商船三井、中国に40億円支払う 今後、戦争賠償の請求が相次ぐとの海外メディアの見方も

 日中戦争開戦時に賃借していた船の損害賠償をめぐって、商船三井の保有する船が、中国の裁判所に差し押さえられていた問題で、商船三井が裁判所に供託金を支払っていたことが、24日、明らかになった。これによって差し押さえは解除され、船はすでに出港しているという。支払った金額は、約40億円と報じられている。

【事件のあらまし】
 この事件は1936年に、日本のある海運会社が、中国の船会社から船2隻をレンタルする契約を結んだことに端を発する。翌37年に日中戦争が起こったときには、船は軍によって徴発されていた。海運会社は、船会社に、徴発後のレンタル料を支払わなかった。その後、2隻とも沈没し、船会社に返却されることはなかった。

 船会社のオーナーの子孫らが、未払いのレンタル料と船の補償金を求めて、1988年に中国の上海海事法院に提訴した。海運会社は商船三井に吸収されていたが、その商船三井に対し、2007年、約29億円の支払いを命じる判決が下された。その後、控訴審を経て、2010年に判決が確定していた。商船三井は、原告側との示談による解決を目指し、賠償金を支払わないでいたところ、突然船が差し押さえられた。

【商船三井が支払った金額は?】
 支払った金額について、日本のメディアは、関係筋からの情報として、約40億円という数字を報じている。これは上海海事法院の命じた約29億円に、利息分を加えたものだという。なお、商船三井は支払った金額を明らかにしていない。

 対して、海外メディアは、中国の裁判所の発表をもとに、約29億円という数字を中心に報じている。ブルームバーグは、中国最高人民法院がマイクロブログの公式アカウントで発表したとして、その数字を伝えている。また法廷費用として、商船三井が240万元(約4千万円)を支払ったとしている。

 ロイターも、ブルームバーグと同様の金額を報じている。今回の裁判で、原告を支援してきた反日活動家の童増氏によると、原告は、(29億円という)裁判所の算出額は妥当ではなく、補償金、利息、遅延利息の一部が含まれていなかったと考えているという。そのため、原告はおそらくもっと多額を要求するのではないか、とロイターに語っている。

 また、この29億円という金額は、差し押さえられた船の推定評価額6500万ドル(約66.5億円)のほぼ半分だと、ある船舶ブローカーは匿名でロイターに語っている。

【今回の差し押さえが、中国国内にどのような影響を与えるか?】
 海外メディアの関心は、今回の差し押さえが、日本から戦争賠償を得ようとする動きなのか、また、同様の措置が今後も取られるのか、という点に集まっている。

 ブルームバーグとウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今回の件は単発的な問題という見地で報じている。まずブルームバーグは、日中間には現在3660億ドル(約37.5兆円)という太い貿易関係があることを指摘する。そして中国外務省の秦剛報道官が、今回の件は商業上普通に起こる争議であり、戦争賠償の問題とは無関係である、と発表したと報じる。

 その発言を受けて、菅官房長官が、「中国当局は、今回の件は、戦争賠償とは無関係と述べている。われわれも分けて考えるべきだろうと思います」と述べたことを、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は伝えている。

 ブルームバーグはまた、中国の法律と政治を専門とする、ペンシルベニア大学のジャック・ドリール法学教授の言葉を取り上げる。「もしもこの先、資産差し押さえが相次ぐのだとしたら、わたしの考えでは、それが中国にもたらす利益は、すぐに減少し、マイナスになるだろう」

【中国活動家は、戦争賠償訴訟が増加すると予想】
 それに対して、フィナンシャル・タイムズ紙とロイターは、今回の措置が、中国での戦争賠償の請求に弾みをつける、という見地から報道している。今回の差し押さえによって、日本企業にとっては数億ドルが、支払うべき金額になる可能性が生じた、とフィナンシャル・タイムズ紙は語る。

 今後、賠償請求の中心となりそうなのが、戦争中、強制労働に従事させられた人たちによる、日本企業の提訴だ。今年2月、中国の裁判所が、それまで数十年間却下し続けていたこのような提訴を、初めて受理した、と同紙は伝える。その理由として、中国国営新華社通信は24日、日中共同声明の「賠償請求の放棄」は、個人による請求を含まない、という中国政府の立場を明確にした。

 ロイターは、今回の措置が、日本に賠償を求める中国国内の活動家にとって、大いに関心を呼ぶ事件となっていることを伝える。先述の活動家、童増氏は、商船三井がこれほど速やかに完納したことは、有望なしるしで、戦争関連の訴訟が今後、よりたくさん起こると予期している、とロイターに語っている。

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Text by NewSphere 編集部