上海ディズニーの空を灰色にはできない?中国政府、周辺工場を閉鎖、対策に本腰

 開発とともにさまざまな環境問題が起こっている中国だが、なかでも大気汚染は深刻だ。アメリカの団体が行った最新の調査によれば、中国では人口の8割以上が不健康なレベルの空気を吸っているという。国内外からの批判、関心の高まりを受け、中国政府も本格的な対策に乗り出したようだ。

◆主要イベントのため、青空を戻す
 中国政府系の京華時報によれば、政府は9月3日の「抗日戦争勝利70周年記念日」のために、8月下旬から約15日間の空気浄化作戦を開始。北京および隣接する河北省の5700ヶ所を含む、1万2255ヶ所の石炭焚きで稼働する施設を閉鎖または規制し、北京市で登録された500万台の車両の運転を一日おきに行うよう定めた。その結果、3日の北京には青空が広がり、米環境保護庁が定めた空気質指数(0-500で表示)で良好なレベルの17を示した。ところが、空気浄化の規制が解かれた翌日には、指数は健康に良くないレベルである160に上昇した(ロサンゼルス・タイムズ紙、以下LAT)。

 昨年秋のAPECサミット時にも同様の措置が取られ、青空が広がった。素晴らしくも束の間だったことから「APECブルー」と呼ばれたが、その15倍の集中規制で作り出した今回の「軍事パレード・ブルー」も、あっという間に灰色に戻ってしまった、とLATは述べている。

◆明らかになった汚染の実態
 エコノミスト誌は、大気汚染の範囲や被害などの情報は、中国ではこれまでほとんどが衛星からのデータやコンピューター・モデルに基づいたものであり、実測が始まったのは最近のことだと説明する。

 世論の抗議に応える形で、政府は約1000ヶ所に観測所を儲け、二酸化硫黄、オゾン、PM2.5を含む6種類の汚染物質の測定を始めた。このデータを使用したアメリカの非営利団体バークレー・アースの研究によれば、中国人の83%は、米環境保護庁の基準で「不健康、または敏感な人々には不健康」というレベルの空気を吸っており、人口の半分は、健康に影響が出るレベルのPM2.5にさらされているという結果が出ている。同団体のリチャード・ミュラー氏は、北京の空気を吸うことは、たばこを1日約40本吸うのに等しく、大気汚染が原因で死亡する人は全国で年間160万人おり、全死因の17%に相当すると述べている(エコノミスト誌)。

 大気汚染の被害は、国内のみにとどまらない。米ニュースブログ『Think Progress』は、科学誌『Nature Geoscience』に掲載された研究を取り上げ、中国の大気汚染物質がアメリカ西海岸に運ばれてきていると報じている。この研究によれば、呼吸器疾患の原因になるとされる汚染物質オゾンは、偏西風に乗ってアメリカに移動。西海岸地域では、オゾン排出削減に取り組んでいるが、その努力の43%が、中国から運ばれるオゾンによって相殺されていると述べ、大気汚染への取り組みは1国のみでは難しいと指摘している。

◆ついに政府も本腰を入れるか?
 ウェブ誌『Quartz』によると、来年前半に開業予定の上海ディズニーランド周辺の150の工場の閉鎖が決まったらしい。政府のウェブページでは、繊維、化学、鉄鋼などの、高汚染、高エネルギー消費、低効率の工場が対象になるとされている。同誌は、北京よりはましだが、上海も基準越えの大気汚染を経験していると指摘。マジックキングダムに来てもどこも灰色では、来園客は納得しないと述べ、大気汚染がイメージダウンにつながるのを、ディズニー、中国双方が危惧したことを示唆している。

 国内外での深刻な懸念を背景に、中国政府も大気汚染対策に本格的に取り組もうとしている。中国全国人民代表大会は、8月末に「新大気汚染防止法」を公布。ガソリンの質を高めてPM2.5の排出などを抑えること、また石炭使用の効率化を図ることなどが盛り込まれ、違反に対しての罰金の額も大きく引き上げられた。

 LATによれば、北京の「軍事パレード・ブルー」が消えた後、中国の多くのネットユーザーは、主要イベントのためにだけに青空を作る政府のやり方に不満を漏らしたという。新しい施策により、中国に普通の青空が戻る日を期待したい。

Text by 山川 真智子