ミャンマーの反政府組織を中国が支援か 両軍衝突危機の背景とは

 中国南西部・雲南省のミャンマーとの国境近くの山岳地帯で13日、ミャンマー軍機とみられる航空機が爆弾を投下し、サトウキビ畑で農作業をしていた中国側の農民5人が死亡、8人が負傷した。ミャンマー側のコーカン自治区では、中国系少数民族の武装勢力と政府軍の戦闘が激化しており、数日前からミャンマー軍機の領空侵犯・爆撃、撃墜事件があり、紛争状態にあったという報道もある。

 事件後、中国人民解放軍の大規模な部隊が国境地帯に展開。一触即発の事態が続いていると見られる。中国のインターネット上では、反ミャンマー感情が高まっており、「中国のクリミアだ」とコーカン自治区の併合を求める声も出ているという。米紙などが詳しく報じている。

◆5日前と前日にもミャンマー軍機が越境爆撃か
 ワシントン・タイムズ紙によれば、今月13日、ミャンマー空軍のMiG-29戦闘機と攻撃ヘリが2度に渡って越境し、中国側の村に少なくとも3個の爆弾を投下。サトウキビ畑で農作業をしていた5人が死亡、8人が負傷した。中国国営新華社通信によると、20日の時点で重傷者3人のうち2人は命に別状はないが、一人は危険な状態だという。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、現場にいた男性の生々しい証言を掲載している。それによれば、当時、サトウキビ畑では20人ほどが農作業をしていた。証言者のヤン氏は、爆発があった瞬間、近くにいた弟が地面に倒れこんで胴体から血を流しているのを見た。さらに、数メートル先では、母親がズタズタに切り裂かれた左足を掴んでいたという。左足切断という大怪我を負った母親は、後に病院のベッドで「ミャンマーでの戦争をなぜ、中国の一般人にまで持ってくるのか?私たちは攻撃してないのに」とコメントしている。

 報じられている限りでは、偶発的な“誤爆”とは言えないような状況も見て取れる。ワシントン・タイムズによれば、まず、今月8日にミャンマー空軍のMiG-29が中国領空に入り、2個の爆弾を投下。村の家屋を破壊した(死傷者なし)。さらに、12日にもミャンマー軍機が中国領空で2個の爆弾を投下し、丘に激突したという。被害など詳細は不明だが、このミャンマー軍機は中国側の地対空ミサイルで撃ち落とされたと見られている。13人が死傷した事件は、その翌日に起きた。

◆コーカンと中国の強い結びつき
 ミャンマー側のコーカン自治区は、古くから中国系住民(漢民族)が多く暮らす地域だ。北京語方言が公用語になっており、国境を超えた縁戚関係や交易で中国と深く結びついている。「ミャンマー国家民主主義同盟軍(MNDAA)」を名乗る反政府武装勢力は、かつて中国共産党の分派のビルマ共産党の支援を受けていた。1989年に社会主義体制から軍事政権に移行してからは、中国の後ろ盾が薄まり、政府軍との戦闘は小康状態になっていたが、最近再び激化している。その背景には、MNDAAが国境地帯にはびこる麻薬売買で利益を上げ、武装を強化していることがあると言われている。

 ミャンマー軍は最近、中国側の地元政府がMNDAAに物資補給などの支援をしていると非難を強めていた。さらに、軍情報部のトップが「よく訓練された中国兵」がゲリラ側に加わっていたと発言したことで、中国中央政府との間で物議を醸していた。また、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、ミャンマー軍がソーシャルメディアにはびこる国民の反中感情を煽っていると指摘。軍公式のFacebookアカウントでMNDAAのリーダーと中国共産党の結びつきを示唆するなどの情報戦を展開しているという。

 対する中国側のソーシャルメディアでも、爆撃事件後、反ミャンマー感情が高まっているようだ。中にはコーカンを「中国のクリミア」と呼び、併合を叫ぶ声もあるという(ワシントン・タイムズ)

◆正規軍同士の直接衝突の可能性も
 事件当日の夜、中国政府は北京駐在のミャンマー公使を召喚し、「異例の厳しい態度」で説明と解明調査を求めた。さらに翌日、人民解放軍幹部がミャンマー軍幹部に、「もし再び同様の事件が起きれば、人民解放軍はただちに介入する」と最後通牒を突きつけたという(ワシントン・タイムズ)。ミャンマー軍は死傷者が出た事に「深い悲しみ」を表明したが、領空侵犯自体を否定しており、事件の責任はMNDAA側にあるとしている。

 国境地帯は今も危険な状態にあるようだ。米議会が出資する短波ラジオ局『ラジオ・フリー・アジア(RFA)』の報告によれば、中国側でミャンマー軍機が落としたと見られる不発弾が新たに発見され、地元政府が調査中だという。また、ミャンマー側では何者かが戦闘を逃れてきた住民約4000人が暮らす難民キャンプに5個の手榴弾を投げ込み、そのうちの1発が爆発(死傷者なし)したと、同地で働くボランティアスタッフが証言している。

 難民の流出も続いており、中国側には6万人規模の難民キャンプがあるとされている。これについて、国連が調査を申し入れたが、中国政府は内政干渉を理由に拒否している。また、コーカン中心部、ラオカイの町の住民によれば、通りには人っ子一人おらず、焼き払われた家がくすぶっているという。

 「中国軍が国境地帯でのプレゼンスを引き上げた今、人民解放軍とミャンマー軍の直接衝突が起きる可能性が生じている」と、国際情報収集機関『ストラトフォー・グローバル・インテリジェンス』の調査報告書は記している(NYT)。

Text by NewSphere 編集部