“反中国”ではない、日米印の協力強化が必要 経済・安全保障の観点から海外識者が主張

 モディ印首相は9月、日本とアメリカを訪問し、首脳会談を行った。複数の海外メディアが、日米印3国間の協力の重要性を主張する論説を掲載している。

◆日米印には、経済と安全保障で共通の利益がある?
 米外交専門誌『ナショナル・インタレスト』は、日米の専門家による論説(※1)を掲載した。

 それによると、日米印3国間で、経済・安全保障上の利益が合致する度合いが高まっており、3国が急速に協力を発展させている。各国はそれぞれ、他の2国を、自国にとって価値のある利点と資源を持つ国で、経済的および戦略的パートナーとして注目しているという。インド洋と太平洋を結ぶ3国の位置関係も重要な利点だ。

◆インドの経済発展に協力することが日米印3国にとってウィン・ウィン・ウィン?
 3国協力にあたっては、インドの経済成長を促進させるということが、何よりもまず焦点となる。そのためにインドは日米の投資とノウハウを求めている。しかしこれは何もインドだけが得をする問題ではない。インドは巨大でありながらなお急成長している市場である。さらに、インドからアジア、中東、アフリカの新興市場への輸出も考えられるため、日米の企業にとって、インドはコストの低い製造拠点として台頭する可能性があるという。

 元インド内閣官房長官補Mohan Das Menon氏は、ニュー・インディアン・エクスプレス紙の論説で、モディ首相の「メイク・イン・インディア」計画について触れている。これはインド国内での製造業の興隆を目指したものだ。同氏は、インドには労働力、国民の平均年齢の若さ、オープンな文化という点で多くの利点がある、と語る。

『ナショナル・インタレスト』の論説は、モディ首相が、インドのインフラを改良することに多大な努力を費やしていることを伝える。この点にも、日米が力を発揮する余地は大いにあり、また大きなビジネスチャンスとなるだろう。

◆インド洋、南シナ海はどの国にとっても重要な海上交通路?
 安全保障面でも、インドは日米にとって大きな役割を果たし得る。インドはしっかりした軍事力を保有しており、南アジアとインド洋地域で非常に必要とされている安定を提供することができる、と『ナショナル・インタレスト』の論説は(期待を交えて)語る。

 インドのパンディット・ディーンダヤル・ペトロリアム大学の国際関係学のルパック・ボラ准教授は、米外交専門誌『フォーリン・ポリシー』の論説で、インドと中国の対立は、現在ますます海上に移行しそうである、と語っている。

 インドと中国は国境を接しており、その境界をめぐって、しばしば衝突が起きていることを、ニュー・インディアン・エクスプレス紙と『フォーリン・ポリシー』の論説は伝えている。しかし、後者によると、近年、中国はインド洋などインド周辺海域で主権の主張を強めているという。中国にとってこの海域は、アフリカと中東からエネルギー資源と鉱物資源を自国に運ぶためのシーレーンとして重要だ。

 また中国は、南シナ海ではベトナムやフィリピンと、東シナ海では日本と、海上で主権をめぐる争いを繰り広げている。日本とインドは、近年、海上での合同軍事演習を行っていることを、『フォーリン・ポリシー』の論説は伝えている。モディ首相のワシントン訪問時に発表された米印共同声明では、「米印両首脳は、海上での領土紛争をめぐって緊張が高まっていることについて懸念を表明し、地域の、とりわけ南シナ海における海上での安全を守ることと、航海と上空通過の自由を確保することの重要性を確認した」とされていたそうである。

 ニュー・インディアン・エクスプレス紙の論説は、アジアのパワーバランスは、東アジアと同等にインド洋周辺での事態によって決定することを考慮し、日米印政府は、アジアの平和と安定を促進し、重要なシーレーンを保護するために、協力しなければならない、と結んでいる。

◆「対中国」では日米印は結ばれない?
 同紙の論説は、インドと中国の領土問題を念頭に、対中国の包囲網として、日米印が協力することを提唱しているものだ。しかし『ナショナル・インタレスト』の論説は、そのようにはっきりと対中国を打ち出した枠組みでは、インドは加わらないだろう、という見通しだ。中国はインドにとって重要なビジネスパートナーであるほか、なんといっても隣国であり、当然、良好な関係が望ましい。また、インドと中国はどちらも、欧米主導の世界秩序から、多極的な世界への移行を求めている。そこで、あえて自国の外交政策にかせをはめるようなことはしたがらないだろう、というのだ。

 反中国による連携では、3国間協力の推進力となることはできない、とこの論説は語る。現実的に到達しうるような共通の利益を、実際的に追求することが、成功のための最も効果的なアプローチだ、としている。

※1 戦略国際問題研究所(CSIS)のアジア太平洋部門パシフィック・フォーラムCSISのシニア・フェローのリチャード・ロソウ氏、同エグゼクティブ・ディレクターのブラッド・グロッサーマン氏、防衛大学国際関係学科准教授の伊藤融氏、ジョージア大学国際貿易・安全保障センター所長のアヌパム・スリバスタバ氏

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Text by NewSphere 編集部