少子化克服のスウェーデン、“社会全体の子育て”で成功 公使が語る

 日本の出生率低下が叫ばれて久しい。2005年には1.26にまで減少。2006年以降はやや上昇へ転じ、2013年には1.43となったが人口維持に必要な2.0を大きく割り込んでいる。一方、スウェーデンでは1998年には1.50と低下したが2010年には1.98と回復しつつある。

 回復の背景には家族のあり方や人々の多様な生き方を支え、就労と子育てを社会全体で支援しようとする、将来を見すえたスウェーデン社会の変革がある。在日スウェーデン大使館、ヴィクトリア・フォシュルンド=ベラス公使に詳細な事情を伺った。

◆決め手は、女性のより広範な自由の確立
性差別のない労働環境、自立とりわけ経済的自立などの女性のより広範な自由、これらが出生率の向上に直結しました。

1930年代からこれらの考え方が提唱され、スウェーデンの外交官・政治家アルバ・ミュルダール女史(編注:1902-1986、ノーベル平和賞受賞。夫君カール・ミュルダール博士はノーベル経済学賞受賞)が、個人とくに女性の自由のための社会変革として唱え、女性の経済的自立を説きました。

これは当時の一般的な社会通念に真っ向から立ち向かうほどのことでした。女性が働けば出生率が下がるという従来の通念をみごとに打ち負かすものであり、スウェーデンはそのことが正しいと実証したのです。

女性の社会参加と経済的自立の両輪は、出生率の向上にはもっとも効果的なのです。

◆男女とも「産休」、女性は90%が出産後に職場復帰 ―― 社会全体で子育てを支援
スウェーデンでは、社会全体で「子育て」を行うのが、いわば社会規範として定着しています。
 
男女とも産休を取得するのが当然とされ、出産後も女性の90%が職場復帰します。産休中は別の人員が臨時の交替要員としてあてられ、産休復帰後は元の職場に復帰することが完全に保証されています。日本ではありがちな産休の取得が事実上難しい状況や、産休後の職場復帰の際のポストをめぐる問題はありえないのです。
 
◆充実の保育施設 ―― 待機児童などありえない
政府は「すべて」の入園希望者の収容を義務づけられていて、「待機児童」問題はほとんど存在しません。さらに利用料金は低いのです。この希望者全入がもたらす結果は絶大です。
 
保育施設は、6:30から18:30まで利用できます。18:30は日本の生活感覚からすると、少し早すぎると感じられ「延長保育」を希望するということになりますが、スウェーデンでは首都ストックホルムでも、深夜、終夜営業の店は、コンビニ、飲食店であってもほとんど存在しない「早じまい」の国柄であり、21時頃には国中が寝静まるので、18:30までの利用で十分なのです。

◆新たな配偶者のありかた ―― 「サンボ」制度
スウェーデンには婚姻法による「婚姻」、サンボ(事実婚)法による「サンボ」の制度があり、さまざまな保護を受けることができます。「サンボ」は長い歴史があり、その原型は1800年代に起源を持ちます。時間をかけて法制化されたこの制度は、配偶者の新たなありかたとして今や社会に定着しており、就職に際しての身上要件としても何ら差別を受けることはありません。

婚姻に踏み切ることにためらいがあっても、この方式により新たな家族関係を構築することができるのです。これも出生率の向上に役立っています。

◆女性労働化率の高さ ―― それを支える「差別」のない社会
女性の労働化率は高く、それを支えるのが、出産やその後の産休で差別を受けることのないスウェーデンの社会です。それは税制でも、法的にも、以前と同じ業務の復帰を保証するというものであり、復帰の際のトラブルは起こりえません。

この安心して出産・子育てができ、さらに産休後の職場復帰を円滑に行うことができる社会的な環境こそ、女性が安定的に就業することができる要件として不可欠であり、女性の労働化率の高さの背景をなしています。
 
◆社会保障をささえる高負担の税率 ―― 消費税、所得税
これらの社会負担をまかなうため、スウェーデンでは標準消費税は25%、食料品などは12%が課せられます。累進課税である所得税も日本の税率よりはかなりの高率ですが、子育てを社会全体で行うためには必要な財源とされています。

 日本の消費税率の議論にも大いに参考となる問題だ。少子化問題を克服して出生率をあげることは容易ではないが、社会制度のさまざまな問題点を変革していけば、向上させられることが分かる。このままの状況が続けば、50年後には2/3の人口となることが予想される日本にとって、待ったなしの切実な問題だ。

Text by NewSphere 編集部