インドネシア、日本との農産物貿易拡大に期待 和牛、メロン…新たな成長市場の可能性

 日本とインドネシアのビジネス関係は、製造業だけではない。実は今、農作物分野において両国の交流が活発になっている。

 2014年下半期に入り、日本からは高級農産物の対インドネシア新規輸出が相次いでいる。その傍ら、インドネシアからの食肉の大規模輸入も開始されようとしている。これらはここ数ヶ月で急速に計画が進められたことだ。

 この現象には、両国が抱える外交問題が絡んでいる。

◆静岡産メロンの輸出開始
 インドネシア現地紙トリブンニュースは、来年から静岡県袋井市で収穫されたクラウンメロンのインドネシア向け輸出が開始されると報道する。

「静岡県産のクラウンメロンが、来年1月からインドネシアへ輸出される。この事業が順調に進められれば、1ヶ月ごとに約350個メロンの輸出を目指したいと地元農家は語る。このメロンは日本では2000円前後で取引されている」

 日本で2000円前後の売値ということは、インドネシアで販売する際は少なくとも1.5倍ほどの売価上乗せを見込まなければならない。インドネシアの物価レベルで考えると、大変な高級品だ。だがそれでも同国の市場へ充分食い込めると、袋井市の生産農家は考えているようだ。すなわち、現地の富裕層を狙ったビジネスである。

 それはメロンだけではなく、他の農産物分野においてもインドネシア進出が相次いでいる。8月には試験的とはいえ、ジャカルタの大手スーパーマーケットで福島産の桃と梨の販売が行われた。原発事故の風評被害が今も拭えない地域の商品も、インドネシアの市場に登場しているのだ。

◆和牛の参入
 今年11月からは和牛の輸出も始まった。地元紙コンパスがこの様子を伝えている。

「11月に始まる我が国の和牛輸入について農業省のルスマン・ヘリアワン大臣は、『日本からの食肉輸入は、オーストラリア・ニュージーランドとの外交問題を抱える我が国にとっては朗報だ。オセアニア二国への農業依存度を下げることが可能になる』と述べた」

 インドネシアは現在、オーストラリア・ニュージーランドとの関係を燻らせている。特にオーストラリアについては去年発覚した豪情報機関による電話盗聴問題から、その外交関係がまさに悪化の一途を辿っている。だがその一方で、オーストラリアからインドネシアへの農業貿易は無視できる規模ではないというのも事実だ。

 インドネシア政府としては、オセアニア二国からの輸入を制限したい。その打開策として、日本からの牛肉輸入が選ばれたのだ。

 だがなぜ日本なのか? 理由は二つある。一つは日本の農業が持つ技術力だ。食肉輸出量でオセアニア二国のそれを越えるということは考えづらいが、日本の酪農家はそれを補って余りある技術レベルを有している。これについての報道は、トリブンニュースの別の記事に詳しい。

「北海道で和牛の酪農を営むシマザキ・ヨシアキ氏が11月、農業技術指導のためインドネシアを訪れる。シマザキ氏は約550頭の牛を所有し、日本独自の手法で育てた家畜による食肉や牛乳は素晴らしい味を引き出している」

 つまりインドネシア政府は牛そのものよりも、牛を育てる最先端のテクノロジーを欲しているのだ。目指すところは、食料自給率の向上だ。そして二つ目の理由は、日本で発生した一大事件のためである。

◆加工鶏肉問題が両国を接近させた
 上記のコンパスの記事にも書かれているが、インドネシアへの和牛輸入と前後して日本への鶏肉輸出事業も計画が進められている。ここで、別メディアの記事を見てみよう。リプタンシックスは以下のように報道している。

「インドネシアから日本へ向けた加工鶏肉製品輸出が10年ぶりに開始される見込み。その理由として、最近発覚した中国産加工鶏肉の安全問題がある」

 今年7月、中国・上海の食品加工工場で生産された鶏肉製品が賞味期限を過ぎていた問題を受け、日本の各飲食業社は中国産製品を敬遠し始めた。この時点で最も手っ取り早いシフト先はタイだが、輸入元が1ヶ国だけでは手に余る。そこで、鳥インフルエンザの懸念が薄くなったインドネシア産鶏肉がにわかに注目を集めるようになった。対豪依存度を下げたいインドネシアと、対中依存度を下げたい日本。ここに両国の利害は一致した。

 現時点でインドネシア産鶏肉製品の日本輸出はまだ始まってはいないが、その計画は着々と進行していると各大手メディアは報道する。検疫面で日本側の要求基準をクリアすれば、年内までには鶏肉貿易が開始される見通しだ。このニュースについては、すでに日本語化されている。

 そして先日、ジョコ・ウィドド新大統領はAPECの会場で安倍晋三首相と会談し、インドネシアへのより一層の投資を促すよう進言した。日尼の交易ビジネスは、これからも裾野が広がっていくだろう。

Text by NewSphere 編集部