アメリカは尖閣にどう対応すべき? 防衛推進から棚上げ論まで、海外識者の意見わかれる

 オバマ米大統領の訪日およびアジア歴訪を受けて、各紙は「同盟国を安心させようとする」アメリカが、尖閣問題などについてどう関わるべきか、寄稿を掲載している。日本をはじめアジア諸国には、中国などの脅威に対して、アメリカがどこまで本気で付き合うつもりがあるのかを心配する声が常々あり、それは中国も同様だ。

【緊張を緩和したければアメリカは首を突っ込むな】
 ニューヨーク・タイムズ紙は、中国復旦大学の呉心伯氏と、米ジョージタウン大学のマイケル・グリーン氏の寄稿を載せている。

 呉心伯氏の記事は中国寄りで、日中は1972年に尖閣問題を棚上げすることに合意していたはずなのに、日本が2012年に国有化を行って現状変更をしかけてきたという立場である。しかしいずれにせよ、問題を解決するには再び尖閣を棚上げすべきであり、そのためには両国ともまず、陸海空とも尖閣に接近すべきでない、と説いている。

 アメリカについても、尖閣については日中の自力解決に任せるべきであり、これに関与すべきではないと主張。記事は「オバマから煽る言葉が少しでも出れば、東シナ海での中国と日本の睨み合いは継続し、地域の安定を損ない米中関係を制約する」として、オバマ大統領が日米安保条約の尖閣への適用を明言したことを批判している。中立を謳っているはずのアメリカとしては言行不一致でもあるが、何より問題なのは、日本を煽って大胆にさせてしまうことだという。

【危ないから中国には背中を見せるな】
 一方グリーン氏の記事のほうは、アメリカは決して、日本を折れさせてはならないと説く。2年前、オバマ政権はスカボロー礁を巡って全く同様に中国とフィリピンが対立した時、両者を退かせる仲介を行った。しかし、中国は約束を破ったではないか、と指摘しているのだ。

 フィリピンは国際司法裁判所に提訴したが、中国は聞く耳を持たず、事件を「勝利」とみなしている。それを受けて今回、オバマ大統領はフィリピンと軍事協力拡大の協定を結ぶことになってしまった、と論じる。

 中国のこうした動きは、昨年の防空識別圏宣言も含め、中央軍事委員会が5年前に承認した「近海ドクトリン」に従っての統一的な動きだと、記事は主張する。そのため、「小島をめぐる日中間の対立だけではなく、中国が国際規範やアメリカの力を無視して、成長中の経済・軍事力を利益主張に使うのかどうかという、より根本的な問題」がかかっているのだという。

 緊張緩和の手段としては、首脳会談や軍間対話、ホットライン復活などを日本側が提案しているではないか、と指摘する。ところが中国はむしろ緊張を保ちたいがゆえに、こうした提案をことごとく拒否しているのであって、大統領は訪日中、この件を議論の中心に据えるべきだという。

【誰のためのアメリカ政府なのか】
 フォーブス誌が掲載した米カトー研究所のダグ・バンドー氏は、尖閣問題に限らずクリミア問題に限らず、そもそも「同盟国を安心させる」という考え自体に問題があると批判する。

 オバマ政権は世界中を飛び回り、「同盟国を安心させて」回っている。だがアメリカ政府が守るべきはアメリカ国民であるし、実在しない「国際社会」のためにと称して世界中で戦争をすることは、かえってアメリカの言う正義を胡散臭くするという主旨だ。そうした戦争で血を流すことではなく、「政治制度は人に奉仕するために存在しているのであってその逆ではない、という理解に根ざした国際秩序」をこそ、米国は推進すべきだと記事は説く。

 そもそもアメリカは、「そこらの人がFacebookの友人を溜めるように」、それが火種となる危険を考慮せずに同盟国を増やし過ぎているし、アメリカがいつでも喜んで助けると言っているせいで、彼らは自力で防衛をしなくなっている、と同氏は説く。

 日本は経済大国であるし、ヨーロッパはロシアの8倍のGDPがある。韓国も北朝鮮の40倍のGDPがあるのに、いつまでも米軍が半島に駐留することを期待している。このような片務的同盟を守るより、米政府は納税者を守れ、とのことである。

 尖閣問題へのアメリカの姿勢は、米中のパワーバランスに関わる重要問題だ。フィリピンの事例のように、尖閣だけにとどまらない。だからこそ、立場によって異なる多様な主張が海外識者から寄せられるのだろう。

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Text by NewSphere 編集部