米イスラエル首脳不和の裏側とは? イラン核協議大詰め 入り乱れる各国報道

 イスラエル諜報機関モサドが2012年10月に南ア連邦に送った報告の中で、イランは原子爆弾を生産するに充分なウランの濃縮は行なっていない、と伝えたという。むしろ、平和利用で核プログラムを進めているようだ、と報告している。モサドの調査によると、イランの核濃縮レベルは5-20%で、核兵器生産に必要な70-90%の濃縮レベルにはない(スペインのプブリコ紙)。しかし、欧米とイスラエルのイランへの不信は止むことはない。

◆大詰めの核協議
 イラン核協議P5+1は米国、英国、フランス、ロシア、中国、ドイツとイランとの間でこれまで2度の延長を行ない、3月31日までに大枠をまとめ、6月30日の最終合意に至るために協議が進められている。

 3月4日、スイスにてケリー国務長官とイランのザリフ外相も参加して、米国とイランの協議が行なわれた。この協議結果について、米国高官のひとりは匿名という条件で記者連盟の質問に答えて、仮に3月15日の協議において双方で大枠の合意内容が決まった場合には、その時点でオバマ大統領自身が6月の最終合意まで交渉を続けるべきか否かを決定することになる、と答えたという(アルゼンチンのティエンポ紙)。

◆協議の展開内容に不安
 この核協議の展開内容に強い不安を表明しているのがキッシンジャー元国務長官を含め、米国の複数の上院議員、元閣僚、高官らであるという。彼らの不安は、協議内容が当初イランの核開発の全面廃止であったのが、ウラン濃縮度を一定の数値に制限しようとする内容に変化したことである。

 つまり、イラン側は必要とあれば、核濃縮度を高めて核兵器をいつでも生産できるのである。今回のような合意内容だと、今後サウジアラビア、トルコ、エジプトでもイランと同等レベルの核武装への機会を与えることになる、とキッシンジャー氏は語っている(メキシコのエンラセ・フディオ・ユダヤ紙)。

 イスラエルのネタニヤフ首相はこの協議に反対しており、3月3日には米共和党の招待を受けて米国議会でイランの脅威を訴えた。悪い合意内容であるなら、合意しない方が良い、と断定する演説を行なった。

 ネタニヤフ首相が米国議会の演説で伝えなかったこととして、イスラエルのデブカ・ファイル紙が同日付で興味を惹く記事を出している。それはネタニヤフ首相らがイランの核の脅威を具体的に示したものであるという。それは、一般旅客機のイラン航空がイスラエルから100km離れた海上から核爆弾を投下するというものだ。その爆破から津波が発生し、350万人が住む1500km四方に被害を及ぼし、100万人が死亡するという想定である。

 デブカ・ファイル紙はイスラエル諜報機関モサドとも関係が深い。イランによる核兵器の開発はないと2012年に一度報告を出しているモサドも、イランからの核の脅威は常に持っているということである。

 イランが米国主導の核協議で仮に核合意に至らない場合でも、イランは核爆弾を入手して民間飛行機から投下することができるという。なぜなら、サウジアラビアがパキスタンからミサイルに搭載できる核爆弾を購入しているように、イランは核保有国から核兵器を購入できるのである。なお、サウジアラビアが購入した核爆弾は現在パキスタンが保管している(イスラエルのデブカファイル紙)。

◆米国はイスラエルのイラン空爆を望んでいる?
 イランからの核の脅威について、オバマ大統領とネタニヤフ首相の双方の感度は異なっている。ネタニヤフ首相はイランを空爆して核開発設備を破壊するプランは常にもっているという。昨年、米国とイランが核協議の合意を秘かに計ろうとしたのを知ったネタニヤフ首相は、ヤアロン国防相とリベルマン外相に相談して、4日間プランを練り、イランへの空爆を実行に移そうと決めたという。それを閣僚のひとりがケリー国務長官に密告したというのだ。早速、オバマ大統領はネタニヤフ首相に「もし攻撃するなら、イスラエルの戦闘機を撃破するぞ」と警告したという。これを報じたのはクエートの新聞『アル・ヤリダ』だった。

 しかし、米国は内心イスラエルがイランを空爆することを望んでいたふしがあるという。上述のリークされた情報についても、仮にイスラエルがイランを空爆した場合、オバマ大統領の警告が、米国がイスラエルに空爆するように指示したのではないという証拠になると米国政府は考えたようである。

◆核協議以外でイランの核開発を阻止する手段
 また、米国とイスラエルが協力してイランの核燃料生産のための遠心分離機のプログラムを破壊するサイバー攻撃も進められているという。それは『Stuxnet』と呼ばれているもので、2010年には米国とイスラエルが協力して、イランの遠心分離機をサイバー攻撃し、その10分の1を破壊したと言われている(米ザ・ビル紙)。

Text by NewSphere 編集部