大統領選:二極化進む米国、クリントン氏に逆風か 金銭スキャンダルも発覚

 来年のアメリカ次期大統領選では、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官が史上初の女性大統領になることが有力視されている。同氏は7月中旬には政権構想も発表した。しかしこのところスキャンダルの発覚により民主党内からも批判が出るなど、人気に陰りが出始めている。背景には、豊かさの二極化と保守・リベラルの二極化の進展がある。

◆ヒラリー・クリントンの金銭スキャンダル
 前々回2009年の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン氏は元ファーストレディ兼政権スタッフ、ニューヨーク州上院議員という華麗な経歴を武器にしつつも、弱冠48歳の「史上初の黒人大統領誕生」に伴うアメリカの変化への期待の前に敗れた。オバマ政権では国務長官を一期、2013年2月まで務めて政権を去った。 昨年11月の連邦議会選挙の結果、共和党が上下両院で多数を獲得した時、FOXニュースの世論調査で大統領の筆頭に名が挙がったのはクリントン氏だった。今年4月、正式に2016年出馬を宣言し、7月には政権構想も発表した。

クリントン氏が支持される理由は何だろうか?実は「他に人材がいない」ための消去法と言われている。リベラル派内にも、当選した場合、初年度に70歳を迎えるクリントン氏に鮮烈さはない、体制内で成功した富裕者に変革は期待できない、とする突き放した見方があるという。クリントン夫妻に次々発覚する金銭スキャンダルが、そうした見方を増大させている。

 最近では、夫妻が創設したクリントン財団が、2001年から12年までの間に外国の政府・企業などの献金のトンネルに使われた疑惑が、今年5月に発覚した。7月には、クリントン氏が国務長官時代に米内国歳入庁(IRS)が、アメリカ人の税金逃れ口座開設についてスイスの大手銀行UBSを訴えた件に介入して和解させ、その後UBSからクリントン財団に2008年から2014年の間に総額60万ドルの献金があったことが明らかになった。「これらに違法性はない」とクリントン氏は主張するが、さまざまな疑惑が取りざたされている(ウォール・ストリート・ジャーナル7月30日)。

 ワシントンポストとABCニュースが共同で実施した6月の世論調査では、まだ他の候補者よりリードしているが、不正疑惑により2ヶ月前より支持率が低下した。こうした情勢から、民主党代表選対立候補の70歳代の左派ヴァーモント州上院議員バーニー・サンダース氏の存在感が急浮上しており、ブルームバーグ(7月28日)はクリントン氏にとって侮れない相手と分析している。

◆保守・リベラル二極化と保守派の同質性志向が強まる
 政治に関する世論調査で定評があるピュー・リサーチセンターの昨年6月の報告によると、この20年間にアメリカ有権者層には、ある変化が起きている。それは保守とリベラルの二極化の進展で、保守派は「環境規制などの政府規制はムダで経済的機会損失を生み、貧困層は福祉に寄生するだけで社会に貢献しない」と考え、居住地や交友範囲でも政治的同質を好み、反対政党を害悪視し、積極的に批判する傾向が強まっているという。一方リベラル派は、意見傾向は真逆で、異なる意見にも妥協できる度合いが高いという(Fact Tank 2014年6月1 2日)。

 思想傾向の二極化と同時に、豊かさの二極化も進展して、中間層の中流階級が減少しており、今はまだ良いが明日は貧困層に転落するかもしれないという不安を、多くの中流層が抱えているという調査結果もある(ハフィントンポスト6月12日)。伝統的に共和党の支持基盤である中流の保守層が、明日への不安を抱えながら土着・排外的傾向を強めていることは、全国区で優位に立てる強力な候補者を共和党が出せない一方で、移民への暴言でドナルド・トランプ氏が人気を博する要因ともなっている(Foxニュース8月2日)。

 今のところクリントン氏とブッシュ氏の二強対決となる予想を覆す材料は見出しがたいが、経済格差の拡大から貧困の危機に面した中流層が、何らかの政治的反乱を起こすとき、予定調和は崩れる可能性がある。

Text by 相庭烈