子どもへの菜食主義強制は虐待か? 成長に有害として禁止法案がイタリアで提出

 イタリアで、親による子どもへのヴィーガニズム(絶対菜食主義)強制を禁止する法案が提出された。違反すると、親に刑事罰を課すとしている。欧米では、近年“厳格な菜食主義者”であるヴィーガンが急増している。英国では、過去10年の間にヴィーガン人口が約3倍に増加したことが業界団体『Vegan Society』と『Vegan Life』誌の最新報告で明らかになっている。

 海外セレブなど有名人の影響で、欧米ほどではないが日本でも若い世代を中心にヴィーガニズムが注目を集めている。我が子の健康のために“よかれと思って”ヴィーガニズムを取り入れている人もいるようだが、果たして本当に子どものためになるのだろうか。

◆鉄・亜鉛・B12…発達過程の子どもに必要な栄養素が摂取できない
 法案を提出したのは、保守政党フォルツァ・イタリアのエルヴィーラ・サヴィーノ議員。今多くの有名人も実践しているというヴィーガニズムだが、体の完成した成人とは異なり、発達過程の子どもにとっては「健康的な成長に必要不可欠な栄養素が不足する食事」は有害だというのが理由だ。具体的には、16歳以下の子どもへのヴィーガニズム強制を禁止する。

 伊ラ・レプッブリカ紙は、サヴィーノ議員が「発育途中の子どもがヴィーガンになると、鉄・亜鉛・B12不足を招き、その結果神経系の病気や貧血症になるおそれがある」とフォルツァ・イタリア党のウェブサイトに掲載したことを伝えた。

 英テレグラフ紙によると、イタリアでは既に、ヴィーガン食により深刻な健康状態に陥った子どもの事例が多数報告されているという。「きちんと組み立てられていないヴィーガン食を親から強制されたために子どもが栄養失調に陥った(3歳以下の例もある)数多くの有名事件を受けて」今回の法案提出に至ったと同紙は伝えている。

 米ニューヨーク・デイリー・ニュースは、現在39歳のサヴィーノ議員自身も1児の母であり、「十分な飽和脂肪、タンパク質、ビタミン(亜鉛、鉄、オメガ3脂肪酸なども)が含まれていないヴィーガン食またはベジタリアン食を厳しく批判している」と伝えた。サヴィーノ議員は、ヴィーガンの親は「宗教、倫理、動物愛護の観点から」動物性食品を避け、子どもの生命を危険に晒していると考えているそうだ。

 しかし、英インデペンデント紙によると、現在イタリア人口に占めるヴィーガンの割合は1%、ベジタリアンは7%と考えられており、批評家らは、イタリアでは(ヴィーガン規制よりもむしろ)子どもの肥満問題の方に重点的に取り組むべきでないかと主張しているという。

◆米・英の栄養士協会は“適切に計画を立てれば”問題ないとしているが…
 アイリッシュ・タイムズ紙は、このニュースを報じる記事で、自国の食品安全局のスタンスを紹介。アイルランド食品安全局は、乳幼児期には「基本的に栄養の偏った食事は勧められない」として子どものヴィーガンに否定的だと伝えた。

 一方で、同紙によると、米栄養士協会は“適切に計画を立てた”ヴィーガン食は妊婦、乳幼児期含むすべてのライフステージに適していると述べている。

 今回のイタリア法案とは関係ない記事だが、英インデペンデント紙に寄稿した、「The Vegan」誌の編集者Elena Orde氏も、『子どもにヴィーガン食を与えるのは虐待ではない』というタイトルの記事の中で、「英栄養士協会も、ベジタリアン食およびヴィーガン食が子どもにも適していると認めている」としてヴィーガン食の素晴らしさを強調した。

 同記事では、子どもの体の発育や栄養面よりも“動物愛護”や“環境破壊”など倫理的な影響について主に言及していた。子どもにヴィーガン食を与えることで、動物や自然を愛する心を育むことができるのだそうだ。

 “専門的な知識”をもって“適切に”食事プランを立てれば”ヴィーガンは問題ないというものの、一歩間違えれば栄養失調になるリスクを子どもに負わせてまで親の思想を強制する意味はあるのか、イタリアの法案の行く方を見守りたい。

Text by 月野恭子