「Googleをブロックせよ!」 租税回避と断固戦うインドネシア 一方で「アメ」で懐柔も

「脱税」と「租税回避」は、今やほぼ同義語となりつつある。少なくとも、各国政府はこれを区別してはいない。本来なら取るべき税金を取れないということに違いはないからだ。この租税をめぐる問題は、経済のグローバル化とインターネットの普及により、我々現代人の生活に大きな影響を及ぼすようになってきている。

 インドネシア政府は先月、突如として「GoogleやFacebook、Twitterなどが配信するサービスをブロックする可能性がある」という声明を発表した。中国でこれらのネットサービスが利用できないことは有名だが、インドネシアは民主主義国家である。政府の都合でネットコミュニケーションの自由を妨害することは、まず国民が許さない。だがこれは、インドネシア流の租税回避対策なのだ。

◆徴税できない政府
 大手IT企業の税逃れは、インドネシアでも以前から問題視されていた。たとえば、外資企業A社が現地企業B社と共同で事業に取り組んでいたとする。その事業の総売り上げをA社が6割、B社が4割という比率で分け合う。するとそれに合わせてインドネシア当局から法人税の請求書が来るのだが、A社は本社所在地がアイルランドであることを理由に法人税を回避してしまった。しかし、インドネシアの役所はその程度のことで徴税を諦めない。そういう場合は、A社から送り返されてきた請求書をB社に回すのだ。B社にとっては、災難以外の何者でもない。

 インドネシアでも現在、大手IT企業の配信するデジタルコンテンツ抜きには生活すら成り立たないようになっている。現地紙トリブンは、インドネシアのデジタル広告市場の8割をGoogleとFacebookが押さえている事実を報じている。それによると、2社がデジタル広告分野で計上した利益は、8兆4,500億ルピア(約735億円)。それだけの利益が課税を免れていることをトリブンは指摘している。

◆サービス停止の可能性
 どこの国でも、企業への課税の根拠となるのは恒久的施設の有無である。だがIT業種というのは、極端に言ってしまえば世界のどこにいてもできる仕事だ。利益を上げている国に事業所を置く必要はない。それでもインドネシア政府は、企業に対して何が何でも恒久的施設を設置するよう言い渡した。

 そんななか、ルディアンタラ情報通信相は記者会見で、GoogleやFacebook、Twitterなどのサービスを停止する用意があると言及したのだ。現地最大手紙コンパスは、「政府が世界的企業に対して恒久的施設設置を強要する」と書いている。かなり強い表現だが実際その通りで、ルディアンタラ氏は、企業側が約束を反故した場合についても強硬的な姿勢で臨むと明言している。

 それと同じ頃、訪米中のジョコ・ウィドド大統領がシリコンバレーを訪れ各企業のCEOと会談している。この訪米の主目的は中国問題についての協議だったが、同時に租税回避問題の解決へ向けた策も打っていた。

◆和解への前進
 インドネシアでは、投資ネガティブリストの改訂作業が進められている。しかも今回の改訂は、外資参入条件の大幅緩和の方向に転がっている。特に海外の投資家から注目されている事項は、eコマース分野だろう。最低投資額の設定があるとはいえ、eコマース事業の外資独占が認められるようになったのだ。

 電子分野全般に対する政府の緩和姿勢は、去年の中頃から少しずつ明確になっている。自治体首長が独自に電子事業発展の政策を打ち出すということもあるくらいだ。それにより、投資家心理も改善しつつある。

 逆に言えば、このような硬軟織り混ぜた措置を取らないと話は進展しない。国営アンタラ通信は、政府と企業の「和解」について報道している。インドネシア政府が制作した電子確定申告に関する広告を、Googleが配信するという内容だ。インドネシアでも確定申告の電子化は進んでいるが、その普及を促すための電子広告拡散にGoogleの力を借りる。とりあえず、この問題は着地点に落ち着いたようだ。

 インドネシアでは去年から、低価格のスマートフォンが一気に普及し電子サービスの種類も豊富になった。課税体制もその変化に合わせようというインドネシア政府の狙いだが、こうした面でのスピーディーさは日本を完全に凌駕している。新興国からも学ぶべき部分は多くある、ということだ。

Text by 澤田真一