今年の4月にパリの11区にオープンしたAtelier des Lumières (アトリエ・デ・ルミエール)は、鉄道・機関車・船などの大型鉄製部品鋳造工場を改装して造られた、総面積3,300㎡ほどのアートセンターだ。アートセンター内は “La Halle”(ラ・ホール)と“Studio”(ステュディオ)の二つのスペースにわかれていて、チケットは別売りとなっている。中心となるラ・ホールは主にデジタル・エキシビションが行われるエリアで、もう一方のステュディオはコンテンポラリー・アートをテーマとしたエリアで、近年のアーティストの作品を楽しむことができるそうだ。

オープン当初は毎日長蛇の列ができていたようで、そろそろ落ち着いた頃かと思い訪れてみた。美術館のWebサイトには土日はオンライン予約必須と書かれていたが、念のために平日ではあったがオンラインでチケットを予め購入しておいた。午前中は空いていると予想していたが、外に列はできていなかったものの館内に入ると人がいっぱいで、ベストポジションを陣取るには、上映時間30分ほどの作品を2周目も見ることになった。

Photo by Natsuko Natsuyama

館内の扉を開けると外からは想像もつかないほど広く、10mくらいある天井の高いホールに圧倒された。そこに140台のプロジェクターと50台のスピーカーが設置されており、床から天井、柱全体に渡ってプロジェクションマッピングでGustav Klimt(グスタフ・クリムト)、Egon Schiele(エゴン・シーレ)とHundertwasser(フンデルトヴァッサー)の作品が映し出されていた。

クリムトは19世紀末から20世紀初頭にかけて、オーストリアを代表する世界的に有名な画家として知られている。当時保守的だったウィーンの美術界で、クリムトは絵画におけるデザイン的要素を切り開いたと言われるウィーン分離派を結成し、反骨精神に溢れた革新的な作品を生み出し続けていた。
シーレもまた、通っていたウィーン美術アカデミーの保守的で古典主義を継承する姿勢に失望し、工芸学校時代の先輩であるクリムトに弟子入りし、クリムトの援助によって最初の個展を開いている。
彼らの作風は同じ路線ではないにしても類似点が見受けられる。どちらも女性をモチーフにしたものが多く、官能的で退廃的、時に不気味でもあるがどこか儚く美しい作品が多いのが特徴だ。

Photo by Natsuko Natsuyama

オーストリアの画家であり、建築家であり、環境活動家でもあったHundertwasser(フンデルトヴァッサー)の作品には、家と人と自然の共存という哲学が込められており、幼い頃からずば抜けた色彩感覚を持っていたそうで、鮮やかな色使いがとても印象に残った。
フンデルトヴァッサーはカラフルなペインティングを施した建築物を始め、商業アーティストとして、郵便切手のデザイン、旗や国旗のデザイン、車のナンバープレート、コイン、本の装丁に渡って優れた才能を発揮させていたそう。

Photo by Natsuko Natsuyama

自分自身こちらのアートスペースに訪れる前は、確実に実際の絵を見る方が良いと予想していたのだが、例えばクリムトの作品は、写真的な人体とデザインされた模様のような平面的な要素が合わさっており、その模様がプロジェクションマッピングと相性がいいようで実際に絵を見るのとはまた違った良さがあった。実際に絵を見る時は筆使いや色使いにフォーカスを当て、そこから作家が表現するイメージを感じ取るように見るが、こちらの展示は絵のディテールよりも体験することがメインで、まるで自分がクリムトやシーレ、フンデルトヴァッサーの世界に迷い込んだような感覚を味わえた。19世紀末の彼らの作品が21世紀のデジタル技術によって再定義され新たな価値を生み出したのだ。

Photo by Natsuko Natsuyama

こちらのエキシビションは11月までの予定だったが、1月6日まで行われることになった。来年4月には上野・東京都美術館にて、7月末には愛知県豊田市美術館にて「クリムト展 ウィーンと日本 1900」が行われる予定だ。もしチャンスがあればパリのエキシビションと合わせて見てみると、よりクリムトの世界観を理解することができるかもしれない。

Photo by Natsuko Natsuyama

こちらのアートセンターは文化施設の管理運営やプロモーションを行う団体、Culturespaces(カルチャースペース)によるもので、南仏のレ・ボー・ドゥ・プロヴァンスに造ったキャリエール・ドゥ・ルミエール(Carrières de Lumières)も同じコンセプトのデジタルアートセンターで、2012年に造られて以来人気を博している。

今年の6月に、東京でもTeam Labが森ビルと共同運営で、「ボーダレス」をコンセプトに、10,000㎡もの巨大空間に世界初公開を含む50の作品を展示する本施設「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless(森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス)」がオープンして以来話題を呼んでいる。

実際に足を運んでみるまでは、プロジェクションマッピングなんて実際のアートを見ることから程遠いのではないかと思っていたが、今回クリムトらの作品を見た時に、異なる時代背景が繋がりそこに新たな価値が生まれたことで、デジタルアートは21世紀の芸術表現に置いてあらゆる可能性を秘めているかもしれないと感じたのだ。


NATSUKO

モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net