ネットの悪質コメント対処法はこの男に学べ? アメリカで話題の偽ヘルプデスク

 アメリカの食品大手、ペプシコ傘下のフリトレー社が先月、LGBT (lesbian, gay, bisexual, and transgender) コミュニティをサポートするためのノンプロフィット・プロジェクトIt Gets Betterを開始し、寄付をしてくれた人にレインボーカラーの限定ドリトス(スナック菓子)を郵送するサービスを開始した。

 ところが、共和党の次期大統領候補の指名を争う保守派議員マイク・ハッカビー氏がこれに激怒。9月25日付けのABCニュースによると、書簡にて、プロジェクトの責任者であるダン・サヴェッジ氏に対し、「長年にわたりキリスト教徒に対する憎悪に満ちた低俗なコメントをし続け」「彼と意見の合わない人たちに暴力と攻撃を仕向けた」と糾弾した。

◆マイク・メルガードとは何者か?
 これを受け、プロジェクトのフェイスブックページには批判や悪質ないやがらせのコメントが殺到。結果、アカウントを閉鎖するはめになったが、プロジェクト側はサポーターの1人としてマイク・メルガード氏を呼び寄せ、氏はDoritosForHelpのハンドルネームで、閉鎖前にできるだけ多くのコメントに対処した。

 いったいこのメルガード氏とは何者なのか。実はこの8月、米小売大手のターゲットが、おもちゃ売り場から「男の子用」「女の子用」の区別をなくすことを発表して同じように保守派から叩かれたのだが、その際にフェイスブック上で偽のヘルプデスクを装って反LGBT攻撃をコミカルにかわし、世間の注目を浴びたのがこのメルガード氏なのだ。

◆悪意はユーモアで切り返せ!?
 今回も氏は、フェイスブックでの攻撃的なコメントにユーモラスに、ときに辛辣に対応。9月22日付のハフィントンポストは実際のフェイスブック上のやりとりを掲載している。以下、主なものを紹介する。

顧客「私は60歳で、43年間世界中でドリトスを買ってきたが、もう買わないね。政治的に正しいかどうかなんて、もううんざりだ。クソめ」
メルガード「まず、43年ものあいだ世界中で、違いのわかる顧客でいてくださり、ありがとうございます。残念ながら、お客様(の年齢)は私たちが業界でいうところの主要購買層からはずれています。お客様の世界観は私たちには古すぎます。今までありがとうございました」

顧客「(略)おたくの商品の購入を今後断念します。ホモセクシュアルのライフスタイルを奨励したいなら、この資本主義社会でもちろんそれは自由ですが、私も同様に資本主義社会の顧客として、そちらのそのような権利に出資しない権利を実行します。むしろ、言論の自由のための合衆国憲法修正第1条を行使し(略)」
メルガード「本当に言論の自由を行使したいのでしたら、フリトレーとしましてはFBアカウントを閉じられることをおすすめしますよ。FBはあなたを顧客に持つことで利益を得ていて、そのFBはホモセクシュアルの『ライフスタイル』をサポートしていますからね。FBユーザーであるあなたも、間接的にホモセクシュアリティをサポートしているのです」

顧客「十字架型ドリトスでも作ったらどうだい」
メルガード「残念ながら、十字架型は先端が袋の中で壊れてやすく、お客様の手元に残るのが男根型の破片ばかりになってしまいます」
この回答に憤慨した顧客とのやりとりはさらに続き、DoritosForHelpはこの「男根」をひたすらいじり続け、「お客様の男根型ドリトスへの飽くなきご要望にお応えできず申し訳ございません」などと切り捨てる。

◆笑いの裏に潜む憤り
 確かに爆笑ものだ。だが、「ぼくの面白おかしいイタズラから、人々がこの問題のシリアスな側面に気づいてくれたらと思う」と、氏はハフィントンポストのインタビューに答えている。LGBT、とくに若者の死亡の主な原因が自殺であることに胸を痛め、その要因を作っているのが一部の狭量な人々の偏見であることに非常な憤りを感じるという。

 また、TIME誌は同氏の「この件(レインボーカラーのドリトス)について『困惑』している人はみな、人類の集団的発展を妨害しているとしかいいようがない。しかもその理由ときたら、自分自身の個人的偏見以外に何もないんだ」という、氏個人のFBアカウントでのより真剣なコメントを取り上げている。

 確かに、茶化すことによって、保守派の論点がどれだけ脆弱なものかが浮き彫りになる。メルガード氏の、ある意味でのソフトスキルは、日本のネット暴力への対応の参考になるかもしれない。

Text by モーゲンスタン陽子