インドネシア:GM撤退に追い込む、日本のミニバンの強さ 現地大臣“信頼している”

 日本車のシェアが9割を超えるインドネシア。まさに「日本車天国」と言っても過言ではない状況である。2015年に入っても、日本車の異常なまでの強さは変わらず、日系メーカーの現地工場は増産・拡張・新設の一途である。

◆自動車市場のポジとネガ
 現地メディアのムルデカ・ドットコムは、三菱自動車がジャカルタ郊外に新工場を建設する話題を報じている。

「2014年の我が国の自動車市場は伸びを見せなかったが、それとは逆に三菱自動車は増産の道を進んでいる。(中略)この成果を背景に、同社はジャカルタ郊外カラワン工業団地に新工場を建設する。この工場は年間16万台の生産を目指す」

 ちなみにこの16万台のうちの半分、8万台はミニバンになるという。燃費のいいミニバンは、インドネシアでは売れ筋の車種である。

 この時点で「やはりインドネシアは景気のいい国だ。自動車がよく売れる」という感想を持つ読者もいるだろう。だが実は、三菱自動車はインドネシア自動車市場のポジの部分である。ポジには必ずネガがついている。そのネガとは、何と米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)だ。

◆GMの「自殺行為」
 ブカシ市のポンドック・ウングにあるGM完成車工場が、今年6月末までに閉鎖される。そこで働く約500人の従業員は解雇される予定だ。この話題については、現地紙シンドニュースの記事が「1995年に設立されたこの工場は、2005年にその生産が停止されていたものの、2013年5月に操業が再開されたという経歴を持つ」と伝えている。

 つまり、GMブカシ工場にとって今回の撤退は二度目の敗北ということである。なぜ、このような“天国と地獄”が出現してしまったのか。日本車の妖怪じみた強さについては、各メディアがそれぞれ分析している。

 現地メディアのリマニュースは、「日本車の優勢が招いた、GMインドネシアの破綻。同社が目指していたシボレー・スピンを主力とするミニバン市場攻略は、まさに自殺行為であった」と非常に強い論調でGMの失策を論じている。

 GMが手がけるシボレー・スピンは、2012年から製造販売されているミニバンである。ブカシ工場で生産が始まったのは2013年。だが、その販売台数は一向に振るわなかった。

 同メディアは、「スピンの販売台数は、同社の生産キャパシティーの半分にも届かなかった。2014年にブカシ工場で生産されたスピンは約4万台、同年の国内販売はそのうちの8412台に過ぎない。国外輸出も3000台のみである」と述べ、さらに、GMの敗北を日系メーカーの得意分野に切り込んでしまったが故の結果と分析する。だからこそ記事の冒頭で「langkah bunuh diri(自殺行為)」という表現を記載しているのだ。

◆難攻不落の砦
 GMのインドネシア撤退については、現地政府の閣僚も言及している。現地テレビ局のメトロTVは、「インドネシア市民は日系メーカーの製品により信頼を置いているのが原因」、「現在のインドネシア自動車市場は日本車が圧倒的優勢で、日系メーカーと競合してしまうクラスの製品の新参入は難しい」とのソフヤン・ジャリル経済調整担当大臣の言葉を報道している。

 この記事の「日系メーカーと競合してしまうクラスの製品」とは、主にミニバンを指すことは明白だ。独自の付加価値を持ったフォルクスワーゲン、富裕層のみを対象にしているメルセデスなどは「日本車の牙」から距離を置いた場所で生き続けることができる。だがGMにそれは不可能だ。インドネシアの自動車市場の9割強を確保している妖怪と、真正面から戦わなければならないのである。

 独自の付加価値がないということは、ライバル社の製品との価格差があってはならないということだ。となると、その製品は現地生産を宿命づけられる。だが、現地に工場を作った以上は必ず競争に勝たなくてはならない。果敢に戦場に飛び込んでいったGMは、奮闘実らず大敗北を喫した。インドネシアでの日系メーカーの牙城は、当分崩れることはないだろう。

Text by 澤田真一