが必要だと思ったら、季節や場所に関係なく簡単に生産してしまう。そういったトマトはなんの味もしないようなものだけど。そういうマインドセットっておかしいと思うし、どうしてそんな早いスピードでモノを生産して消費していく必要があるのか?それについて今一度考え直すべきだと思っています。3Dプリンタで作品を作るには、時間も手間もお金も相当かかるから、そういうマインドセットとは程遠い所にあると思います。
もし3Dプリントが低コストになってどんどん普及され、簡単にモノを生産できるようになったら、それは無味なトマトが生産されるのと同じ現象が起こってしまうのでは?
それについては自分も心配しています。いつか誰でもなんでも欲しいと思ったモノを簡単に3Dプリンタで作れてしまうようになっちゃったら……、それは良いことだとは思えません。少なくともオブジェクトはそんな簡単に作られてしまうべきではないと思う。しかし既に世の中には大量生産されたモノが溢れかえっているから、マス・プロダクションについては3Dプリント以前の問題だと思います。
世の中の大量生産・大量消費・大量廃棄型の問題とどう向き合って行くか、どのようにお考えですか?
正直自分は充分にこの問題に取り組めているとは言えないけれど、大量生産をするシステムはどんどん機能しなくなっていくと感じています。実際に資源も足りなくなってきているし、食べ物を他の国から輸入することについても歪みが出てきている。もし私たちがこれを一生やり続けるのだとしたら、それは悲惨なことだと思う。少なくとも自分は、この問題について日々考えているし、周りの人々を見ているとこの問題に取り組む人たちが増えてきているように感じます。
選出されたアーティストが2ヶ月から6ヶ月もの期間滞在し、創作課題に取り組みむフランスの国外文化施設や、京都にあるヴィラ九条山に滞在していたそうですが、日本や、日本のデザインについてどのように感じましたか?
日本人はデザインから始まりあらゆる物事においてとても気を使っているし、自然や文化的なことをとても大事に守っているようにも感じました。驚いたのはその反面で、大量のプラスティックを生産していること。そのコントラストがとても不思議です。
パリでは多くの人が街中にゴミを捨てて、正直とても汚いと思います。そういった意味ではパリは自分が常日頃課題にしている、サスティナブルなデザインとはなにか?どのように自然を守っていくか?ということを考えるのにあまり向いてないのかもしれません。それよりも自分は日本の「神道」、“全てのモノには生命が宿っている” の考え方に共感する部分がある。きっとその精神をパリに持ってきてくるべきなのかもしれませんね。
サスティナブルなデザインとは何だと思いますか?
例えば洋服が、自然な素材で正しい工程を踏んで作られていたとしても、見た目がよくなかったらそれはいくら正しい方法で作られていたって、人の心に届かないかもしれない。そういう意味で純粋に “デザイン” は人々の心を動かす大事な要素。その上で、「それらの洋服がどの様に作られたか」というストーリーを伝えていくことで、人々のマインドセットを変えて行けるんじゃないかと思います。
サスティナブルなデザインについて心がけていることはありますか?
このオブジェクトは3Dデザインと3Dプリンタで作ったのものなんだけど、手に持ってみたときに小さい動物に触れたときのような愛らしさがあって、簡単に捨てられるものじゃないと思うんです。もちろん手間もお金もかかっているけれど。多くの人はモノを買って捨てて買って捨ててって、すごい頻度で繰り返しますよね。少なくとも自分は、そういった対象にはならず、ずっと大事に残していきたいと思えるモノを作ろうと心がけています。
作品を見たり、お話を聞いていると、デザイナーというよりアーティストという印象を受けました。ご自分ではどのように定義するのがしっくりきますか?
うーん、どちらかというと自分はクラフトマンに近い気がします。iPadで絵を描くときも、色を重ねたりしながら探求して作り上げていったり、3Dデザインを彫刻を作る工程の一部として用いているけど、順序や方法が違うだけでやっていることのベースは彫刻やペインティングと同じだから、あえて定義するとしたらクラフトマンだと思います。
今後作ってみたいモノはありますか?
コミックや映画を作ってみたいです。昔のSci-Fi映画に出てくるロボットなどの機械的な世界観って、人々がそれを夢見てたってことですよね。でもあの景色って、ある意味この世の果てみたいなことだと思うんです。だから自分は、未来に対する新しい夢のあるストーリーを作りたい。日々地球を滅ぼしている典型的な人々の生き方を描いたり、自然を大切にしていくってことがどれほど良いことなのか、そしてその楽しさや良さを伝えられる様な映画を作ってみたいです。
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All photos by Natsuko Natsuyama
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NATSUKO
モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
Instagram : natsuko_natsuyama
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