中国首相、異例の「独立許さない」から見える事情 香港・台湾の若者への運動も活発化

 中国の全国人民代表大会(全人代)が5日に開幕した。中国のナンバー2である李克強首相は、政府活動報告で香港の独立を求める動きを強く非難した。中国首相が年次の演説において、香港の独立について言及したのは今回が初めてとなる。首相は台湾独立への断固とした反対も表明しており、中国政府は分離独立の動きに神経をとがらせているようだ。

◆一つの中国堅持。独立は絶対に許さない
 李首相は香港の独立を求める動きは無駄に終わるとし、「一国二制度」の原則は、曲げられることなく香港とマカオに適応されることを中国政府が確約すると述べた。台湾に関しても、独立のための分離派の活動に断固として反対し阻止すると述べ、台湾を本土から分離する試みは、その形態や呼び名にかかわらず、いかなるものでも決して許容することはないと言い切った(ロイター)。

 CNNは、昨年8月に中国最高人民検察院がネット上で公開したプロパガンダビデオが、いかに中国が分離独立の動きを警戒しているかを表している、と指摘する。このビデオでは、チベット、新疆、香港、台湾の分離派、その指導者や弁護士、西側のエージェントなどが中国国内の安定と調和を壊そうとしており、数々の事件の裏には星条旗の影が見え隠れすると解説している。さらに同院は中国国内のSNSで香港の活動家、ジョシュア・ウォン氏を中傷するコメントをしたり、カラー革命で平和な中国がシリアやイラクのようになってもよいのかと呼びかけたりしており、大衆の不安を煽って政府への支持につなげる狙いがあるようだ。

◆独立問題は国民も注目。政府も脅威を認識
 2014年に始まった雨傘革命とも呼ばれる香港の反政府運動自体は、現在落ち着きを見せている。李首相が今独立に言及することは、メディアの注目を集め、活動家を利するのではという香港のサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)の問いに対して、中国人民政治協商会議(CPPCC)の委員の劉兆佳氏は、本土の国民が香港・台湾問題を重要と見ているため、言及せざるを得なかったのではと述べている。ベテラン中国ウォッチャーの劉銳紹氏は、李首相の発言は中国政府が「拡大し脅威となりつつある」と認識される分離派感情の存在を公式に認めたことを意味するとしている(SCMP)。

 香港では昨年、反中派の議員2名が就任宣誓の際に、中国を侮辱する言葉を使うなど不適切な行いをしたため、宣誓が無効にされるという事件が起きている。その後本土から全人代常務委員会が介入し、両議員の資格がはく奪され、高裁でも資格取り消しの判断が出た。全人代香港区代表の范徐麗泰氏は、宣誓事件は昨年の最も重要な政治事件であったため、政府の姿勢を明らかにするためにも、李首相が演説の中で独立に言及したのだろうと述べている(SCMP)。

◆反抗の目は早期に摘む?若者懐柔策も計画
 シンガポールのストレーツ・タイムズ紙によれば、雨傘革命以来、香港の若者に働きかける動きが中国では盛んで、中国でキャリアを積んだり、ビジネスを始めたりしたい若者への援助に関する研究なども行われているという。また台湾では、蔡英文政権発足後、中台関係は宙ぶらりんの状態だが、若者へのアプローチは盛んということだ。

 ロイターは、中国CPPCCは、香港、マカオ、台湾の若者たちの中国への忠誠心を高めるための新たなプロジェクトを計画中と伝えている。香港、マカオの若者に対しては、本土への「勉学の旅」を提供し、「互いの国と地域への愛」を高めてもらうという。また、台湾に対しては、若者の交流を促進し、「海峡を挟んだ平和的発展のための公のサポートを増強する」とのことだ。CPPCC会長は、これらの活動は「中国の国土、文化、国家への一体感を高めるもの」としており(ストレーツ・タイムズ紙)、「一つの中国」への貢献が期待されている。

Text by 山川 真智子