「東のクリミア」と化す南シナ海 強まる中国の実効支配、米の封じ込め効果なし

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 中国の南シナ海の軍事拠点化の動きが止まらない。域内の人工島に対艦巡航ミサイル・地対空ミサイルを展開、長距離爆撃機を配備したのに続き、電子戦兵器の運用も開始したことが先月、明らかになった。アメリカや領有権を争う周辺諸国は有効な対抗策が取れず、中国の実効支配は強化されるばかりだ。米メディアは「中国が南シナ海を手中に収めつつある」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)などと危機感を強めている。
 
◆米中が場外で火花散らす
 中国は、電子戦兵器の展開と運用試験を実施していることについて、事実関係を照会したフィリピンに対して否定しなかったという。ただし、それはフィリピンを含む南シナ海の領有権を主張する当事国に向けたものではなく、周辺で「航行の自由作戦」を展開するなど軍事的圧力をかけるアメリカを念頭に置いた措置だと説明した。

 中国の王毅外相とアメリカのポンペオ国務長官は4日までシンガポールで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の外相会議で、南シナ海問題を巡って火花を散らした。ポンペオ国務長官が中国の南シナ海の軍事拠点化にあらためて懸念を表明したのに対し、王外相はアメリカこそが南シナ海を侵略している最大の国で、中国が展開するミサイルや電子戦兵器はあくまで「防衛的な設備」だと強調。米側が勝手に「軍事化」のレッテルを貼っているだけだと強弁した。

 南シナ海を巡るこの中国側の強い反米感情は、今月初めまで行われていたアメリカを中心とした環太平洋合同演習(RIMPAC)を意識したものでもあるようだ。RIMPACは、米海軍主催で環太平洋諸国を招いて毎年開かれている。オバマ政権時代には中国も招待されていたが、25ヶ国が参加した今年は、南シナ海の軍事化を理由に招待されなかった。しかし、ハワイ・カリフォルニア沖で展開された演習には、“招かれざる客”として中国の情報収集艦の姿が見られたという。

Text by 内村 浩介