日本よ、もっとアメリカの肉買って! トランプ・安倍会談に食肉団体が並々ならぬ期待

 安倍首相が訪米して行われるトランプ大統領との日米首脳会談に、アメリカの食肉業界が注目している。牛豚肉の輸出では日本は最大の顧客。今後TPPで関税が大幅に下がり輸出に有利になるとほくそ笑んでいたが、トランプ大統領のTPP離脱宣言で大きく計算が狂ってしまった。首相の訪米を最大のチャンスととらえ、なんとか体制を立て直そうと、「首脳会談では肉の輸出も話題にして」と、強力な陳情を重ねている。

◆お肉大好き日本人。日本なくして米食肉業界は成り立たない
 ウェブ誌『クオーツ』は、平成29年2月9日は日本では「肉の日」と紹介し、全国のスーパーやレストランで、さまざまな需要を喚起するイベントが行われたと報じている。また、「肉の日」は肉を食べさせる口実に使われているだけでなく、日本人の肉好きを反映するイベントでもあると述べる。実は肉の輸入は日本の農産品輸入の約20%を占め、日本は世界最大の食肉輸入国だという。日本が輸入する食肉の多くはアメリカ産で、米農務省によれば、この10年で日本への豚肉の輸出は20%増、牛肉はBSE(牛海綿状脳症)問題で日本が輸入を中断していた影響もあり1400%増となっている。

 米農業情報サイト『Agri-Plus』によれば、日本はアメリカにとって牛豚肉の取引額では世界最大の海外市場だという。全米肉牛生産者協会(NCBA)と全米豚肉生産者協会(NPPC)の発表では、2016年に日本人が消費したアメリカ産牛肉は金額にして約140億ドル(約1.6兆円)、豚肉は150億ドル(約1.7兆円)だった。

◆首脳会談が最大のチャンス。業界あげてのお願い攻勢
 アメリカの食肉生産者団体は、まだまだ日本での需要の拡大は見込め、TPPの発効によって貿易障壁が低くなると考えていた。ところがトランプ大統領がTPP離脱を宣言。そこでこの窮地を脱するべく、食肉生産者団体や畜産業を抱える州選出の上院議員らは、安倍首相との首脳会談を絶好のタイミングと見て、関税を下げ貿易上の障壁を減らすような二国間協定を日本と締結して欲しいとトランプ大統領に猛アピールしている。

 NCBAとNPPCは共同で大統領に書簡を送付。関税やその他のルールの撤廃または削減で、アメリカ産牛豚肉の日本市場でのプレセンスは高まるに違いないと述べ、「大統領の指導力と熱意で、我々の製品の競争力を世界一に」と訴えた。イリノイとアイオワ州のテレビ局KWQCによれば、アイオワ州選出のアーンスト上院議員も「アメリカ経済を成長させ雇用を増やすために、大統領と政権とともに取り組みたい」とし、貿易黒字を増やすには農産品は欠かせず、ぜひとも日本との二国間貿易と投資の強化を、安倍首相との首脳会談で話し合ってほしいと書面で懇願した。

◆脅威は豪産牛肉。早期の協定締結に期待
 米畜産業界が恐れるのは、ライバルの食肉輸出国がTPP消滅を機に日本市場に食い込んでくることで、特に気にしているのはオーストラリア産牛肉だ。クオーツは、日本の牛肉市場ではこのところアメリカとオーストラリアの接戦が続いており、アジアへのアクセスを拡大するはずだったTPPからの離脱が決まって以来、アメリカは神経過敏になっていると指摘する。NCBAは、TPPが発効すれば日本の輸入牛肉への関税は38.5%から最終的には9%に削減される予定で、日本市場で豪牛肉と十分戦えたはずだとしている。

 アーンスト議員も、日豪EPAによってUSビーフとオージービーフの間に10%の関税差をつけられてしまうと述べ、早く日本と協定を結ばなければ、アメリカの生産者を潤すはずのお金が海外のライバルに流れて行ってしまうと主張し、危機感を露わにしている。

 日本国内の報道では、安倍トランプ会談の中心課題は自動車貿易や安全保障と言われている。米食肉業界の願いが聞き入れられるのか、会談の結果に注目したい。

Text by 山川 真智子