豪潜水艦、日本脱落? 指摘された「熱意・経験不足」の意味とは? 発表は29日か

 オーストラリアが計画を進める次期潜水艦をめぐっては、日本の官民連合と、ドイツ企業、フランス企業の3者が、共同開発生産のパートナーの座を争っている。この争いに思いのほか早く決着が訪れそうだ。豪政府の決定は今年後半になるとみられていたが、議会の解散総選挙が実施される関係でその選考プロセスが早められた。選挙を控えた今、この潜水艦計画によって国内の産業を支えることがこれまで以上に重視されており、それに最大限沿った決定となる見込みだ。今月内に発表がありそうだと伝えられている。さらに一部メディアは、日本がこの争いで後退したと伝えている。

◆早ければ今月中にも発表か
 ターンブル豪首相は19日、与党提出の重要法案が議会で否決されたのを受け、上下院を解散し7月に総選挙を実施する意向を表明した。この解散が視野に入っていたため、政府は次期潜水艦計画のパートナー選定プロセスを加速させていたという。

 オーストラリアン紙によると、豪国防省が「競争的評価プロセス」によって3者の提案を検討し、その評価と勧告をペイン国防相に提出。情報筋の示唆によると、国防省は3者のうちの1者を優先選択肢として名指ししているという。同相が国防省の提案を検討、承認した後、19日には閣僚らからなる国家安全保障会議(NSC)で正式な検討に入ったもようだ。NSCの決定は全閣僚の承認を必要とするが、19日のNSC会合後には全閣僚による会合も開かれたという。つまり、もうすでに決定している可能性もある。

 ターンブル首相は7月からの新年度予算案を来月3日に提出した後、議会の解散を求める意向だ。選挙は7月2日になるとみられている。それまでの期間の暫定政権では大きな決定はできないため、その前にパートナー決定の発表があるというのが豪公共放送局オーストラリア放送協会(ABC)の見方だ。

 ロイターは、選考プロセスに関係しているアジアの業界筋2人が、早ければ4月29日にも発表があると予想していると語ったと伝えている。またオーストラリアン紙も、密接なオブザーバーが、発表の可能性のある日付として29日と予測していると伝えた。

◆日本が意気込み不足、経験不足で脱落?
 気になるのは、日本が選考から脱落したと取れる報道があることだ。ABCは、NSCが最終決定を下したかどうかは不明だが、日本の提案をほとんど退けた、と伝えている。情報源については明かしていない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、日本は事実上、競争から退けられた、と事情に詳しい2人の人物が語ったと伝えている。

 それぞれについて詳しく見てみよう。まずABCの報道だが、ABCは、国防省当局者は当初から、日本の提案に対して懸念を持っていた、と伝えている。その理由は、この提案がアボット前首相と安倍首相の間で結ばれた取り決めとして登場したためだという。当局者は、日本の官僚にはこの協約に対する意気込みがそれほどなく、そのことが長期的に見て協約を台無しにするだろうと懸念していた、とABCは語っている。

 トップ同士ですでに片が付いていた話であるため、日本側がオーストラリアにとって、長期的に見て有利な条件を提示しなかったとの意味かと思われる。「どうしても獲得したい」という「意気込み」を、金額など条件面で見せなかったということではないか。

 WSJは、日本は海軍装備を海外で製造した経験がないため、日本の提案には「かなりのリスク」があるとみなされた、と事情に詳しい人物の1人が語ったと伝えている。ただしWSJは、政府はまだ最終決定していないとも伝えている。

 残った2者のうち、ドイツのティッセンクルップ・マリン・システムズが最有力候補として浮上している、と事情に詳しい人物らが語ったとWSJは伝える。その理由は、潜水艦が建造されることになるオーストラリアの拠点に、先進的な製造技術を移転することを約束しているからだというのだ。そこからすると、日本とドイツの「意気込み」の違いは、技術移転を認める度合いにあったのではないかと想像される。

◆アメリカはオーストラリアの選択を尊重するとの姿勢
 アメリカがオーストラリアに日本の潜水艦の採用を望んでいるとの意向が、これまでしばしば、間接的な形で表現されてきた。ABCは、一部の米高官が日本の提案を強く後押ししてきたと語る。その高官らは、アメリカはヨーロッパ勢の潜水艦には自国の最新鋭戦闘システムの導入を認めないかもしれないという可能性を提起していた、とABCは語る。

 2月には、米政府がドイツの機密保持能力に懸念を抱いているとの報道があり、ティッセンクルップが競争から脱落したのでは、との観測もあった。

 この点について豪政府は、アメリカの言質が取れたと考えているらしい。最新鋭戦闘システムの導入をアメリカが認めないのではという懸念について、豪政府はいまや、それが事実ではないと確信している、とABCは伝える。ABCによると、ある高官筋が語ったところでは、オバマ大統領がターンブル首相に対して、潜水艦契約はオーストラリアの主権にかかわる問題で、どの提案が勝とうとも(米豪)同盟に影響はない、と明確にしたというが、これだけでは従来通りのアメリカの公式見解を繰り返しただけに見える。

 潜水艦の建造拠点になるとみられている南オーストラリア州アデレードの地方紙アドバタイザーは、駐豪米大使館の参事官が、「オーストラリアがどのパートナーを選んだとしても、アメリカはそのパートナーを喜んで支援するだろう」と語ったことを伝えている。また、アメリカはオーストラリアの決定を尊重し、オーストラリアと、どの国際パートナーとも協同する準備がある、と語ったことを伝えている。

 これについてアドバタイザー紙が、アメリカはオーストラリアがどの国際パートナーを選んだとしても、等しく協同する準備があるという意味なのかと質問したが、リー参事官は「そうだ」と答えたという。同紙は戦闘システムについては言及していないが、「等しく」の部分にそれが含まれていると思われる。

 WSJは、アメリカは豪政府に対し、もしヨーロッパ企業が契約を勝ち取ったとしても、機密にかかわる米海軍戦闘システムの豪潜水艦への導入を邪魔しないとの保証を与えた、と伝えている。

 アメリカがオーストラリアに日本の提案の採用を望むという方針を転換したのか、それとも初めから一部の意見でしかなかったのかは分からないが、日本にとっては逆風、ドイツにとっては追い風となっただろう。

Text by 田所秀徳