“中国の株価維持策、日本以上の衰退招く”海外コラムニスト警告 日本のPKOと比較

 中国の株価下落が止まらない。あおりを受け、日本でも8日、日経平均株価が今年最大の下げ幅を記録、2万円を割り込んだ。中国政府機関はこのところ毎日、驚くべきペースで、さまざまな措置を繰り出しているが、株価下落を食い止めることに成功していない。海外メディアでは中国政府の取り組みを、コラムニストらが、日本政府が1990年代に行ったプライス・キーピング・オペレーション(株価維持政策、PKO)と比較している。PKOは不況を長引かせる一因となったとの指摘がある。

◆「後でつけが回ってくる」公的資金での株価維持
 ブルームバーグのオピニオンサイト「ブルームバーグ・ビュー」のコラムニスト、ウィリアム・ペセック氏の主張の根底には、PKOが日本の不況とデフレを長引かせる一因となったとの見方があるようだ。中国は現在、日本のPKOをはるかに上回る規模で、株式市場への介入を準備している。氏はこれが原因でほぼ確実に、中国共産党にも日本と同じように、後でつけが回ってくるだろうと述べている。

 PKOは1992年に始められたもので、バブル崩壊による株価の下落を食い止めるため、公的資金による株式投資を行ったものだ。

 氏によると、時の宮沢内閣は、日本経済のもろさの根本的な原因に対する処置を行わず、対症療法だけを行った。それによって、不良債権や、支援なしでは立ち行かない企業が増加し、日本経済を苦しめた、と氏は語っている。

 その後の歴代総理も、多すぎる規制、柔軟性のない労働法、高い関税率の改革に取り組んでいないとする。氏は、安倍首相の経済再生計画も、先任者たちのものと同様、(株などの)資産価格の押し上げを中心としている、と語る。

◆対症療法だけでは、後々のダメージが拡大する
 ペセック氏は、中国の習近平国家主席は日本の基本計画を踏襲している、とし、中国も必要な改革に踏み込まず、対症療法に終始しているという見解を抱いているようだ。氏が特に注目しているのが、株式市場の自由化、ひいては経済全体の自由化への取り組みが不十分であるという点のようだ。

 氏は、このまま株価が大暴落し、中国が景気後退に陥った場合、主にアジア地域が打撃を受けるが、リーマンショックほどの規模にはならないだろう、と推測する。しかし、中国経済が、過剰な(公的)投資頼みから脱却するのが遅れれば遅れるほど、影響はリーマンショックに近づいていくだろう、としている。また、たとえ差し迫った将来、本格的な危機が訪れないとしても、長期的で、ゆっくりとした日本のような衰退が起こるかもしれない、としている。さらに、こういったことが中国で起これば、日本の場合よりもひどいことになることもにおわせている。

◆中国政府の勢力は日本より強固なだけに、なお危険
 ロイターのコラムニスト、ジェームズ・サフト氏も、中国の現在の取り組みと、日本のPKOを比較している一人だ。氏の主張の中心は、日本の経緯からも分かる通り、このやり方では結局うまく行かない、ということのようだ。

 中国(政府当局)は、株式市場を支えるため、ますます必死の措置を取っている。株価を支えるのにどんなコストもいとわない。けれどもこれらの措置は、株価を支えはするが、株価を実態からかい離させ、有害だと氏は語る。

 おそらく、歴史上、最も類似したものは、1992年に日本の大蔵省が行ったPKOだろう、と氏は述べる。当時の日本の考え方は、当局が株価を押し上げられさえすれば、民間投資家がこれに続き、経済回復も続くだろうというものだった。おそらく現在の中国もこれと同じだろうと氏は語る。日本の場合、1994年にPKOが終了してすぐに株価が急落した。その後、日本と日本の株式市場にやって来たのは、暗たんとした歴史である、と氏は語る。

 さらに氏は、(一党独裁の)現在の中国政府は、1992年当時の日本政府よりも、疑いなく強い勢力があると指摘する。それだけになお一層、中国の資本市場のゆがみが有害なものとなって、最終的な代償は十中八九、日本の場合よりもはるかに高くつくだろう、と氏は警告している。

◆国民の預金がバブルに流れ込む中国の銀行システム
 フォーブス誌に寄稿したロングアイランド大学経済学科主任のパノス・モウルドクトス教授は、株バブルにとどまらず、中国のバブル問題全体について論じ、その中で、日本が経験したバブルとの比較を行っている。

 中国政府が経済を活性化しようと再三行っている企てが、株式市場を含め、あらゆる方面でバブルを膨らませており、問題を悪化させている、と教授は語る。日本のバブルの場合は、政府の政策に順応したものだったが、中国のバブルはそれと違い、政府が政策的に直接指揮しているものだ、としている。

 中国政府がなぜそのような政策をとっているかについて、教授は、中国が今でも経済の中央集権的計画という古い制度を維持しようとしていることが理由と見ている。

 中央政府、地方政府は、実需を満たすためではなく、雇用対策の意図をもって、大規模な建設、製造事業を行っている。その結果、入居者のいない新築物件が主要都市にあふれている、と教授は指摘する。こういった公共投資頼みの傾向は、2008~9年の経済危機後により明白になったとのことだ。

 教授によると、中国のバブルに資金を提供しているのは、国有銀行と、投資信託会社だという(中国の銀行はほぼ全てが国有)。これらが国策機関として機能しており、中国の銀行は、預金者と株主の利益を促進せずに、集められた預金は、政府が決定した不動産事業と国有企業の資金になるとのことだ。教授によれば、その上、労働者はしばしば、給与のある一定割合を国有銀行に預金することが求められるのだという。銀行は不動産開発業者、倒産寸前の企業に資金を提供するが、その銀行へは、預金者と納税者が資金を提供している。こういった仕組みがあって、中国のバブルはいまだに崩壊を免れている、というのが教授の見解だ。

 もしこのシステムが崩壊した場合どうなるのか、教授は語っていないが、多くの銀行が不良債権の温床になっているというのは、肝が冷える事実だろう。

Text by 田所秀徳