フィリピン、追い出した米軍を呼び戻す オバマ大統領、中国への牽制表明

 アメリカのオバマ大統領は26日にマレーシアを訪問し、その後28日には歴訪の最終地となるフィリピンへと向かった。いずれも南シナ海で中国との領有権争いを抱えている国である。

 オバマ大統領は27日、マレーシアでナジブ首相と会談し、南シナ海における中国の進出が活発化している中、安全保障政策で協力を深めることに合意した。

 またフィリピンでは、オバマ大統領の現地到着直前となる28日午前、米比の両国がフィリピンへの米軍派遣拡大を図る新軍事協定に署名した。これにより、1991年以来撤退している米軍が再びフィリピンへ戻ってくることとなる。

【中国が変えたフィリピンの対日米観】
 フィナンシャル・タイムズ紙によると、フィリピンは第二時代戦中日本の侵略の苦い思い出を持ちながら、それでも今は日本が再度軍を持つこと推奨しているという。目的は、やはり中国対策だ。

 フィリピンにとって、台頭する中国の存在は、日本だけでなくアメリカとの関係も大きく変えた。今回米軍がフィリピンに回帰することに関し、米比関係の専門家レナト・デル・カストロ氏は「1991年、米軍に撤退願ったときのことを思い起こせば、考えられないほどの変化だ」と語っているという。

【同盟国の不安払拭が目的】
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、このアジア歴訪について「同盟国を安心させるための訪問」と報じている。

 同紙によると、アジアの米同盟国は、ロシアが編入を宣言したクリミアにおける米政府の対応を「中国との有事の際アメリカがどう動くかのリトマス試験紙」と見ている、と伝えている。そのアメリカのウクライナにおける行動があまり強硬ではないことで、同地域での米政府に対する不安が高まっている、と同紙は述べる。

 しかし米側は、対中国と対ウクライナを同列に比較するのは筋違いだと見ているようだ。ある米政府当局者は「日本、韓国、フィリピンとアメリカは正式な安全保障上の同盟関係にあるのに比べ、ウクライナとはそのような関係にない以上、同じ物差しで計ることはできない」と語っていると同紙は伝えている。

【大きくなり過ぎた中国という存在】
 今回、オバマ大統領の訪問日程に中国は含まれていない。にもかかわらずどの行先でも「中国対策」が主な目的となっている。そのことについてAP通信は、「巨大化し過ぎた中国の重要性を浮き彫りにした」と表現している。

 今回アジア各国を訪れる中、オバマ大統領は行く先々で中国への牽制を口にしている。しかしその背後で、アメリカは中国に、その巨大化しつつある力をロシア制裁に協力するよう促しているという。中国に勝手な振る舞いを許さないと示す一方で、配慮する姿勢も見られるのはそのような事情から、と同紙は分析する。そしてまさにそんな事情こそが「中国という存在が無視できない規模に成長してしまったことの象徴」だと同メディアは述べている。

 しかしそれでも、米政府は「中国が完全にロシアを見捨てて西側の立場をとる可能性は極めて低い」と見ているという。せめて「ロシアをあからさまに支持するとか、国連安全保障理事会でロシアを糾弾する投票を放棄するといったような事態だけでも避けられれば」というのが米政府の狙い、と同紙は分析している。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、対中国政策の米当局は「あまり相手を追いつめ過ぎてはいけない。逃げ道を残してあげないと、望ましくない結果が返ってくるかもしれない」と語っているという。中国という存在は、アメリカがそこまで気を使うほど大きくなってしまったということなのだろうか。

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Text by NewSphere 編集部