表現の自由擁護はフランスの命取りに? 台頭する民族主義に仏紙警戒感

シャルリー

 今年始めに起きたシャルリー・エブド社襲撃事件以来、フランス国内でも言論の自由について話題になる機会は当然ながら増えている。事件直後は「私はシャルリー」と掲げて町を歩く人の姿があちこちで見られ、2ヶ月経った今もレストランや商店などの入り口、さらにはパリの市庁舎にも「私はシャルリー」というポスターが貼られている。

◆子どもが自己表現に戸惑い
 仏週刊誌le Percheは、この事件の子ども達への影響について、「図工の授業で、生徒達が自分を表現することを戸惑っている」と、不可解なイメージの工作をする子どもが増えたことを紹介。表現の自由が脅かされた事件に子ども達もショックを受けていることは事実であり、事件の後に明らかに変わった子ども達の態度を見て見ぬ振りをしてはならないとしている。

◆ポリティカル・コレクトネスと表現の自由のジレンマ
 他宗教を風刺することが偏見を助長するという考え方と、表現の自由は絶対的に保障されるべきであるという立場は、フランス内でも対立している。仏週刊誌le Pointは、「精神分裂病のフランス」というコラムを掲載。

 「ポリティカル・コレクトネス(人種、宗教、性別などに配慮し、偏見、差別のない表現を用いること)」を尊重すべきだと言う意見には、「『ポリティカル・コレクトネス』というアメリカ発の考え方が、国の成り立ちを異にするフランスで同じように語られること自体に問題があるのではないか」、「政治的な正しさを追求するためにある種の言葉や言い回しが実質的に禁止されることで思考が監視され、一国の発展のために必要な議論が制限されることになる」といったコメントが寄せられた。政教分離を成し遂げたのと同様に、表現と政治は分けて考えるべきという声が根強い。

◆民主主義政治の根幹をゆるがす出来事
 しかしながら、昨年の欧州議会議員選挙で極右政党の国民戦線が大躍進を遂げるなど、人種差別を擁護しかねない民族主義が支持を広げる中で、表現の自由を手放しに支持することはフランスの今後にとって命取りともなりかねないという主張も多い。移民が多いフランスで、様々な背景をもつ民族がともに生活するには、それぞれの文化への理解が欠かせないからだ。

 Liberation(社会民主主義派の仏紙)には、「シャルリー・エブド社の一件は今後の選挙戦に決定的な要因となり得る」というヴァルス首相のインタビューが載っている。首相はさらに、民主主義国家として投票によって(表現の自由の在り方を含めた)国の方針を定めるべきだということを呼びかけている。

◆自由の国、フランスは「自由」の再考を迫られる
 18世紀の革命で民主主義を勝ち取ったフランスでは、常に「自由」についての議論が絶えない。表現の自由はもちろんのこと「愛」の自由もフランスでは頻繁に語られる。同性婚や同性カップルによる養子縁組、オランド大統領の不倫騒動、さらに最近は、既婚女性がデート相手を見つけるためのサイトが広がりを見せる(International New York Times)など、賛否両論あれども、「自由」の解釈は基本的に「自由」に成り立ってきた。しかし、「自由・博愛・平等」をモットーとするフランス国民に大きな衝撃を与えたシャルリー・エブド社の事件は、「自由」とはそして「権利」とは何なのかということを、フランスに改めて問いかけている。

Text by NewSphere 編集部