反米ベネズエラが窮地 「軍の下僕」マドゥロ大統領の限界か

 南米ベネズエラの債務不履行(デフォルト)を、現地の多くの専門家が懸念しているという。デフォルトは政権交代につながる、とも見込まれている(BBCムンド)。反米産油国家ベネズエラの危機は、地域情勢への影響も大きい。南米メディアが背景と現状を報じている。

◆福祉国家から、原油安・インフレで社会不安へ
 ベネズエラは石油埋蔵量世界一を誇る。前チャベス政権は、莫大な石油による収益を基に、福祉政策を強化し、高支持率を維持した。また反米路線を近隣諸国に及ぼした。

 しかしチャベス没後、昨今の原油価格の下落もあり、同国は財政難に陥っている。インフレも深刻だ。ベネズエラ中銀は、2014年のインフレを72.8%と発表した。同国アナリストは、今年のインフレを110%と見込み、「近年でもっとも厳しい状況」と予測している(ベネズエラのプロダビンチ・デジタル情報紙)。

 インフレ、物不足、治安の乱れなどにより、昨年前半から抗議デモが多発した。警察と軍隊の弾圧は過激で、43人が死亡、900人が負傷、2500人が逮捕された。人権侵害や報道規制は、マドゥロ政権下でさらに悪化している。無実の野党指導者らも収監されたままだ。米国からの釈放要請も、マドゥロ大統領は内政干渉だと一蹴した。

◆ 米国は制裁で圧力をかける
 これに対し、米国は制裁で圧力をかけている。オバマ大統領は12月、既に議会で可決されていた制裁法案に署名した。制裁は、ベネズエラ政権に関与している56人を対象に、彼等が米国に預けている資産を凍結し、入国を禁止するもの。対象者の大半は軍人だ。軍出身のチャベス前大統領が多くの軍人を重用し、マドゥロ大統領がそれを踏襲しているためだ(ディアリオ・ ロス・アメリカ紙他)。

 ベネズエラのマドゥラス・デジタル情報紙は、制裁による影響が甚大だとみている。制裁は、対象の軍人個人が所持していた資産を失うことを意味する。マドゥロ大統領は「軍の下僕」であり、彼らを指示できる権威はない。軍は、大統領が少なくとも2019年まで政権を維持してくれれば良いと望んでいるのだという。

 1日にはブラジルのルセフ大統領の就任式で、マドゥロ大統領は、バイデン米副大統領に制裁への懸念を直接伝えたという。両国首脳の接触は異例であり、上記の分析が説得力を増す。

◆旅行も商用出張も出来ない
 国民生活にも悪影響が及んでいる。旅行や商用で外国に出る機会が閉ざされ始めているのだ。

 外貨不足でドル換金が滞っており、ベネズエラで営業する海外航空会社が未払いの被害を受けている。未払金は35億ドル(約4100億円)に及ぶ。そのため、ベネズエラへのフライト便が減少しているという。例えば、デルタ航空は86%の座席を減らし、フライトも1週間に1便だけとした。それ以外の航空会社も同じような対応をしている。2013年の販売座席数は47,493席だったが、2014年は26,138席と半減している(コロンビアのラ・レプブリカ紙他)。

Text by NewSphere 編集部