日本の防衛産業、先行きに暗雲 米からの輸入が急増 輸出は苦戦続く

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◆ガラパゴスのツケが回ってきた?
 国産武器の主要なハードルはコストだ。ディフェンス・ニュースは、国産武器の高コストの要因は、「日本の小さくニッチな防衛市場」と、専守防衛という世界に稀に見る軍隊のあり方による「ユニークな要求」にあるとしている。ブルームバーグは、その象徴的な事例として、財務省が、川崎重工製のC-2輸送機の生産をやめ、米国からC-130輸送機を輸入するべきだと安倍政権に提案した件を挙げている。C-130は、C-2よりも積載能力と速度で劣るが、不整地離着陸性能では勝るとされ、コストは半額だ。

 FMSの拡大に伴う国内防衛産業の縮小は、現場で実感として現れている。防衛省の2016年の調査に対し、関連企業72社の約7割に当たる52社が「部品等を製造する企業の事業撤退、倒産による供給途絶が顕在化した」と回答した。例えば、横浜ゴムは、F-2の生産終了に伴い、自衛隊向けの航空機用タイヤ事業から撤退した。こうした現状に対し、三菱重工の阿部直彦執行役員は、FMSでは国内部品メーカーに「仕事が降りてこない」と指摘し、技術基盤を支えてきた企業が「いなくなっていく」と懸念する(ブルームバーグ)。

 拓殖大学海外事情研究所副所長の佐藤丙午教授はFMSの増加について「明らかに日本の防衛産業が防衛省が望む物を作れていないことの証明。良い事態ではない」と、ブルームバーグに答えている。ガラパゴスな殻に守られてきたツケが、ここに来て顕在化してきたとも言えるかもしれない。

◆機密情報の扱いにも甘さ
 日本の防衛産業の「甘さ」はこれまでの輸出プロジェクトの失敗にも表れている。有力視されていたオーストラリア向けの次期潜水艦レースでも、土壇場でフランスに契約をさらわれた。「要因の一つは、日本の防衛企業の国際武器市場での経験不足だ。予算に厳しい潜在顧客に対し、価格面でもアピールできず、抜け目のない欧米企業との競争に苦労している」(ディフェンス・ニュース)。

 また、日米関係に詳しい米シンクタンク、ハドソン研究所のシニアフェロー、アーサー・ハーマン氏は、日本企業の機密情報に対するセキュリティの低さを問題視している(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。欧米の防衛関連企業では、中国による米国防総省へのハッキングが顕在化したり、民間企業同士の防衛機器の共同開発が増えた2000年代半ばからサイバーセキュリティに力を入れている。しかし、日本はその流れに取り残されているという。例えば欧米防衛企業の70~80%が専門のセキュリティ・チーフを置いているのに対し、日本企業では27%しか置いていない。また、欧米の防衛産業が共同で置いているサイバー攻撃とハッキングに対処する「情報共有・分析センター」は、日本にはない。

 ハーマン氏は、多くのアメリカ企業が、できることなら高い技術力を持つ三菱重工、富士通、IHIといった日本企業と武器の共同開発をしたいと考えていると言う。しかし、この「情報セキュリティ意識の欠如」が、大きくそれを妨げていると指摘する。安倍政権は、防衛技術基盤維持のためにも、国内産業の支援を積極的に続ける意向だ。本気で取り組むつもりならば、抜本的な構造改革とともに、業界全体の意識改革も急がれる。

※本文中「三菱重工製のC-2輸送機」は「川崎重工製のC-2輸送機」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。本文は訂正済みです。(19/7/24)

Text by 内村 浩介