きっかけは22年W杯投票? 米当局、FIFA汚職摘発の理由 “誰もやらないなら我々が”

 アメリカ司法省は、恐喝、詐欺による不正な金儲け、電信詐欺、資金洗浄を企てた疑いで、国際サッカー連盟(FIFA)の幹部ら14名を起訴したと発表した。汚職はワールドカップ開催国決定、FIFA会長選挙、スポーツ・マーケティング取引等に絡んだもので、FIFAの組織的腐敗に、外部のメスが入る形となった。

◆私腹を肥やす幹部たち
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、27日早朝、FIFA幹部が年次会合のため集まっていたチューリヒの高級ホテルに、スイス当局が送り込んだ十数人の私服警官たちが到着。一部の幹部が収賄容疑で逮捕され、アメリカ側に引き渡された。幹部の中には、一人で1000万ドル(約12億円)の賄賂を受け取った者もいるという。

 米司法省、FBI、合衆国内国歳入庁(IRS)は、FIFAの上層部にいる関係者が、ビジネス上の決定権を、私腹を肥やすために利用してきたと厳しく批判した(NYT)。IRSのリチャード・ウェバー捜査課長は、「これこそ不正のワールドカップだ。今日、FIFAにレッドカードを与える」と述べ(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)、腐敗と戦う姿勢を示している。

◆なぜアメリカが捜査に?
 イギリスBBCは、サッカー好きでもないアメリカが、今回FIFAの腐敗摘発に乗りだしたことに注目。理由があるとすれば、2022年のワールドカップ招致にアメリカが失敗した際、カタールへの投票を促す買収工作が疑われたことだろうと述べる。

 実は、FIFAは2012年に開催地の選考過程についての調査を開始。アメリカ人弁護士、マイケル・ガルシア氏が率いる倫理委員会がレポートを作成し、選考がオープンかつ民主的なものでなかった可能性を指摘したが、レポートが公開されることはなく、投票の不正は正されなかった(NYT)。

 元FIFAの反汚職アドバイザー、アレクサンドラ・レージ女史は、「多くの国がFIFAを恐れている」とBBCに語り、米司法省は、「他国がやらないのなら、我々が」という姿勢を示したと述べている。

 BBCによれば、外国人が絡むケースの起訴である場合、米当局は、それが少しでもアメリカと関係あることを証明すればよいと言う。今回は、マーケティングやメディア契約の見返りを求めた賄賂についての話し合いが何度もアメリカで行われ、金がアメリカの銀行口座を通して送金されているため、アメリカにおいて責任を問うことが可能になるらしい。

◆注目はFIFA会長
 さて、多くのメディアが注目するのが、29日に行われる会長選で5期目の当選が確実視される、FIFA会長のブラッター氏だ。NYTは、同氏こそ、1998年以来、15億ドル(約1800億円)以上の準備金を持つ巨大スポーツ組織を率いてきた人物だと紹介。WSJは、閉鎖的なマネージメントと空気の読めない態度で批判されてきたものの、まさにFIFAの目覚ましい経済的成長の時代を監督し、そのため熱烈な忠誠心を獲得してきたのも彼だと述べる。

 ブラッター氏は、これまでFIFAと自身への腐敗批判をうまく切り抜けており、今回も、FIFAの報道官は、同氏はどのような汚職にも関わっていないと発表している(NYT)。
しかし、すでに逮捕された幹部たちがFBIの捜査に応じれば、捜査はサッカー界の最上部にまで及ぶだろうとウェブ誌『Daily Beast』 は指摘。米司法省側が「今回の起訴が捜査の最終章ではない」と発言していることから、ブラッター氏も安泰ではないことを示唆した。

◆汚職はナイキにも飛び火
 ブルームバーグは、今回の事件に関連し、1996年にシューズやウエアなどをブラジルの代表チームに独占的に提供することと引き換えに、10年間で1億6000万ドル(約198億円)をブラジル側に支払うという取引をナイキが行なっていたと伝えた。別の契約では、マーケティングの権利を売買するブラジルの会社にもナイキから4000万ドル(約48億円)が流れており、一部はFIFAやブラジルサッカー界の幹部に渡されたという。

 ますます広がりそうなこの事件。今後の展開を注目したい。

Text by NewSphere 編集部