湯川氏だけではない…頻発する外国人誘拐 莫大な身代金をめぐる各国のジレンマとは

 シリア北部アレッポで、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」に、湯川遥菜氏が拘束されたとみられている。湯川氏が拘束される前に同行していた「イスラム戦線」によると、「イスラム国」は交渉を拒否した、と報じられている。安否は依然不明だ。

 こうした外国人誘拐では、莫大な身代金が要求されることが多い。各国政府はジレンマに悩まされている。

【表向き、身代金は払わない】
 米財務省のコーエン次官(テロ、金融犯罪担当)によれば、身代金は、アルカイダ関連集団や、シリアやイラクの過激派組織にとって、主要な資金源のひとつになっているという(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。同氏は、2004年から12年までにこの種の集団に流れた身代金は、総額1億2000万ドル(約122億円)にのぼるとみている。

 こうした事態に対し、国連安保理は1月、各国政府に過激派への身代金などの支払いに抵抗するよう求める決議を採択した。昨年のG8でも、テロ集団に身代金を支払わないことで合意した。

 しかし、BBCムンドによると、外交官や治安専門家の間では、“各国政府の対応は、実際は異なる”と言われているようだ。ナイジェリアで4名のフランス人がアルカイダ系のテロ組織に誘拐され、昨年釈放された事件では、フランス政府は2000万ドルの身代金を払ったと報じられる(フランス政府は否定)。

【身代金の支払いは最後の選択肢 】
 30年にわたって人質釈放交渉に携わる英国のフィリップ・イングラム氏は、「身代金のジレンマ」に対し、「容易な回答は見つからない」と語る(BBCムンド)。身代金を払った国の人間が、今後狙われる可能性が高まるリスクもあることにも言及している。

 同氏はまた、「世界の警察」アメリカ人は常に標的にされる傾向にあるとし、身代金を支払っても人質が釈放される保障はないとする。身代金の支払いは、問題解決手段として「最後の選択肢であるべき」という考えを明らかにしている。

【イスラム国からの釈放は容易ではない】
 湯川氏を誘拐した「イスラム国」は、昨今シリアとイラクで征服地域を拡大。地域の部族を恐怖政治で支配し、クルド自治区、ヨルダン、レバノン、サウジアラビアにまで手を伸ばそうとしている。イスラム国は、20億ドルの資金をコントロールしているとされる(ヌエバ・エウロパ電子情報紙)。

 イスラム国に誘拐されている湯川氏の釈放は、容易ではない。

 イスラム国は19日、アメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリー氏の殺害映像を公開した。同氏は2012年にシリアで行方不明になっていた。1億3200万ドル(約132億円)の身代金を家族に要求していた、との報道もある(ニューヨーク・タイムズ紙)。アメリカ政府は身代金の支払いを否定し続けた。

 一方、フォーリ氏の殺害から5日後、米ジャーナリストのピーター・テオ・カーティス氏が2年の拘束から釈放された。同氏は、イスラム国とは分離したアルカイダ系のヌスラ戦線に拘束されており、釈放にはカタールの仲介があったという(スペインテレビRTVE報道)。

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Text by NewSphere 編集部