ベルギー同時テロで存在感を発揮したTwitter 人々の心をつなぎ被害者支援にも貢献

 ベルギーの首都ブリュッセルの国際空港と地下鉄駅で22日、爆弾を使用した同時テロが発生した。ベルギー政府の集計によると、死者は計30人以上、負傷者は計200人以上に及ぶ。同日、過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出した。Twitterなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)上では、ベルギーへの同情と連帯を表明する声が世界中から上がっている。また現地での支援活動にもSNSが活用されている。

◆テロの被害に遭った後にも、SNSは人々を結ぶ
 日本では2011年の東日本大震災当時、Twitter、FacebookなどのSNSが、安否確認、連絡や情報共有の手段として有効に使われた実績がある。昨年11月にパリで同時テロが発生した際にも、SNSは安否確認などで大きな力を発揮した。

 米ニュース専門放送局CNBCは、いま一度、ソーシャルメディアは悲劇の後で人々をつなぐ有益なツールだと判明しつつあると語る。まずは連絡手段としての有用性がある。ベルギーの副首相や内務省危機管理センターは、電話の混雑を避けるため、電話の使用を避け、かわりにメールやSNSの使用を呼びかけたという。

 Facebookは安否確認ツール「災害時情報センター(セーフティー・チェック)」を有効化した。この機能は、登録情報や位置情報から、影響を受けた地域にいると推定されたユーザーに対して安否確認を行い、それをそのユーザーの「友達」に通知するというものだ。ブルームバーグによれば、この機能を発案したのは日本のエンジニアチームだったという。2014年10月に開始し、当初は自然災害を対象としていたが、昨年のパリ同時テロからテロ時も有効化されるようになった(CNBC、Engadget日本版)。

 また、現地で困っている人の支援にはTwitterが活用されたようだ。ロイターによると、交通機関がストップし立ち往生している人たちに、自分たちの車に乗るよう勧めるため、また乗せてもらえる車を探すために「#BrusselsLift」というハッシュタグが用いられたそうだ。また自宅を避難場所として提供するために「#OpenHouse」「#PorteOuverte(英open door)」というハッシュタグが用いられた(ロイター、CNBC)。ロイターによると、これはパリのテロの際に初めて用いられたものだという。

◆緊急の際に存在感を発揮するTwitter。オープンな性質が向いている
 米旅行雑誌コンデナスト・トラベラー(以下トラベラー)は、Twitterは「時代遅れ」「役に立たない」「退屈」と言われ続けているが、危機の際、人々が反応するだけでなく、援助したい時にも、最初に目を向ける場所の1つだと語っている。これは、Twitterのオープンな性質が、見知らぬ者同士の援助に適しているからだという。CNBCはハッシュタグ「#ikwilhelpen(I want to help)」がトレンド入りしていたことを報じた。

 トラベラーは、確かにTwitterは危機後に人々をつなぐ唯一のSNSやプラットフォームではないが、Twitterのオープンな性質は、人々が直接、即座に交流する方法を可能にする、と語っている。Twitterでは見知らぬ者同士が助け合う意識がある、とトラベラーは語る。Twitterは、ニュースで恐ろしいことを見聞きした人が、「自分が援助として今すぐできることって何?」と聞き、その回答を実際に得る場所だ、と語っている。

 物質的に自分の家の利用を申し出ることにせよ、私たちが気にかけている全世界の人々に対して単にメッセージを送ることにせよ、何らかの形で行動をすることは、痛みを和らげる、そしてそれはTwitterを利用すればずっと簡単だ、とトラベラーは語る。

◆テロリストに利用されるケースも
 そんなTwitterにも、マイナスになってしまう面があることは否めない。今回のようなテロ事件の際、Twitterには、現場の目撃者から写真や動画、情報が多く集まる。トラベラーは、最善の場合、Twitterは多くの視点から事件を描き出すためのクラウドソーシングの報道を可能にするが、最悪の場合、不完全あるいは不正確な報告に基づいて、あまりにも早急に結論に飛びつく、と語っている。

 またアメリカの若者向けメディアMicによると、今回の襲撃後、IS側は、虚報、嘘、パニックを広めるためにTwitterを利用しているという。Twitterでは、粗悪な情報が野火のように広がるが、通常それは、人々が誤った断言を軽率に繰り返し、リツイートする結果にすぎない、とMicは語る。しかし今回、テロリストらが、パニックと恐怖をあおることを意図的に試みてツイートを行っているという。それは例えば、どこそこに爆弾が仕掛けられているという、嘘の情報だ。

◆ブリュッセルの小便小僧もテロを嘆いている?
 TwitterやInstagramといったSNSは、世界中のユーザーがベルギーへの同情や連帯を表明する場となっている。その中で、急速にシェア数が増えているのが、ブリュッセルの名物である小便小僧のイラストや画像だ。これには「#mannekenpis」(マヌカンピス)というハッシュタグが多く用いられているようである。

 ロイターは、ブリュッセル中心部に昔から観光客を引き寄せてきた、こしゃくな小便小僧の像が、ブリュッセルでのテロ後、インターネット上で新たな役を引き受けた、と述べ、豪ニュースサイトNews.com.auは、テロ後の数時間で、ベルギーの有名な小便小僧が(犯人への)反感の完全な象徴になった、と語っている。ソーシャルメディアのユーザーたちは、イスラム過激派への反感を表明するために、小便小僧のイラストを採用しているようだ。

 例えばロイターでは、自動小銃カラシニコフに放尿している小便小僧のイラストが紹介されている。このイラストは、ベルギー国旗の色である黒、黄、赤の3色で描かれている。News.com.auでは、ダイナマイトの導火線に放尿している小便小僧に「ピス&ラブ」という言葉が添えられたものが紹介されている(「ピース&ラブ」のもじり)。また両目から涙が噴き出している小僧のイラストや、テロリストの顔におしっこをかけているものも紹介されている。

 またベルギー生まれの漫画の人気キャラクター「タンタン」のイラストも、悲しみを示すために多数シェアされている。News.com.auは、タンタンはベルギーの国民的ヒーローだと語っている。例えばコロンビア人風刺漫画家Vladdo氏のイラストでは、タンタンがテロを報じる新聞を見て涙を流している。

 多くの人の共感を集めたイラストでは、フランスのル・モンド紙の著名な風刺漫画家のプランチュ氏が描いたものがある(ロイター)。フランス国旗の色の赤、白、青で描かれた人物が、ベルギーの国旗の色の赤、黄、黒で描かれた人物を抱きしめているものだ。2人とも涙を流している。パリでテロのあった11月13日と、3月22日の日付がその下に書かれている。News.com.auはこのイラストを胸の張り裂けるような絵だと語っている。

Text by 田所秀徳