アーティストのMAGDRON(マグドロン)氏と、タトゥーアーティストの鎌田めぐむ氏によるブランド・Black Weirdos (ブラック ウィドゥ)。奇抜で癖になるようなウィット溢れるアイテムは、国内に留まらず、現在は海外でも男女問わず支持を得ている。今回は、デザイナーの一人である鎌田めぐむ氏にお話を伺った。

ブランドの始まりについて聞かせていただけますか?

ブランドを始めたのは9年前くらいです。Black Weirdosは、僕とビジネスパートナーのMAGDRON(マグドロン)の二人で始めたブランドで、現在も二人でやっています。当時僕らの周りにはブランドをやっている人たちがたくさんいました。今では結構活躍しているような人たちなのですが、そういう人達とつるんでいるなかでMAGDRONと知り合い、仲良くなってみたら似たものが好きだということがわかり、「じゃあブランド一緒にやろうか」という具合にはじめました。アマチュアバンドでライブをやろうか!というような勢いで、年に二回くらいやろうという、その媒体が洋服だっただけで。

コンセプトも、MAGDRONは美大を出てアート活動をやっているというしっかりとしたアート系で、僕は逆に刺青って不良ぽいイメージ。一見真逆の両サイドから攻めて行って、ちょうど中間のアーティスティックだけど、悪っぽいことをやろう、ということでした。タグに書いている“Man’s Ruin”、つまり“男の堕落”がテーマで、それは今も外していないですね。

ブランドを始める前からアパレルの知識などはあったのでしょうか?

僕はBlack Weirdosを始める前には、直接的に洋服のデザインをしたことはなかったのですが、姉がデザインの専門学校卒でパターンやデザインの仕事をしていたので、なんとなくアパレルはいつも近い場所にあったんですよね。その他にもグラフィックの仕事をスタイリストさんやブランドから頂いたり、プロダクトを作ったり。あとはすごく昔の話ですが、女優さんの背中に絵を描いたり。洋服は全く新しい世界というわけではありませんでした。それ以外には、地方でタトゥーショップを経営したりしていました。でもまあ殆ど海外に行ったりふらっと生活していました(笑)。パーティーばかりしていて、もっぱら遊ぶ感じでした。MAGDRONも今はアートディレクターですが、まあ肩書きはいっぱいあるのではないでしょうか(笑)なのでまだBlack Weirdosは気持ちの上では副業です。タトゥーがプロフェッショナルでこっちはまだまだアマチュアかなあと。

アマチュアにしては知名度もどんどん上がっていますね!

9年前の最初のコレクションも、別の話から始まりました。僕が元々インベスターを見つけて中目黒でギャラリーを始めていたんです。今もう無いのですが。そのディレクションをしているサイドで、ブランドも始めました。最初はグラフィックTシャツをたくさんと、一個だけ「雰囲気もの」ということで洋服を作ってた感じでした。スポンサーがその時にテイラーっぽいものや葉巻などが好きだったので、スモーカージャケットを作ったりとか。洋服を作るノウハウはなかったですね。MAGDRONにもありませんでした。

ノウハウが無いままの洋服作りってどうやっていたのでしょうか?

周りにアパレル関係者もたくさんいましたし、小さくてもやってくれそうな方々を探して。
最初は絵を描いてイメージを伝え、あちらが用意してくれたもの、生地やボタンなどに対して答える(選ぶ)というスタイルでした。最初のコレクションはちょっとお金をかけたので、たくさんの方が来てくださって。その後も二回ほど同じスポンサーの元コレクションを発表し、その後は独立して僕たちだけでやっています。今では少しスタッフも増えて、クリエイティブチームも固まって来ました。

ブランドの成長は、周りの方々も驚いていませんか?

周りも元々アーティストとしてのMAGDRONを評価していたし、僕の事も彫り師として優秀だと認めてくれていたので、こいつらが!というような驚きは無いようです。でも僕たちも含めてここまでになるとは思っていなかったので、まあ、僕らは慌てましたね(笑)でも、まだまだですね。もっとできるのかな、と思ったりしています。

Black Weirdosでのお二人の役割は決まっているのでしょうか。

テーマ作りは二人でやっていますが、その後はなんとなく役割は決まっています。テーマは基本は僕が投げて、それにMAGDRONが答えるというスタイルが多いです。テーマが決まってからは、直接絵を描くことは僕、グラフィック系はMAGDRONか僕が8割くらい作ったものを後輩などのデザイナーにお願いして綺麗にしてもらったり。言葉などはだいたいMAGDRONが持ってきます。でもブランドのさじ加減は僕が決めていることが多いかもしれません!僕の方がコミュニケーション能力高いんで(笑)そういうこともあってか僕がこういう媒体に出ちゃうことの方が多いのですが、本当にがっつり二人で上手く分担してやっているブランドなんです。

クリエイティブな作業を上手く分担できるとは相性が良いのでしょうね。

僕もMAGDRONも絵が描けるということで、お互いの言っていることがすぐイメージできます。頭の中でキャッチボールをすることで、紙面に起こすという余計なステップが省けるので、二人でやっている時は本当に楽ですね。あれってあれだよね、これってこうだよね、色もこうでしょ?みたいな。超能力に近いのかな?(笑)ただ、たくさんの人が関わってくるとそういうわけにはいかないので、最近はちゃんと紙面に起こしていますが(笑)

毎回とてもユニークで面白いテーマで作られていると思います。シーズンテーマはどのようにして作られているのでしょうか。

パターンは似て来ちゃっていますけどね〜!(笑)だいたいMAGDRONとお酒を飲みながら、すごいストーリーを作るのですが。ストーリーというのは身近なところからインスピレーションを得ています。今回のカトマンドゥも、冬にアロハってなんかいいよね、でもハワイって冬も暑いし・・じゃあ山の上の寒いところの設定にしよう!みたいなノリで始まり、あとはその話に肉をつけたり減らしたりの作業です。とかいって、結局僕がこの前ネパールに行って、ハワイにも行ったからだと思いますけどね!(笑) でもまあ、毎回同じ手法ですね。テーマを作って、登場人物とか、その人の性格とかを決め、そのテーマに沿った言葉をはめていく。軸のある世界観が大事なので、そこを中心に肉付けをし、そこから洋服が出来ています。

BLACK WEIRDOS 19SS

なるほど。Black Weirdosって不良っぽいけど行き過ぎていないというか。そのさじ加減が良いですよね。

まさにそこなんですよ!(笑)まあタトゥーアーティストの作るアパレルでありがちなのは、アメカジからのテーラー系、ヒッピー系、若しくはがっつり刺青系か。僕はそれが嫌いなんですよね。なのでそこは意識しています。デザインも一回盛り盛りにしたりするんですけど、そこから引いています。絵だったら描いてみたりもして、重さをみます。ただ、引くバランスって時代もありますよね。盛り盛りのままで良い時もありますし、引き気味が受け入れられる場合もありますから。

でも時代やトレンドって気にしていないように見えます。

はい、無視しています(笑) 我が道をゆくブランドではあると思います。僕たちの洋服を「飛び道具」みたいに思ってくださればいいなと考えています。全身のコーディネートが揃うブランドというより、普段のコーディネートに僕らのブランドアイテムを一つ入れて欲しいなと言う感じです。そういうのもあり、最初にやってた頃は15型くらいだったのですが、全員主役みたいな洋服でした。現在は型数が増えた分、少しふわっと着れるアイテムも作っているのですが、それはどちらかというと売れません(笑)

洋服以外のアイテムも作られていますが、あまり洋服というものにこだわっていないのですか?

そういうわけではなく、単純にそういうアイテムも作ってみたくて。僕らのコレクションにはいつも「面白ネタ枠」があって、洋服だけでは無いアイテムも作ったりしています。レディースも少し展開をしていたのですが、実は最初にそのネタ枠で一度作った水着の反響がよかったので始めてみたんです。けれども、僕らのブランドが好きな女性って別にレディース物を求めているわけではないと気づいたので、やめて面白グッズに戻ろうかなという話になっています(笑)今後はレディースを無理やり作るよりは、サイズパターンを増やす方がいいのかなと考えています。

そうなんですね。コレクション自体のボリュームも年々大きくなってきたように見えます。

そうですね。3年前まではワンラックくらいだったのですが、今は40型以上になりました。でもそれはブランドが大きくなったからというわけではなく、タイミングで変えています。ただ、自分たちで考えるのはこれくらいがマックスかなと思います。これ以上になると僕たちも本業の方ができないので、その場合は若手の企画などを入れてもいいかなと考えています。

そうですよね。めぐさんはタトゥーアーティスト、MAGDRONさんはアートディレクターとしての別の顔がありますね。その両立は大変では無いのでしょうか?

面白いことに、Black Weirdosとしての僕を知ってくれた人がタトゥーを入れたいと言ってくれたり、まあ逆は少ないですが、僕がタトゥーを以前入れさせていただいた方が、Black Weirdosを着てくださったり。相乗効果というのでしょうか。片方が調子が良いと、もう片方も上手く行ったりしますね。

タトゥーとファッションって繋がりはあるのでしょうか?

僕はタトゥーアーティストにしてはこだわりも強くないですし、頑固でもないので、そちらの業界では変わり者かなと思います。
タトゥーとファッションって本当はあまりマッチしないんですよね。海外の彫り師なんて特にそうですが、「け、ファッションかよ、男らしくねえな」みたいな人も多くて(笑)でもそんなの知ったこっちゃ無いですよね。もともと何かに文句を言いたいような人は、そこを見つけて文句を言うんでうよね。僕にはそんなの関係ないし、そういうことすらも、面白く出来ないかなと考えています。かっこ悪いと思われていることも、自分のさじ加減でかっこよく見えたり、自分がやることでかっこよくならないかな?と。そう言う風に考えたりしていて。

めぐさんはすごくフレキシブルですよね。

そうですね。ただ、自分だけでやっていたら、こうもならないですけどね。パートナーがいるから面白く捉えられるのだと思います。まあお店を持っていたら、そう人に向けて、ただただ、厳ついアイテムをあえて作っても面白いかなとか思ったりもします。わざとタトゥーっぽいやつを作って、それをちょっと厳つい感じのお店さんにおろしてもらって、まあ冗談で作ったけど、わあ!売れちゃった!みたいなのも楽しいかなって(笑)だってオシャレ層よりイカツイ層の方多いのでって戦略的にね(笑)

何度も言いますが、本当にフレキシブルですね(笑)

タトゥーも、隠してくれと言われたら全然隠しますよ。友人の中には、隠すなんておかしい!そのままの自分でいるべきだ!という人もいるのですが、僕はそんなの全然こだわりがないので全然オッケーです(笑)もちろん自分が好きでやっている事なのですが、それを不快に思う人がいることも理解出来ます。犯罪者とか、刺青入っているというのがすごくフォーカスされたり、まだまだ馴染みのないカルチャーだから、もしそれが心配要素を作る材料になったりするのならば、隠しますよ(笑)そういう、良い嘘ならいいじゃないですか。僕が隠して不快な人の方が、出してて不快な人より少ないなら僕はそれでいいです。

だからそう言う感じでいうと、同業の人なんて隠さないと思いますし、僕は柔軟なんだと感じています。そこにポリシー持っていても生きにくいですし、細かい事にロックオンし過ぎて、生きづらそうな人もたくさん見てきました。僕はそういうのは、しみったれてて嫌だなと思って(笑)

最後に、若い世代にアドバイスはありますか?これはやらない方がいいよ!という意見でも!

結局、洋服作り一本やっている人たちは売れ線を考えなければならない、生活を考えなければならないという事があると思います。けれども僕たちは副業という感覚で始めたブランドなので、思い切り博打を打てるというか。奇抜なことだけやってみる事ができる。そこがうまくいった秘訣であるのかもしれないです。

まあでも、僕の人生は失敗ばかりですよ。具体的な失敗例と言われても、成功の頭でいたので、思い出せないですけどね!(笑)あまり人の為にやったり、人に流されているとよくないと思います。僕らも他の人に言われたことで、目から鱗だと思って言うことを聞いちゃうと、売れなかったりという経験などがあります。だから、軸をずらしたらダメなんだと考えています。自分の意思がない時は失敗しますよね。自分の意思でやった方がうまくいくし、もし失敗してもああ、駄目だったんだで終われるじゃないですか。誰かの意見で進むと、人のせいにしてしまったりもしますしね。だからその時その時に、なにか違うな、と思っているとは言わなければならないと思います。ただ、人を信用することも重要なので、さじ加減が大事ですね。


Black Weirdos

松下沙花 (まつしたさか)
アーティスト。
長崎生まれ。ニューヨーク、トロント、横浜育ち。
Wimbledon School of Art(現ロンドン芸術大学ウィンブルドンカレッジオブアート)の舞台衣装科で優秀学位を取得。その後Motley Theatre design Courseで舞台美術を学ぶ。大学院卒業後はロンドンにてフリーのシアターデザイナーとして映画、舞台、インスタレーションプロジェクトのデザインを手がけた。2012年より個人プロジェクトの制作を始め、現在は東京をベースに活動を続けている。
www.sakamatsushita.com
instagram: @sakamat