狩猟は許されるべきか?海外で論議 “合法化は動物保護につながる”という見方も

 今年7月、ジンバブエで人気者だった野生のライオン「セシル」が、頭を切り落とされた状態で発見された。その後、米ミネソタ州の歯科医師、ウォルター・パーマー氏が、保護地区外にセシルをおびき寄せ、射殺していたことが分かった。この事件に、世界中から批判が殺到。ハンティングのあり方自体が議論されている。

◆ハンティングはエゴのため
 欧米では、「トロフィー・ハンティング」という、野生動物の猟が合法で、記念品(トロフィー)として、倒した動物の剥製などを持ち帰ることができる。ナショナルジオグラフィック誌によれば、パーマー氏は、セシルを撃った場所が狩猟禁止区域とは知らなかったと、自らを弁護。しかし英ガーディアン紙は、そもそも同氏が5万ドル(約600万円)の大金を払って猟に参加していたことが人々の怒りを買ったとしている。

 ナショナルジオグラフィック誌に記事を寄せた、野生動物保護を訴える映画製作者、デレック・ジュベール氏は、ハンターによって毎年500頭以上のライオンがアフリカで命を落とし、その頭部や皮の8割は、アメリカに持ち帰られていると話す。彼らは仕留めた獲物を自宅に飾り、招いた人々に「勇敢さ」を自慢したいのだと同氏は主張。素手で仕留めるならともかく、ハイパワーライフルなどの最新装備で獲物を撃つことに勇敢さなどないと述べ、ライオンがハンターのエゴの犠牲になっていると憤る。

 ジュベール氏は、世界にいる野生のライオンは2~3万頭で、セシルのようなオスライオンは、3000頭ほどしかいないだろうと指摘。トロフィーハンティングに対し、周りがプレッシャーをかけなければ、ハンターたちの態度は改まらないとし、米政府にライオンを絶滅危惧種に指定するよう求める嘆願書への署名活動を支持している。

◆ハンティングは動物保護に貢献?
 一方ウェブ誌「Vox」は、正しく規制されたハンティングは、野生動物の保護には効果的という意見もあると紹介。ハンティングを合法化すれば、許可証の販売や、外国人の持ち込む現金への課税から利益を得ることができるため、政府がその一部を自然保護に利用すれば、動物の個体数減少を緩和できると説明する。また、合法のハンティングで利益が上がれば、住民はより動物保護に理解を示すという見方もあり、実際に南アフリカでは、ハンティング合法化後、シロサイの数が100頭以下から1万頭以上に回復。地主がハンティングの恩恵を知り、シロサイ保護に努めたからということだ。

 ところが、ライオンの場合は効果が上がっていない。科学者のピーター・アンドリュー・リンゼイ氏らは、ジンバブエなど数ヶ国で行なった調査の結果、最大の問題は、政策と管理のずさんさにあると指摘。個体数を減らさないよう決めるべき捕獲頭数割り当ては、科学的な方法よりも個人の主観がもとになっており、過剰にライオンが殺されていると述べる。さらに、若いライオンを繁殖前に殺さないための年齢制限をしない国があることや、管理する役人の腐敗など、いくつかの問題を挙げている(Vox)。

 リンゼイ氏らは、結論として頭数割り当てを厳しくし、管理体制を改善することでハンティング継続は可能だと主張する。さらに、ハンティングから得られる金は、地元の社会福祉などにも必要とされており、ライオン保護のためにハンティングを止めれば住民の生活にも打撃を与えることになる、という厳しい現実を指摘している(Vox)。

◆調査研究資金にも問題は飛び火
 ガーディアン紙によれば、セシルの訃報を聞いた人々から寄付が殺到。集まった55万ポンド(約1億円)は、セシルを使ってジンバブエで調査を続けてきたオックスフォード大学の野生動物保護調査ユニット(WildCRU)に、さらなるトラ、ライオン類のための調査研究資金として贈られた。

 ところが英テレグラフ紙によれば、WildCRUは「持続可能なトロフィーハンティング」を支持する企業から資金提供を受けていることが発覚。WildCRUのデビッド・マクドナルド教授は、同団体の研究は証拠に基づいたもので、寄付者の意見が影響することはないと釈明したが、トロフィーハンティング禁止を求める団体からは非難の声が上がっている。

 完全禁止か規制強化の継続か。ハンティングを巡る議論は終わらないようだ。

Text by 山川 真智子