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「私を殺したらいい」インド女性が16年間のハンストに終止符…国境地帯の非情な現実

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「私を殺したらいい」インド女性が16年間のハンストに終止符…国境地帯の非情な現実

 インドで16年間近くハンガーストライキを続けてきた女性が、9日、ついにハンストを終了した。女性は、インドの紛争地域でインド軍に特別な権限を与える「軍特別権限法(AFSPA)」の廃止を訴えハンストを行っていた。今後は政界入りを目指し、政治家としてこの法令の廃止を追求していくつもりだという。どのような心境の変化があったのだろうか。

◆蜂蜜で閉じた16年近いハンストの幕
 この女性、イロム・シャルミラ氏は9日、拘禁されていた病院の外の記者会見の場で、手のひらにのせた少量の蜂蜜をなめ、ハンストを終了させた。ワシントン・ポスト紙(WP)によると、シャルミラ氏は、蜂蜜をなめる前に、その瓶をじっと見つめ、泣き崩れたそうである。ある記者から、これほど長い年月の後で物を口にするのはどんな気分か、と聞かれたシャルミラ氏は、「この瞬間を決して忘れないだろう」と答えた。

 ハンストは2000年11月5日に開始された。多数のメディアが世界最長のハンストだと指摘している。同2日に同氏の地元、マニプール州インパールのある町で起きた事件がきっかけだった。インドの準軍事部隊が爆発物による襲撃を受け、兵士2人が負傷した後で、バス停付近にいた民間人10人を銃で殺害した(BBC)。後の司法調査で、犠牲者は全員、襲撃とは無関係だったことが判明している。

 にもかかわらず、部隊はこの件に関して訴追を免れている。分離派との闘争が激しい地域で、軍には特別な権限が与えられており、免訴が保証されているからだ。

◆インドの紛争地域では軍に特別な権限が与えられている
 マニプール州はインド北東部にあり、ミャンマーと国境を接する。ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)によると、インド北東部はカシミールに加え、国内で最も問題の多い場所の1つと考えられている。多数の民兵組織が活動しており、自治権の拡大から完全な独立にまでわたる政治的要求を実現するため、政府軍と戦闘を行っている。WPによると、マニプール州では独立派の反乱が40年近く激しく続いている。BBCによると、同州には、6つの非合法の独立派組織と、インドを植民地支配国とみなし民族闘争を行う18ほどの他の組織があるという。

 これらの地域では、治安維持のため、インド軍は特別な権限を与えられている。AFSPAによって、軍は、令状なしでの建物の捜索、容疑者の拘束、狙いを付けての(威嚇でない)銃撃まで含む広範囲の権限を与えられている(CNN)。BBCは、一定の状況では射殺まで認めるものだと伝えている。さらに、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチによると、兵士は(これらの行為について)中央政府の承認を経ずに訴追されることはなく、訴追が認められることはめったにないという(WP)。

 マニプール州ではAFSPA は1958年に発効となったが、この法令のせいで、軍による民間人への暴力が見過ごされているとの批判が人権団体などからなされており、廃止が求められている。インド政府も、ずっと前からこの問題について議論しているが、廃止の道筋は立っていない(DW)。軍の上級将校らは、自分たちの手足を縛られた状態ではテロリスト集団と戦うことはできないとして、廃止に反対している(WP)。

◆群を抜く「鉄の女」によるハンスト
 シャルミラ氏は、16年間近くずっと、ハンストによってAFSPAの廃止を訴え続けてきた。インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)によると、非暴力的な政治活動の手段としてハンストを用いるのはインドでは普通だ。最も有名な例は、ガンディーがインドの独立運動でハンストを行ったことだろう。

 シャルミラ氏のハンストによって、AFSPA反対運動への世間の関心が高まった。アムネスティ・インターナショナルは彼女を良心の囚人と呼んでいる(INYT)。

 インドでは最近まで、自殺を図ることが刑法犯罪とされていた。インド当局は、シャルミラ氏のハンストは自殺を図る行為だとみなして、彼女を逮捕した。彼女は病院に拘禁され、鼻から挿入されたチューブで強制的に栄養を摂取させられた。DWによると、このチューブは今や、彼女の抵抗のシンボルとみられている。

 自殺を図る罪による禁固刑の刑期は最長1年だが、彼女は釈放後もハンストを続行したため、すぐさま再逮捕となり、CNNによると14回逮捕された。シャルミラ氏は以前、インタビューで、ハンストを続ける強さはどこにあるのかとの質問に対し、「私を鼓舞するものは、人間としての良心だけだ」と答えた(DW)。彼女には「鉄の女」との異名が付いている。

◆ハンスト終了は「女神」の人間宣言?
 そのシャルミラ氏が、2週間前、ハンストをやめて2017年のマニプール州議会選挙に無所属候補として出馬すると宣言し、支持者らを驚かせた(AFP)。DWによると、最も近しい腹心にとっても、この件は寝耳に水だったという。

 DWによると、これまでのハンストが政府にAFSPA廃止を促せていないことを考慮しての決断だったという。シャルミラ氏は「私は改革の真の化身だ」「私は今、州首相になりたい。政治と学問について私は何も知らない。私の教育水準は全くとても低い。私が持っているものを全て、建設的なことのため、社会のために使うつもりだ」と記者会見で語っている(ガーディアン紙)。

 とはいえ、AFSPA廃止という目標だけを追求した決断ではないようだ。

 彼女はかつてある仲間に「私を女神に仕立てないで。私は普通の望みを持った普通の女性だ」「おいしいものを食べたい、結婚したい、子供を持ちたい。お願いだから私を祭り上げないで。非凡な闘争に従事しているが、私自身は単なる普通の人間だ」と語っている(BBC)。

 9日の会見でも、ある記者が彼女を「マニプールの女神」と評したが、彼女はそのあだ名をはねつけ、「私はまさにその見方を好まない」「私は人間だ。どうして彼らは自分たちの見解に相変わらず私を閉じ込めるのか。人間として私はどんなことも感じる。どうして彼らは相変わらず私を孤立させようとするのか」と語っている。

◆1人の人間として、結婚もしたい
 すなわち、1人の人間として、抗議活動以外にも、普通の生活を送りたい、という気持ちが強まったようだ。例えば、DWによれば、彼女は結婚願望を繰り返し表明している。そして、仲間の活動家の男性と、何年も交際しているという。BBCによると、お相手はイギリス人男性で、愛情のこもったラブレターのやりとりの後で、男性は彼女にプロポーズしたそうだ。彼女は「私はただ普通の生活をしたい」と語った(DW)。しかし、彼女は自らの闘争を完全に放棄するつもりはない、とDWは語り、今回の選択はそれらを両立させるためのものだったことをにおわせている。

 ガーディアン紙が語るように、彼女の単独抗議は、政府の暴力へのマニプール州の抗議のシンボルとなっていた。そこで、彼女が「女神」の地位から降り、ハンストを止めることに対して、不賛成の人たちもいる。WPは、シャルミラ氏の新たな進路に関して、誰もが満足しているわけではない、と語っている。

 DWによれば、急進的な独立派組織のメンバーが彼女にハンスト継続を求め、脅してさえいると言われている。WPによると、今週、ある組織が声明で、他の活動家が政界に身を投じた際には暗殺されていると述べた。

 こういった反対の声に対して、シャルミラ氏は「彼らは私を殺したらいい、彼らの血でマハトマ・ガンディーを殺したように……人々は私に対して相変わらず否定的だ。彼らは私をチューブとセットで、何も欲望を持たない存在として、単なる抵抗のシンボルとして考えたがっている。これは私の選択する権利だ。人間として認められる権利が私にはある」と語っている。

 また、彼女の政治家としての適正を疑問視している人も少なくないようだ。INYTは、多くの人がシャルミラ氏をマニプール州の良心の体現者だとみなしているけれども、彼女がインドの政治の混乱した性質を処理できるのかと疑う人たちもいた、と語っている。BBCによると、インパールの町の人々はシャルミラ氏に対して同情的で、ハンスト終了の決断を支持しているが、(それでも)政治に加わることは望んでいないという。ある住人は「彼女は私たちの抵抗の最も信頼されているシンボル」「けれどももし彼女が政治に加わったら、この信頼が壊れてしまう。マニプールではもはや誰も政治家を信頼していない」と語っている。

(田所秀徳)

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