米国「CO2、30年までに32%削減」 原子力と再エネ頼みも…達成困難な理由とは?

 8月3日、オバマ大統領は過去最も厳しいCO2規制を盛り込んだ新クリーンエネルギー計画を発表。化石燃料から原子力や太陽光などの再生可能エネルギーへ転換を促す内容だ。しかし、産業界の反発や石油価格下落で中国の脱化石燃料が遠のくなど、実現に向けた課題は山積みである。

◆過去最高に厳しいCO2削減目標値
 アメリカのCO2排出量の多さは中国に次ぐ世界第二位。オバマ大統領は2009年就任時の「グリーン・ニューディール」以来、原子力や再生可能エネルギーなどの「クリーンエネルギー」への転換を推進してきたが、この8月3日、2030年までに2005年水準から32%減と、これまでで最も厳しいCO2規制を掲げた「新クリーン電力計画」を発表した。計画期間を2022年から向こう15年間とこれまでになく長期化し、州と連邦政府の補助金に頼っている再生可能エネルギー会社の経営を安定させ、投資を呼び込もうとするものだ。目標値達成のためのクレジットや引当金などのインセンティブと、罰則規定が盛り込まれている。

 エクソンモービルやユニリーバ、ロレアルなどのグローバル企業から零細な環境ベンチャーまで365社と州知事29人が、新計画は経済と雇用創出にメリットがあるとして、環境規制は経済機会の損失とする共和党に支持を働きかけたという(ガーディアン8月3日付)。

◆新計画は妥協の産物
 実のところ、計画は当初案から大きく後退している。NEDOワシントン事務所のまとめによれば、当初2020年開始を予定していたが2年遅れになり、当初は含まれていた需要側を計画対象から外すとともに、規制対象からエネルギー効率化・新規原子力発電・既存再生エネルギーを除いた。また電力ミックス方式は、当初なかった州政府プランのオプションを採用しても構わないとするなどの変更が加えられた。(NEDO調査レポート8月7日付)。

 近年、高額の維持管理費を要する原子力発電は、低価格化している再生可能エネルギーとの競争に勝てず、ムーディーズ・インベスター・サービスによると、全米の約10%の原子炉がそのために早期撤退しているという。新計画に当初盛り込まれたCO2排出ゼロの新型原子炉については、それがまだ建設されていない段階で早期に旧式炉が操業を止めた場合、新基準に照らしてペナルティを払わねばならず、現実的に達成が困難だと訴えた経緯がある(ブルームバーグ8月4日付)。

 こうした譲歩にも関わらず、シェールガス・オイル規制法案に対すると同様、製造業などの大口需要家や化石燃料への依存度が高い州から連邦政府が司法に提訴されるのは確実と言われている(ロイター8月4日付)。

 同計画が完全実施されれば、2030年までに全米の電力関連施設から排出される炭素量は、2005年水準からの32%減、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(Sox)などの有害物質も過去最低になるという。その一方で、2030 年においても石炭が全体の 27% 、天然ガスが 33%を占めると予測している。

◆原子力発電の新市場開拓も望み薄?
 計画の目玉は、再生可能エネルギー利用の積極推進と脱石炭火力と言えそうだが、風力・太陽光発電は自然由来ゆえに普及すればするほど電力価格が下がり、構造的に利益が出ないため、補助金頼みから自立して完全市場化するのは困難とする環境先進国ドイツの研究が伝えられている(FT8月3日付)。

 一方、原子力業界は石炭火力発電に頼る中国やインドなど新興経済大国に期待をつないでいる。気候変動と経済の問題に取り組むハーバード・ビジネススクールのジョー・レシター教授は、「中国とインドには、石炭に代わるオルタナティブが必要だ」と、特に中国における原子力発電への転換の有用性を訴えている(ワーク・ノウリッジ8月7日付)。

 しかし中国は、この間に世界最大の石油輸入国となった(ロイター5月11日付)。最大の輸入先はクリミア併合により経済制裁が科せられたロシアで、中国の石油輸入先はロシアが第一位となった(Newsclip.be6月28日付)。決済は二国間通貨スワップで人民元を使用しているため、アメリカ金融市場への打撃も加わった。一方、中国経済の影響で世界の先行き不透明感も増している。

 オバマ政権最後の野心的政策と言えるクリーン電力化計画の実現は、内外のさまざまな要因によって課題山積みと言わざるを得ないようである。

Text by 相庭烈