植物と人間の様々な関係性をカラフルに表現する絵画シリーズを制作している、現代美術家の平子雄一氏。彼の作品を前にすると、空想の物語に迷い込んだかのような不思議な世界のなかにどこか懐かしさや親しみの感覚が生まれてくるのは、日常のさりげない風景を見つけることができるからだろうか。

海外でも活躍する平子氏に、渡英するまでの話、植物との関わり、そして現在開催中の、東京オペラシティアートギャラリー project Nの展覧会についてお話を伺った。

幼少期から渡英されるまでのお話をお聞かせください。

平子氏:周りには何もないような岡山県の田舎で育ちました。家族に美術関係者は一切いなかったのですが、小さい頃から漫画やアニメなどの影響から、絵を描くことが好きでした。小学校の頃は、漫画本のページをモノクロコピーし、トレーシングペーパーでトレースするという遊びを考案し、かなりの枚数を描いたと思います。ジブリ作品も大好きでセリフも全部言えるほど見ていました。テレビ放映を録音して見ていたので、間のCMの台詞まで全て丸暗記していましたし、全てのシーンを描くことができたと思います。アニメも面白いなとは思っていたのですが、一枚一枚シーンを描くと言う制作の工程がなんとなく自分には合わないのかもしれないと子供ながらに感じていましたね。

高校生になると、授業をさぼって美術部の部室にこもり、絵を描いていました。当時は佐伯祐三とゴッホの間のような、コテコテの油絵を描いていました。進路について考える時期になった時に、日本で美大を受験するにはデッサンをやらなければならないとはわかっていたのですが、その様なシステムに沿って受験をしたとしても、自分の目指すゴールに辿り着けるのだろうかと疑問を感じていました。そんな時に、岡山の数少ない洋書店でYBA(Young British Artists ー ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の本に出会い、彼らの自由な活動について知り、イギリスで学ぶという可能性が僕の中に芽生え、周りに進路の相談もせずに一人で留学を決意しました。その後高校を3年生の夏休みに中退し、イギリスに渡り、その年の9月から大学に入りました。まだ17歳でした。

イギリスでは、BAの前に必ずファンデーションコースという、様々な美術の勉強をするコースがあります。そこでペインティング以外の勉強もしましたが、目移りをすることはありませんでした。僕にとっては、ペインティング以外は楽しくなかったんです。勿論他の表現方法に対する興味も多少はありましたが、ペインティングほど楽しさを感じられませんでした。快楽を求めるタイプなのかもしれません(笑)。

憧れて行ったロンドンはいかがでしたか?

平子氏:なんて天気の悪い街だと思いました(笑)。
美術面では、最初は合っていなかったと思います。イギリスの美術はコンセプト重視であり、作品作りのベースとして揺るがないコンセプトを作るということが基本とされているのですが、そういうものがあるということはロンドンに行くまでは全く知りませんでした。ロンドンに行き初めてコンセプチュアルアートについて学びましたし、大学の先生からもコンセプトを重視するようにとたくさん指導を受けました。最初はなんて面白くないことをやらせるのだろうと反発していましたが、強固なコンセプトを作るということを学んだことは、今はすごく役に立っています。

僕はずっと同じテーマで絵を描いているのですが、ビジュアルや表現方法を変化させているので、コンセプトがちゃんとしていないとどんどん作品がぶれていくんです。僕のように、描き方やタッチのバライエティや表現モードがいくつもある場合には、コンセプトをアンカーのように軸に置きやっていかなければなりません。そうすることで初めて「方向性のなかにあるバライエティ」が引き立つのだと思います。それはイギリスで叩き込まれたので、今は無意識に出来ているのかもしれません。

植物と人間の関係性をメインのテーマとして作品作りをされていますね。どのようにしてこのテーマにたどり着いたのでしょうか?

平子氏:植物と人間の関係性に興味を持ったのは、幼少期を岡山の田舎で過ごし、自然の中で遊ぶということが当たり前だったということがまず最初に上げられる理由だと思います。それが、渡英し初めて都市に住み、都市には独特の植物との関係性があるということに気付きました。都市では自然は作られているということです。そして自然を感じる為には人の手を加えなければならない、ということに矛盾を感じました。都市にいながら自然を求めたいと思う人の気持ちも理解できたのですが、それならばなぜ田舎に行かないのか。なぜ都市で自然を感じたいのか、それに費やす労力とは何なのかと、都市における自然のあり方に対する疑問点や矛盾点が膨らみ、そこからスタートしました。矛盾を受け入れ、画面で表現したらどうなるのか、強調して構築することによって何が起こるのかが見てみたかったのです。

その後色々調べて行くと、自然と植物の接点は誰の中にも常にあるということに気づき、更に面白いと思うようになりました。例えば化学の知識や情報は一定の人にしかないけれど、植物に対する意見や思想は誰の中にも緩やかにあるんです。そういう状況をビジュアル化したらどうなるのかと試しているうちに、僕の絵によく出てくる “半分人間、半分植物” のキャラクターが生まれました。2008年頃から描いているのですが、名前はありませんので、みなさんが自由に付けてくださればと思っています。それくらいの距離感で描いています。

距離感というのは?

僕はある意味、この植物と人間の関係性を少し冷めた目で見ていると思います。僕の中で植物は動物と同じような生き物であり、特別なものとしての意識があまりありません。だからこそ、人間と植物の関係は、僕にとっては状況としては不安定に感じます。例えば自然を愛でるという行為。なぜ愛でる必要があるのかと思ってしまうのです。木目を生かした家具で自然の温かみを感じるというものも、不思議に感じます。僕にとっては木目って人間でいう血管なので、ただ血管が張っているようにしか見えないんです。

僕は、植物は人間よりも偉大な存在ではなく、人間と共存しているものと捉えています。あくまでも人間とイコールの存在であると考えています。植物を動物として見ているかのように冷静になってしまうのかもしれません。そういう意味で少し距離を持っているという表現をしました。

近年の作品には、植物に加え、食事のシーンがたくさん描かれていますね。

平子氏:緩やかに登場したのが3年くらい前で、最近は特に多いですね。自分でも分析しきれていないのですが、食べることやテーブルの上で何かをするという行為がとても人間らしいと感じていて、人間らしい要素の一つとして画面に取り入れたいと思ったのがきっかけです。

もう一つの理由としては、植物との関係をわかりやすく象徴しているものの一つとして野菜を描いているというのもあります。食用としての野菜は『食べる』というゴールを設定した上で植物を育てるという、非常にわかりやすい植物との関係ですよね。

それとは別に、わかりやすくない植物との関係もあります。公園や街路時の作られた自然や生け花とかギフトの花は、癒しということをゴールとして設定しているにも関わらず、状況、関係がぶれていると思います。本来「愛でる」や「癒す」という目的があったものが、単なる習慣になったり、意識されなくなって当たり前になってくる現象などを、曖昧で矛盾点がある植物との関わり方と捉えています。

もっとわかりやすい例でいうと、盆栽が流行ったときに買った盆栽を、数年後に見て「あれ、なんでこれ買ったんだっけ?」と思う感覚ってありますよね。ふとしたことで関わった植物との関係性の残留。そういうのが好きなんです。食事のシーンが増えた理由は、先ほど話した野菜などで言える植物とのクリアな関係と、いま話したぶれている関係を組み合わせることが面白いと感じているからだと思います。

様々な関係性の組み合わせとは、コラージュを作っているような感覚でしょうか?

平子氏:そうかもしれないですね。色々な植物との距離感のコラージュかもしれません。植物との関係は様々ですよね。大切にしたり、壊したり。僕はどれも好きなんです。なので僕は自然愛好家でもないです。自然愛好家は好きですけど、自分自身がそういうわけではないです。そのような植物との様々な関係性を対立させたり、ひっくり返したりと、画面上で「意味のコラージュ」を作っているのだと思います。植物は残そうと思えば残せるけれど、破壊しようとしたら破壊できる。自分の方がパワーが大きいこともあれば、植物の方が大きい時もある。常に僕の中ではイコールなんですね。なので画面もイコールに作ることを心がけています。外でもない、部屋の中でもない、植物でもない、人間でもない、イコールです。


今回の展覧会では、幾つものペインティングが繋がっていますね。

平子氏:今回は廊下のような細長いスペースでの展示だったので、オーディエンスに僕の作品を順番に見せられる機会だと思いました。僕は先ほどお話しした、様々な植物との状況や距離感を一つの画面でまとめて出している時もあるのですが、今回はそれぞれのキャンバスでシチュエーションを変えて描き、それを緩やかに繋げることで一つの作品として見せています。繋げた理由は、シチュエーションは違っても、違うことを表しているんじゃないと伝えたかったからです。

今回は白黒作品にも挑戦していますね。

平子氏:はい。五木田さんが別のフロアで白黒作品を展示されているので、五木田さんへのリスペクトという意味でも挑戦してみました。頭の中で色を明暗に置き換えたり、携帯で色を白黒変換してみたりと、白黒作品ですが作るときも色を意識しながら描きました。カラフルな作品以上に微妙なグラデーションをコントロールしないとけないのが大変でしたがとても楽しかったです。

それでは最後に。これから日本でペインターとして生きて行くことに対してはどう思われますか?

平子氏:僕は現在国内での売り上げが全体の一割か二割で、あとは海外で作品が売れています。日本のアートマーケットは世界と比べると小さいし、女性アーティストも少ないですし、企業からのコミッションもまだまだ少ない方だと思います。海外でも「なぜ日本という経済大国なのに、アーティストはそれだけではやっていけないのか?」とよく言われます。でも、僕はこれはラッキーな状況であると思っています。こんなに恵まれた国なのにこんなに絵が売れないという!「こんなに良いもの描いているのに売れない!」と。他の国だと、こんなにもハングリーになれるところはないですよ!だから僕にとっては良い環境です。

もう一つ常に思っているのは、良いものをたくさん作り続けるということです。量より質、という考えもあるかもしれませんが、量をこなすことで質も上がると思います。たくさん描かなければ、良いものも生まれない。だから僕は、これからもたくさんの作品を作っていこうと思っています。


平子雄一 (ひらこゆういち)

1982年岡山県出身。Wimbledon School of Art(現ロンドン芸術大学ウィンブルドンカレッジオブアート)Painting学科卒業。現在東京を拠点に活動中。主に日本、台湾、フィリピン、デンマーク、オランダ、アメリカで作品を発表。受賞歴として、VOCA展2013奨励賞(2013年)、トーキョーワンダーウォール賞(2010年)などがある。

information

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2018.4.14[土] ─ 6.24[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日:月曜日
入場料:企画展「五木田智央 PEEKABOO」、収蔵品展062「日常生活|相笠昌義のまなざし」の入場料に含まれます。

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)


松下沙花 (まつしたさか)
アーティスト。
長崎生まれ。ニューヨーク、トロント、横浜育ち。
Wimbledon School of Art(現ロンドン芸術大学ウィンブルドンカレッジオブアート)の舞台衣装科で優秀学位を取得。その後Motley Theatre design Courseで舞台美術を学ぶ。大学院卒業後はロンドンにてフリーのシアターデザイナーとして映画、舞台、インスタレーションプロジェクトのデザインを手がけた。2012年より個人プロジェクトの制作を始め、現在は東京をベースに活動を続けている。
www.sakamatsushita.com
instagram: @sakamat


All photos by Misa Nakagaki
中垣美沙
雑誌や書籍を中心に撮影し、自身の作品制作も行う。
http://misaphotos.com