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ART & DESIGN

心地よいフラクタル:海の波からジャクソン・ポロックのアートまで

Feel-good fractals: from ocean waves to Jackson Pollock’s art

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Photo by Josh Withers on Unsplash

10歳のリチャード・テイラー少年がジャクソン・ポロック氏の作品に出会ったのは1970年代初頭のイギリスだった。彼は心を奪われた、というか「ポロック熱にかかった」というべきか。18世紀の外科医で、変わり者だったフランツ・メスマー氏は、無生物と生物の間に動物的磁気が存在するという仮説を提唱した。ポロック氏の抽象芸術作品もまた、見る者を特定の精神状態に導くと見られている。現在、オレゴン大学の物理学者となったテイラー氏は、ポロック作品が特別である理由を解明したと考えている。その答えは、人間の幸福と深いかかわりがある。

職業人としての彼は、常にこの問題にかかりきりだったわけではない。テイラー氏の普段の仕事は、河川システムや肺気管支、そして皮質ニューロンといった複数の「支流」を持つ構造物において、最も効率的に電気を運搬する方法を探すといったものだ。電流がテレビなどの物体で動く際、電子の流れは秩序だっている。しかし、より新式の小型デバイスは原子のわずか100倍程度の大きさしかなく、電流の秩序が崩れてしまうのだ。秩序だったカオスといったほうが近い。電流のパターンは、肺の気管支やニューロンと同様に「フラクタル」なものだ。これは、(同じ形状が)サイズや規模を変えて何度も出現する、というものだ。現在、テイラー氏は「バイオインスピレーション」を使って、改良型のソーラーパネル設計している。自然界のソーラーパネルと言える木々や植物が枝状に分化しているなら、工業生産されるパネルがそうしない理由はないだろう。

Photo by NCinDC / Flickr

テイラー氏は自身について、問題解決のために分野を飛び越えて思考するタイプだと表現する。彼は物理学者という肩書のほかに、美術の上級学位を持つ画家、写真家でもある。彼はキャンパスの周辺では、少々エキセントリックな人物として知られている。彼は考え事をするときなど、よくオレゴン州のウォルド―湖でボートをこぐ。そして彼の髪もまた、乱心状態のようだ、と有名だ。長くてカールしており、全盛期のアイザック・ニュートン独特な巻き毛に似ている。実際に大学の広報課が出版物から合成写真を作成したこともある。

彼のキャリアには紆余曲折があったものの、テイラー氏がポロックへの強迫観念ともいえる関心を失うことはなかった。マンチェスター美術大学在籍中、彼はグラグラして風が吹くたびにペンキをまき散らす振り子を作った。「自然」に任せたら、どのような図が描かれるのか、また最終的にポロックの作品のようになるのかどうか、見てみたかったのだ(実際その通りになった)。そして数年前、ナノエレクトロニクスに取り組んでいるときも、彼には画期的な考えが浮かんできた。「フラクタルな模様を見れば見るほど、ポロックの水彩画が頭に浮かんだのだ」と彼はエッセイで語っている。「そして彼の絵を見た時に、絵の具のしぶきが、デバイスを流れる電流のようにキャンパスに広がっていることに気がついた」。

テイラー氏が電流測定用の機器を用いて1950年代のポロック作品群を調べたところ、確かにそれらの絵画はフラクタルであることがわかった。これは、大好きな叔母が秘密の古代言語を話していることに気づくのと、少し似ている。「ポロックは科学的発見よりも25年前に、自然のフラクタルを描いていたのだ!」と彼はいう。テイラー氏は1999年、科学誌「ネイチャー」でこの発見を発表し、芸術と物理という2つの世界に一石を投じた。

「フラクタル」という言葉が生まれたのは1975年のことだ。数学者のブノワ・マンデルブロが、一見複雑あるいは混沌としている膨大な数の事象に、単純な数学的規則を当てはめられることを発見したのだ。彼が証明したように、フラクタルなパターンは、雲や海岸線、植物の葉や波、ナイル川の起伏や銀河の星団など、自然の粗さの中で発見されることが多い。規模の異なるフラクタルパターンを理解するには、木の幹や枝を描いてみるといい。枝同士や、小さな枝、そして枝につく葉の収束静脈までが同じアングルで並んでいるだろう。カオスのように見えて、フラクタルなものが集まってできているのだ。

テイラー氏には、疑問に思うことがあった。「人間がフラクタルなものに惹かれる理由を、ポロックの作品に見出すことができるだろうか」ということだ。また、脈動するスクリーンセーバーやプラネタリウムのライトショーなどの事象を説明できるかどうか、ということも知りたかった。本当に偉大な芸術作品を、いくつかの非線形方程式に還元することができるのだろうか?これは物理学者ならではの疑問だろう。そこでテイラー氏は、ある実験により、同様のフラクタル幾何学を用いた画像を見た人間が、どのような生理学的応答をするのか測定した。人の皮膚コンダクタンス(神経系の活動の指標)を測定した結果、人は数学的フラクタル次元(通称D)が1.3と1.5の間にあるコンピュータ画像を見ると、ストレスが60%軽減することがわかった。Dは大きく粗いパターン(飛行機から見た海岸線や木の主幹、ポロックが大きな筆で描いたしぶき)から細かいもの(砂丘、岩石、枝、葉、ポロックが小さな筆で描いたしぶき)までの比率を図ることができる。フラクタル次元は通常、1と2の間の数値として表記され、画像が複雑になればなるほど、Dの値は高くなる。

次に、テイラー氏は人間の審美的知覚を専門とするスウェーデンの環境心理学者、キャロライン・ハガホール氏とともに、一連の自然写真を変換し、空を背景にした地形のフラクタルなシルエットを作成した。その結果、人は中度から低度のD(1.3〜1.5)の画像を圧倒的に好むことがわかった。その次元が特定の精神状態を誘発するかどうかを調べるため、脳波計(EEG)を用いて、幾何学的フラクタル画像を見ている人の脳波を測定した。そこで明らかになったのは、ある特定の「次元のマジックゾーン」において、被験者の前頭葉がアルファ脳波を生成しやすいということだ。これは、、睡眠以外のリラックス状態に見られるもので、画像をわずか1分眺めた場合にも確認できた。

EEGは波や電気周波数を測定するもので、脳内の活動領域を正確にマッピングするものではない。そのため、テイラー氏は機能的なMRIに目を向けた。MRIを使えば、脳内の血流を画像化し、もっとも活動的な領域を知ることができる。予備段階の結果を見ると、予測通り、中規模のフラクタルによって腹側皮質(高レベルの視覚処理の関与する)や空間的長期記憶を記録する背側皮質など、複数の脳領域が活性化した。しかしこれらのフラクタルは感情のコントロールに関連する海馬(音楽を聴いているときも活性化)とも関連性がある。テイラー氏にとって、これはクールな発見だ。「中規模のフラクタルが音楽と類似しているとわかり、我々はうれしく思った」と彼はいう。言い換えれば、海を眺めることとブラームスを聞くことは、感情に似たような影響を与える可能性があるということだ。

テイラーは、我々の脳が自然界との親密性を認識していると考えている。ポロックは、木や雪の結晶、そして鉱脈に似た次元を好んでいた。「我々はポロックのパターンをコンピュータで分析し、それを森林と比較してみた。結果は、完全に一致した」とテイラー氏はいう。この次元によって我々の心が落ち着くだけでなく、人とつながり、人を畏怖し、自己反映することができるのだ。

Photo by Carmine De Fazio on Unspla

しかし、なぜ中間的な値のD(パターンの比率には大小の幅があったことを思い出してほしい)が多くの人から魔法のごとく、非常に好まれるのだろうか。テイラー氏とハーゲルハル氏の理論は非常に興味深く、必ずしもアルカディアのロマンチックな憧れと関連性があるわけではない。肺、毛細血管およびニューロンだけでなく、人の体にはフラクタルに枝分かれするシステムが他にもある。それが、目の網膜の働きによって現れる視覚システムだ。テイラー氏は視線追跡機を用い、ポロック絵画などの画像を映し出した際、人間の目はどの部分に焦点を当てるのか、を正確に測定した。すると、瞳自体がフラクタルといえるサーチパターンを見せた。目はまず場面の大きな要素をスキャンし、それからスキャンした対象よりも小さなものへとミクロに視線を移す。これは中間的なDで行っている。興味深いことに、動物が食べ物をあさる際、たとえば海を見渡すアホウドリでも、同じようにフラクタルなサーチパターンを見せる。これはただ、効率的なサーチ戦略なのだとテイラー氏はいう。

「人間の視覚システムは、生まれつきフラクタルを理解するようにできている」とテイラー氏は述べている。「目のフラクタル構造と、視線の先にあるもののフラクタルが一致すると、生理学的な共鳴が起きる。そのため、ストレスが軽減されるのだ」。都市の交差点のように場面が複雑すぎると、簡単にすべてを取り込むことができないため、意識せずとも不快に感じてしまうのだ。我々が進化過程で共存してきたもっとも日常的な自然の特徴を前にしたとき、人間の視覚野がもっともリラックスを感じるのだとするなら、それは理にかなっている。となると、我々が自然から享受する心地よさというのは、流暢な視覚的処理によってもたらされているのかもしれない。

我々のリラックス感が完全にヘンリー・デビット・ソローのロマンスに由来するわけではないとしたら、その答えは間違いない。我々にはこれらの自然なパターンを目にする必要があり、今はそれが不十分だとテイラー氏はいう。次第に真のユークリッド建築環境に囲まれている我々は、自然のストレス解消策、つまり視覚的な流暢さを失う恐れがある。それらすべてが、街に緑を取り戻し、もっと外に出るためのもう1つの理由となる。

私にはテイラー氏に最後に聞きたいことがあった。彼はオーストラリアで休暇を過ごしていたため私はスカイプで彼にインタビューしていた。彼の柔らかい巻き髪が、まるで細くせわしく流れる小川のように、画面の下端に向かって伸びていた。

「あなたの髪はフラクタルですか?」
彼は大声で笑った。「多分、私の髪はフラクタルだと思う。大きな疑問はもちろん、それが見ている人にプラスの生理学的変化を引き起こすかどうかである!」

This article was originally published on Aeon. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac

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When Richard Taylor was 10 years old in the early 1970s in England, he chanced upon a catalogue of Jackson Pollock paintings. He was mesmerised, or perhaps a better word is Pollockised. Franz Mesmer, the crackpot 18th-century physician, posited the existence of animal magnetism between inanimate and animate objects. Pollock’s abstractions also seemed to elicit a certain mental state in the viewer. Now a physicist at the University of Oregon, Taylor thinks he has figured out what was so special about those Pollocks, and the answer has deep implications for human happiness.

This question didn’t always occupy his professional time. Taylor’s day job involves finding the most efficient ways to move electricity: in multiple tributaries like those found in river systems, or in lung bronchi or cortical neurons. When currents move through things such as televisions, the march of electrons is orderly. But in newer, tiny devices that might be only a hundred times larger than an atom, the order of currents breaks down. It is more like ordered chaos. The patterns of the currents, like the branches in lungs and neurons, are fractal, which means they repeat at different scales. Now Taylor is using ‘bioinspiration’ to design a better solar panel. If nature’s solar panels – trees and plants – are branched, why not manufactured panels?

Taylor describes himself as a type of thinker who jumps across disciplines to solve problems. In addition to his credentials as a physicist, he is a painter and photographer with an advanced art degree. He’s known as a bit of an eccentric around campus. He frequently paddles across Waldo Lake in Oregon when he’s searching for insights, and his hair is so famous it’s almost a distraction. Long and curly, it resembles the distinctive locks of Sir Isaac Newton in his prime. The public affairs office of the university once actually Photoshopped it out of a publication.

Through his meandering career trajectory, Taylor never lost his interest – obsession, really – in Pollock. While at the Manchester School of Art, he built a rickety pendulum that splattered paint when the wind blew because he wanted to see how ‘nature’ painted and if it ended up looking like a Pollock (it did.) Then some years ago, he had a seminal insight while working on nano electronics. ‘The more I looked at fractal patterns, the more I was reminded of Pollock’s poured paintings,’ he recounted in an essay. ‘And when I looked at his paintings, I noticed that the paint splatters seemed to spread across his canvases like the flow of electricity through our devices.’

Using instruments designed to measure electrical currents, Taylor examined a series of Pollocks from the 1950s and found that the paintings were indeed fractal. It was a little like discovering that your favourite aunt speaks a secret, ancient language. ‘Pollock painted nature’s fractals 25 years ahead of their scientific discovery!’ He published the findingin the journal Nature in 1999, creating a stir in the worlds of both art and physics.

Benoit Mandelbrot first coined the term ‘fractal’ in 1975, discovering that simple mathematic rules apply to a vast array of things that looked visually complex or chaotic. As he proved, fractal patterns were often found in nature’s roughness – in clouds, coastlines, plant leaves, ocean waves, the rise and fall of the Nile River, and in the clustering of galaxies. To understand fractal patterns at different scales, picture a trunk of a tree and a branch: they might contain the same angles as that same branch and a smaller branch, as well as the converging veins of the leaf on that branch. And so on. You can have fractals creating what looks like chaos.

Taylor was curious to know if the fractals in the Pollocks might explain why people were so drawn to them, as well as to things such as pulsating screensavers and stoner light shows at the planetarium. Could great works of art really be reduced to some nonlinear equations? Only a physicist would ask. So Taylor ran experiments to gauge people’s physiological response to viewing images with similar fractal geometries. He measured people’s skin conductance (a measure of nervous system activity) and found that they recovered from stress 60 per cent better when viewing computer images with a mathematical fractal dimension (called D) of between 1.3 and 1.5. D measures the ratio of the large, coarse patterns (the coastline seen from a plane, the main trunk of a tree, Pollock’s big-sweep splatters) to the fine ones (dunes, rocks, branches, leaves, Pollock’s micro-flick splatters). Fractal dimension is typically notated as a number between 1 and 2; the more complex the image, the higher the D.

Next, Taylor and Caroline Hägerhäll, a Swedish environmental psychologist with a specialty in human aesthetic perception, converted a series of nature photos into a simplistic representation of the landforms’ fractal silhouettes against the sky. They found that people overwhelmingly preferred images with a low to mid-range D (between 1.3 and 1.5.) To find out if that dimension induced a particular mental state, they used EEG to measure people’s brain waves while viewing geometric fractal images. They discovered that in that same dimensional magic zone, the subjects’ frontal lobes easily produced the feel-good alpha brainwaves of a wakefully relaxed state. This occurred even when people looked at the images for only one minute.