1994年にカリフォルニアで開廊した、現代美術ギャラリーのBLUM & POE(ブラム・アンド・ポー)。

日本人の所属作家は、日本を代表する現代アーティストである奈良美智や村上隆をはじめ、世界で注目されている戦後の芸術運動「もの派」の菅木志雄、関根伸夫、小清水漸、そして現在世界的な注目を高めている、今秋にLAの同ギャラリーでの初の展覧会を控えている五木田智央など、現代美術を語るにあたり外す事の出来ないギャラリーの一つである。

BLUM & POE 東京ディレクターのアシュレイ・ローリングス氏。横にあるポートレートは、取材時に開催中の展覧会の作家ヘンリー・テイラーによるもの。(*展覧会はすでに終了)ヘンリーは東京に滞在中、BLUM & POEのスタッフをモデルにポートレートを数枚描かれたそう

オーナーであるティム・ブラムとジェフ・ポーは、近年の「世界で最も影響力のあるアート関係者100人」の上位に常に入っている。そんな世界的に知名度の高いギャラリーであるBLUM & POEが東京スペースをオープンしたのは、2014年9月。東京スペースでは、所属作家による展覧会の他、リチャード・プリンスによる物議を醸し出した、他人のインスタグラム写真を利用したキャンバス作品の「New Portraits」展や、ファッションの印象が強かったヨルゲン・テラーの現代アーティストとしての個展など、様々なプログラムを展開してきた。しかし、原宿の駅前にあるギャラリーの存在をまだ知らない人は、未だたくさんいるのではないだろうか。

5月中旬、BLUM & POEでは若いアートコレクターやアーティスト、アート関係者などを集めたプライベートカクテルパーティーが行われ、DIRECTION編集部も参加させていただいた。敷居が高そうなインターナショナルギャラリーのパーティーは、思ったよりもずっとカジュアルだった。ロサンゼルスっぽさを感じさせるフローズンマルゲリータカクテルに、ナチョスをつまみながら、BLUM & POE 東京のマネージャーである今井麻里絵氏にアートを買うということについてのお話を伺った。

BLUM & POE東京マネージャーの今井麻里絵氏。自身がモデルになった、ヘンリー・テイラー作のポートレートと共に

BLUM & POEのことを知らない読者に向けて、ギャラリーの歴史を簡単にご説明いただけますか?

今井氏:BLUM & POEは、1994年に開廊したロサンゼルスの現代美術ギャラリーです。東京スペースは、2014年9月にオープンしました。日本人作家との繋がりが多い画廊であるということもその理由の一つでしたが、東京のカルチャーハブとしての重要性というのも、開廊を決めた理由のきっかけでした。特に、オーナーの一人のティム・ブラムは、90年代に東京に住んでいたこともあり、肌感覚で東京カルチャーに触れていたからこそ、そのポテンシャルを知っており、その当時から日本人作家との関係性を築いてきた歴史が、東京でのスペースオープンという流れに繋がったのだと思います。

ギャラリー全体としては、欧米、アジアの作家を中心とした所属作家とのプロジェクトをはじめ、幅広いジャンルにまたがった展覧会企画を展開しています。キュレーターを迎えて行われた、日本発の「もの派」、韓国発の「単色画」、ヨーロッパ発の「コブラ」といった戦後の美術動向についてのグループ展開催は、美術史的な議論の上でも高い注目を集めました。また、来年には、キュレーターの吉竹美香さん(2010年の「もの派」展も彼女のキュレーションによるもの)による80年代、90年代の日本美術に焦点を当てた展覧会をLAで開催予定です。

その一方で、カニエ・ウエストによるポップアップ展「Famous」や、作家リチャード・プリンスのキュレーションによる「ハイタイムズ」という大麻専門誌にフューチャーした展覧会など既存の枠組みを越えた展覧会も意欲的に開催しております。東京では、引き続き所属作家を紹介する試みと同時に本国と同様、意欲的な企画を行っていきたいと考えています。また、作家も含め来日するゲストに東京という都市をもっと知ってもらうために「BLUM & POE 東京ガイド」制作といったプロジェクトも現在進行しています。

今回のイベントの試みとは?そして、日本でなぜこのようなイベントが必要だと思いますか?

今井氏:東京に出店してきた日本人作家を扱う欧米のギャラリーというと、黒船的な印象を持たれてしまうこともあるかもしれませんが (笑)、もっと東京という街に根づいて、ローカル性を持ちながらもインターナショナルな企画を展開して行くことで双方向的に活性化していくことが理想です。そのためにも、BLUM & POEというギャラリーや紹介する作家たちをもっと知ってもらおうという意図のもとに今回のイベントを開催しました。またさらに言えば、コマーシャルギャラリーという存在自体もまだまだ、どんな機能をもっているかまだまだ知らない方が多いと思います。欧米のように美術作品をコレクションするという文化をライフスタイルの延長としてもっと浸透させていくためにも、今回のようなイベントは、幅広い方々との接点や広報の一つとして重要だと思います。

BLUM & POEでアートを買うというのはなかなか敷居が高そうという印象があるのですが、若いコレクターでも買えるようなものはあるのでしょうか?

今井氏:BLUM & POEでは、億を超えるような作品もありますが、7万円台で買える小さなドローイングもありますよ!

では、これからアートを買いたいと思っている方に、アドバイスなどはありますか?
そもそもアートコレクションはどのように始めたらいいのでしょうか? また、何を買えばいいのか、どこにいけばいいのかなど悩んでいる人もたくさんいると思うのですが。

今井氏:まずは、興味のある展覧会やギャラリーに足を運んでいただき、ギャラリーのスタッフを捕まえて、気軽に質問したり、コミュニケーションすることから初めていただければと思います。ギャラリーでも配布している美術情報誌「Guide」やウェブを中心に展開されている「Tokyo Art Beat」といった展覧会紹介にフォーカスした美術メディアもあるので、どんどん活用していただきたいです。

また、現代美術、工芸、ジャンルは違えど、多くのギャラリーで展覧会初日に行われるオープニング・レセプションでは、作家も在廊することが多く、どなたでも来場可能な場合が多いです。そういった場は、直接作家とコミュニケーションできる絶好の場だと思います。

例えばハイブランドのバッグや靴を買うように、美術作品を買うような文化が日本でももっと根付くといいと思いますし、作家や作品の魅力と共に、作品を所有する楽しさも伝えていくことがギャラリーの使命であると思っています。変に構えずに、自分の暮らしの中に寄り添える、愛おしいと思えるピースを手に入れる事が、コレクターへの一歩なのではないでしょうか。作品を買うことで、作家への興味がわき、ひいてはその背景にある思想や、社会的な事象までどんどん興味の連鎖が繋がっていく、ただモノを買って消費するということとは全く異なる世界の広がりを得られることが美術作品を手に入れることの魅力であると思っています。

Tony Lewis: Jot Installation view, 2017 Blum & Poe, Los Angeles Photo: Joshua White © Tony Lewis, Courtesy of the artist and Blum & Poe Los Angeles/New York, Tokyo

BLUM & POEの注目の作家さんを教えてください。

今井氏:現在、東京オペラシティギャラリーで個展を開催中の作家、五木田智央さんは、国内外でもすでに非常に高い注目を集めてきましたが、今秋BLUM & POEのロサンゼルスで個展の開催が決定しました。日本の2010年代を代表する作家といっても過言ではない、五木田さんの今後の西海岸でのB&Pとの展開もとても楽しみにしています!また、日本ではまだ紹介されていないですが、80年代生まれの若い世代の作家トニー・ルイスやミミ・ローターといった近年米国内を中心に注目を高めている作家も今後紹介していければ、と考えています(トニー・ルイスは昨年展覧会を開催、ミミ・ローターは現在LAで展覧会開催中)。

現在の展覧会の作家ヘンリー・テイラー(*展覧会は終了しています)について教えてください。

今井氏:ヘンリー・テイラーはロサンゼルスを拠点に活動する作家で、明るい色彩で即興的に描かれた様々な人々を捉えたポートレイト作品でよく知られています。その一方で、昨年のホイットニー・バイエニアルで発表した、白人警官による黒人の青年の銃殺事件をモチーフとして描かれた作品に見られるように、現代に生き、作家として活動する以前には病院で介護士として働き、過去にはホームレスになった経験もあると話す、彼のアフリカ系アメリカ人としての視点を取り込んだ作品も生み出しています。

ヒエラルキーのない作家の持つユニークな眼差しから生み出される作品群は、近年、世界的にも非常に高い評価を得ています。私たちにとって念願でもあった、日本で初の展覧会開催となる本展では、「旅」をテーマに、世界各地で作家が出会い、親近感を覚えた人々をモデルに即興的に描いたポートレイトを発表しています。今回の滞在中も、新宿の世界堂で画材調達し、東京で出会った人々のポートレイトを制作していました!ロサンゼルス発のギャラリーとして、彼のような地元を拠点とした素晴らしい作家を日本で紹介でき、多くの人々に展覧会に足を運んでいただけてとても嬉しく思っています。

BLUM & POE TOKYOで現在開催中の展覧会について教えてください。

今井氏:現在は、アニエス・ヴァルダによる「Bord de Mer」展を開催中です。
昨年のオスカー名誉賞受賞をはじめ、映画界でのヴァルダのキャリアは語るまでもないですが、本展は、美術作家としての側面にフォーカスした展覧会となります。中心となる「Bord de Mer」と題するインスタレーション作品に登場する海岸というモチーフは、作家の人生における心象風景のようなものであると言えます。また、同作品に加え、映画監督として活躍する以前の初期のヴィンテージプリントも展示しています。映画、写真、インスタレーションと、媒体は変わっても、数々の作品に通底する作家の眼差しや創造性というものを感じていただければと思います。


現在開催中の展覧会

アニエス・ヴァルダ
『Bord de Mer』
2018年6月12日(火)~8月4日(土)


Blum & Poe
東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森5F
Harajuku Jingu-no-mori 5F, 1-14-34 Jingumae, Shibuya-ku, Tokyo
03-3475-1631
blumandpoe.com