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世界に広がる、クレイの新たなムーブメント『New Wave Clay』:トム・モリス インタビュー

『New Wave Clay』TOM MORRIS INTERVIEW

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トム・モリスは、ロンドンに拠点を置くエディター兼ジャーナリスト、ブランドコンサルタントであり、これまでに数々の著名な本や雑誌で執筆活動を行ってきた。同氏の3作目となる著書、『New Wave Clay』は、つい最近発表されたばかりだが、大きな注目を集めている。

トムは、若い頃からセラミック(粘土を材料とした作品)に情熱を注いでおり、コレクターであると共に、自身も趣味として陶芸活動をしている。今回はトムに世界に広がるクレイ(粘土)の新たなムーブメントという現象について、実際に何が起こっているのか、話を伺った。

Photography: Anton Rodriguez

まず、なぜクレイを選んだのでしょうか?クレイをテーマに執筆しようと決めた理由を教えてください。

もともとクレイを使った作品に大きな魅力を感じていました。若い頃から、寝室に小物などの作品をたくさん飾っていましたし、デザインジャーナリストとして、クレイ作家や陶芸家に関する記事を楽しみながら執筆してきました。そのうち、ここ数年間のことですが、陶芸の世界にとても面白いムーブメントが起こっているということに気付きました。大勢の人が、陶芸という表現手段を取り入れ、オリジナリティの極めて高い作品を生み出しているのです。このムーブメントをまとめ、さらに掘り下げていくためにも、一冊作らなくてはならないと感じました。

トムさんは、どのような種類の陶芸作品を集めているのでしょうか?コレクションについて少しお聞かせください。

大抵の人は、その人の家を見回してみると、陶器の中にその人の生き方が見えてくるのではないでしょうか……。私もそうです。私のコレクションは多様性に富んでいますが、どれも深い思い入れがあります。コレクションの中には、学校で作ったピンチポットや、ウェッジウッドの陶器、ランサローテ島で過ごした特に思い出深い休日に仕入れたお気に入りのテラコッタポットたち、さらに、亡くなった父にもらったアンティークの陶器もいくつかあります。理由は様々ですが、どれも私にとっては大きな思い入れのあるものです。

TOMのコレクション |Photography: Anton Rodriguez

大量生産される陶器については、どのように感じていますか?

何十年にも渡り、陶器は大量生産されてきました。それはつまり、陶器が誰しも自由に手に入れられるものということであり、私はそれを悪いことだとは思っていません!陶器の多様な在り方、そして私たちが陶器に様々な価値を込めることができるというところが大好きです。

私が大きな関心を寄せ、注目しているのは、不揃いな形の皿や、色のまだらなマグカップなど、ハンドメイド品と遜色ない量産品の陶器が近年増えているという点です。

トムさんはアマチュアの陶芸家だとお聞きしましたが、陶芸を始めたきっかけは?また、始めてからどれくらいになりますか?

陶芸を始めたのは、4年ほど前です。陶器に挑戦することで、こんなにシンプルに見えるものが、作ってみるとどうしてこんなにも難しいのか、とてもよくわかってきました。このようにして、経験に基づく知識を得られたことは、今回の著書の構成を検討する上で、とても重要なものとなりました。本を出版するにあたり、陶芸活動をいったん休止しなければなりませんでしたが、執筆を終えてから、記憶を取り戻すためにろくろ成形の集中講座を一週間受講しました。再びろくろに触れた時には、とてもワクワクしました!

こちらもTOMのコレクション。日本のコケシも集めている。 |Photography: Anton Rodriguez

著書『New Wave Clay』で取り上げるアーティストは、どのように選定したのですか?彼らとは以前から親交があったのでしょうか?

選定には、とても有能な画廊オーナー、講師、学芸員、教授が数名、手を貸してくれました。私は基準を広く設定していました。まずユニークな作品であること(工場で作られたものではないこと)を基準とし、そして機能性を持たないもの(皿やマグカップではないもの)を取り上げようと思っていました。私は常に、「ニューウェーブ」とは若さだけではないという点にこだわってきました。年齢層よりも、クレイ(粘土)そのものにこだわりたいのです。

選びにくいとは思いますが、いちばん好きな陶芸作家、作品はいらっしゃいますか?その作品やアーティストをどうやって知ったのかもお聞かせください。

選べません!

今回の著書では様々な国のアーティストを取り上げていますが、この新たな陶器のムーブメントというのは、グローバルな現象だと思いますか?

そうですね、世界各地で起こっている現象だと思います。テクノロジーと電子画面が溢れかえっている中、誰もが自分の手を使い、体を動かしていた頃に戻りたいと願っています。ロサンゼルスでも、ソウルでも、ロンドンでも、世界中の誰もがそう思っているのです。

エドモンド氏との対談は非常に興味深いものでしたが、この対談が行われたのはどの時期になるのでしょうか?本を編集する上で、何か影響を受けましたか?

エドモンド氏と対談したのは、編集作業が佳境を迎える頃です。彼はとにかく魅力的な人で、様々なことに気付かせてくれますし、今回の話題についても造詣が深い。ありがたいことに、私が本にまとめようとしていた多くの考えを明確かつ確実なものにする上で、エドモンド氏の力を借りることができました。

このような本を製作する時には、あらゆる種類の様々な工房を訪ね、すぐ近くで作業を見せてもらえるというのが最も嬉しいことです。

本の中で、「どうして皆、急に陶器に興味が沸いているのだろう」と疑問に思っている人がたくさんいると仰っていましたよね。この答えについて、トムさんの意見をお聞かせください。

今は欲しいものがすぐに手に入り、タッチパネルで何でもできる時代です。しかし陶芸は正反対です。時間がかかるし、集中力が求められ、大変な労力を費やさなくてはなりません。面倒な作業なのです。比較的若い世代の人たちにとっては、この目新しさが、単純に面白いのだと思います。

陶芸の他にも、「すぐ手に入るものや、タッチパネルでできることといった慣れ親しんだものとは正反対だから」という理由で、デジタルネイティブ世代の関心を引いているものがあると思いますか?

もちろんです。陶芸の他にも「ハンドメイド」を趣味とするもっと大きなムーブメントが起こっていて、コラージュや、木工細工、編み物、パン作りに励む人が再び現れるようになりました。

陶芸の面白さとは、「ルールを破るということではなく、そもそもルールが何なのかわからないところにある」と仰ってましたが、木工、鉄工など、材料に自然のものを使っている他の工芸やアートについても、同じことが言えると思いますか?

最も根本的なところ、つまり粘土が誰にとっても馴染みのある材料であり、扱いが簡単であるという点で、木工や鉄工とは少し違いがあります。陶芸には多くのルールがあり、完璧な陶器をひとつ作り上げるにも、その過程で多くの難関が待ち構えています。しかし、粘土ほど楽しめる材料は他にありません。また、プロの陶芸家にもなれば広い空間と様々な設備が必要ですが、アマチュアで活動する限りは、安く材料を仕入れて、すぐに始められます。木工、鉄細工は、そう簡単にはいきません。

The Haas Brothers (‘Accretions’, 2016)
Image courtesy the artists

デジタルネイティブ世代が何度か話題にあがっていますが、トムさんは、彼らにどのようなイメージを持っていますか?

デジタルネイティブ世代はこのニューウェーブの鍵となっています。そこには2つの重要な理由があります。まず、人々がデジタルな時代への反発として、陶芸を始めているということ。そしてもうひとつは、インスタグラムを始めとするプラットフォームが、若い陶芸家がキャリアを積む上で、とても役立っているということです。不思議なことですが、デジタルネイティブ世代は全面的に貢献しているのです。

上の世代の陶芸家もまた、自身のアカウントを持っていなかったとしても、インスタグラムなどのプラットフォームを有効活用できていると思いますか?その場合、どのように活用しているのでしょうか?

多くの人が実際にプラットフォームを使用しています。上の世代の人たちは、マーケティングや宣伝目的であれば、インスタグラムに価値を見出していますが、人脈を広げたり、コミュニティを作ったりするためには、そこまで重要視していないように思います。この世代は、大学などで一生ものの人脈を作り、それを活用してきました。しかし(少なくともイギリスでは)高等教育の場からコースが大量に削減されてしまったため、これより下の世代はそのような人脈を持っていません。その人脈不足を補うために、インスタグラムが役立ったのです。

John Booth
Image courtesy the artist and Alastair Strong

誰であろうとインスタグラムのようなプラットフォームを使えば、得られる機会が増えるのではないかと思っているのですが、無名の陶芸家がソーシャルメディアプラットフォームを使って一躍有名になった例をご存知ですか?

はい、ソーシャルメディアで有名な陶芸家はたくさんいます。その多くがソーシャルメディアを上手に活用していて、とても素晴らしいことだと思います。しかし忘れてはならないのが、どの分野でもあることですが、ソーシャルメディアでは、才能がなくても、誰でもおしゃれなフィルターを使ったり、かっこよく編集したり、楽しげなキャプションを付けたりして、ごまかしてしまえるということです。

陶芸の場合、工芸品とアート作品の境界線はどこにあるのでしょうか?

今回の本では、このテーマを意図的に扱わないようにしました。古い世代は、陶芸作品の位置づけに強くこだわってきたため、このテーマは本当に長い間、陶芸の世界に付きまとってきました。しかしこの「ニューウェーブ」は、名前を付けたり、カテゴリーに分けたりするものではないと、強く思っています。そんなことは、誰も気にしないのではないでしょうか……。

Photography: Anton Rodriguez

では、トムさんご自身について少しお教えいただけますか?これまでの経歴など、お聞かせください。

私はイングランドの南沿岸部で生まれ、大学で芸術史を学ぶため、ロンドンに引っ越しました。これは「創作活動」に関するよりも研究者としての経歴であり、卒業する時には芸術評論家を目指していました。そして雑誌業界に飛び込んだのですが、執筆活動の方向性は徐々に変わり、カルチャーも扱うようになります。そうしてデザインエディターとして、MONOCLE誌でデザインを中心に扱うことになりました。その中で、装飾、スタイル、工芸、建築、ラグジュアリー、物質性について、そしてそれらのすべてが人々の生活に及ぼす影響について、関心を抱くようになりました。このような経緯があって、映画を作ったり、デザインに関するポッドキャストを主催したり、本を数冊執筆したりすることで、これらのテーマを紹介しています。

最後に、トムさんのような仕事に就きたい若者に、アドバイスをお願いします。

この先訪れる機会を、柔軟な姿勢で受け止めること。そして自分が興味を持ち、自分にとって意味のあるものに注目することです。そしてその中で、世界から本当に求められ、世に出す価値のあるものを生み出そうとすること。あとは、趣味を始めることです!


『New Wave Clay』

TOM MORRIS

Website:tom-morris.com
Instagram:@tom___morris


松下沙花 (まつしたさか)

アーティスト。
長崎生まれ。ニューヨーク、トロント、横浜育ち。
Wimbledon School of Art(現ロンドン芸術大学ウィンブルドンカレッジオブアート)の舞台衣装科で優秀学位を取得。その後Motley Theatre design Courseで舞台美術を学ぶ。大学院卒業後はロンドンにてフリーのシアターデザイナーとして映画、舞台、インスタレーションプロジェクトのデザインを手がけた。2012年より個人プロジェクトの制作を始め、現在は東京をベースに活動を続けている。
www.sakamatsushita.com
Instagram: @sakamat

Tom Morris is a London-based editor, journalist and brand consultant who has been writing for numerous notable publications. His third book New Wave Clay was just published and has been receiving much deserved attention. Being a collector and an amateur potter himself, Tom has been passionate about clay objects since he was young. We asked Tom about the worldwide phenomenon of new clay movement, what exactly is happening, and of course, a bit about himself.

First and foremost, why clay? What made you decide to write a book about clay?

I have always been fascinated by clay objects – when I was young my bedroom had lots of trinkets and things in it. Then, as a design journalist, I have always enjoyed writing about clay artists and potters. I noticed over the last couple of years that there was a very exciting movement happening in ceramics – lots of people were taking up the medium and doing highly original things with it. I realised a book was needed to both catalogue and investigate this.

Are you a collector of any sort of ceramics? If so please tell us a bit about your collection.

Most people can look around their home and their lives will be told in ceramic, and the same goes for me. My collection is quite varied and highly meaningful. I have a pinch pot I made at school, some Wedgwood, a favourite set of naïve terracotta pots from a particularly memorable holiday to Lanzarote, plus some antique ceramics I inherited from my late father. They all mean a lot to me, for different reasons.

How do you feel about mass-produced ceramics?

Ceramics have been mass-produced for decades and decades – it’s always been a democratic material and I don’t think that’s a bad thing! I love the diversity of what ceramics can be and the range of value we put on them.

What I have been quite intrigued to observe is the rise of mass-produced ceramics that masquerade as hand-made in recent years: wonky plates and flecked mugs etc.

I heard that you are an amateur potter. How did you start? How long have you been doing that?

I took ceramics up about 4 years ago. Making ceramics gave me a very deep understanding of how something that looks so simple can be incredibly complex to make. Having this practical knowledge was very important in helping me select the line-up for the book. I had to take a break from making ceramics in the studio in order to produce the book. After the book was finished I did a week long intense throwing course to refresh my memory and was thrilled to get back behind the wheel!

How did you select the artists for the book? Were you familiar with all of them before?

A large handful of very helpful gallerists, lecturers, curators and professors helped me with the list. My criteria were fairly broad: works had to be unique (not industrially produced) and I steered clear of the not functional (i.e. no plates or mugs). I was always insistent that the ‘new wave’ should not necessarily mean young: it is an attitude towards clay, rather than an age bracket.

I know it might be difficult to choose, but who is your favorite ceramic artist/artwork? Could you also tell me how you found this particular artwork/artist?

Impossible!

Many artists from different parts of the world are featured in this book. Do you think the new ceramics movement is a global phenomenon?

Yes, I think it’s a worldwide phenomenon. We are all so overwhelmed by technology and shiny screens that we are yearning to get back to using our hands and do something physical. That’s the same for people everywhere from Los Angeles to Seoul or London.

The interview with Edmund was very interesting. At what point was this interview conducted? Did it affect the editing of the book?

I interviewed Edmund towards the end of the process. He was utterly charming, enlightening and insightful on the matter. Thankfully, he helped clarify and support many of the thoughts that I had had putting the book together.

Getting access to all sorts of different studios and seeing work up close is one of the most pleasurable things about making a book like this.

You mentioned that many wonder ‘Why does everyone suddenly love ceramics?’. What is the answer to this in your opinion?

We live in an age of instant gratification and touch screens. Ceramics is the opposite – it takes time and concentration and physical exertion. It takes mess. I think a younger generation simply enjoy the novelty of this.

Do you think there are anything other than ceramics that is getting the attention of the digital native generation simply because it is the opposite of what they are used to-instant gratification and touch screens?

Absolutely, it’s part of the broader ‘hand-made’ hobby movement and extends to the resurgence of people doing collages, wood-whittling, knitting and baking.

You mentioned that what makes ceramics so exciting is “not simply a case of breaking rules, it’s not knowing what the rules are in the first place”. Do you feel the same about other forms of craft/art that uses natural objects as materials such as woodwork or ironwork?

Woodwork and ironwork are slightly different in that clay – in its most primordial form – is a material we all sympathise with and can easily handle. There are many rules to ceramics and plenty of hurdles that get in the way of producing a perfect piece of pottery, but there’s no other material that’s quite so much fun as muddy clay. Likewise, while a professional potter needs a lot of space and equipment, amateurs can just pick up this cheap material and have a go – wood and metalwork are trickier.

You mentioned the digital generation a few times. What is your image of them?

It’s been key to this new wave for two important reasons. On the one hand, people are taking up ceramics as a reaction against the digital age. On the other hand, platforms like Instagram have been really instrumental in helping young ceramicists careers progress. So, weirdly, it’s positive overall.

Do you think the older generations of ceramic artists are getting benefits of platforms such as Instagram as well, even without having an account themselves? If so, how?

A lot of them use it actually. I think the older generation understands Instagram’s value for marketing and publicity, but perhaps not so much for creating connections and community building. Their generation benefited from making networks at universities and colleges that they have sustained for life. The younger generation don’t have that as so many courses have been cut from higher education facilities (in the UK at least) and Instagram has helped fill that gap.

I imagined that with platforms like Instagram, there will be more opportunities for everyone. Do you know any potter who was unknown but became successful through a social media platform?

Yes, there are a number of clay celebrities on there. Many have used it to their advantage, and that’s really great. What one has to remember is that, like anything on social media, an awful lot of mediocrity can be decorated with snazzy filters, smart editing and a fun caption!

In ceramics, what is the line between craft and art?

I have deliberately steered clear of this subject in the book. It has dogged the world of ceramics for too long with previous generations quite obsessed with where pottery sits. I truly think this ‘new wave’ doesn’t label or assign categories. Who cares?

Could you tell us a bit about yourself? How did you get to where you are at now?

I was born on the south coast of England and moved to London to go to university to study history of art. It was an academic background than ‘creative’ and I graduated wanting to be an art critic. I then got into the magazine world and slowly my writing widened out to include culture before focussing on design as design editor at Monocle magazine. This brought in all my interests of decoration, style, craft, architecture, luxury and materiality – and how they all have an effect on people’s lives. I’ve gone on to tell those stories in film, hosting a podcast about design and in a couple of books.

Do you have any advice for young people who want to have your job?

Be very open-minded about opportunities that come your way and focus on the interests that mean something to you. Then try to work out, in the middle of all of that, what the world actually needs and will pay you to provide. Then take up a hobby!


『New Wave Clay』
TOM MORRIS

Saka Matsushita

Artist
Born in Japan, raised in New York City, Tokyo and Toronto.

She trained on the Motley Theatre Design Course, London UK.
Prior to Motley, she gained a BA Hons in Costume Interpretation from Wimbledon School of Art (University of the Arts).Throughout and after her studies, she worked on variety of film, theatre and installation projects as a costume/set designer.
She has been working on personal projects since the beginning of 2012 and currently based in Tokyo.
www.sakamatsushita.com
instagram: @sakamat

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