ウルトラマンが“公序良俗を乱す”? マレーシアで発禁になった理由とは

 マレーシアで、ウルトラマンの漫画本が、発禁処分を受けた。マレーシア内務省は、「公序良俗を乱す恐れのある要素を含むため」と、発禁の理由を説明している。

 発禁処分を受けたのは、マレー語による『ウルトラマン ザ・ウルトラパワー』。ただし、この本は、マレーシアの出版社が、円谷プロダクションに無断で発行したもの。円谷プロは、「本件については当社が正規に許諾した内容・出版物ではございません」との声明を発表している。この本以外のウルトラマン本については、発禁にはなっていない。

【何が問題とされたのか?】
 タイム誌は、「伝え聞くところによると、日本のスーパーヒーローがマレーシアを破壊しているらしい」という見出しを付けて、このニュースを報じた。

 問題となった「要素」について、内務省は、「アッラー」という語の不適切な使用のため、と声明で発表した。マレーシアの国営ベルナマ通信が報じている。

 タイム誌によると、問題の箇所は、ウルトラマンキングを解説している部分だ。そこには、「全ウルトラヒーロー中、最年長であり、“アッラー”と見なされ、尊敬されている」とある。ちなみに、円谷プロの公式サイトでは、「ウルトラ族の伝説の英雄。いつも宇宙を見守っている守護神のような存在」と紹介されている。

 この「アッラー」という語の使用をめぐって、マレーシアでは、近年、激しい争いが起きている、とガーディアン紙は伝える。

【マレーシアの国教はイスラム教】
 マレーシアは多民族国家であり、マレー系、中国系、インド系、先住民などからなる。マレー系が最大多数で、人口の半数以上を占める。「マレーシアにおいて、マレー系という語は、イスラム教とマレーの伝統を守り、マレー語を話し、マレー系を祖先に持つ人のこと」と、マレーシア政府の広報ページは記述している。

 よって、マレーシアでは、イスラム教徒が国民の約60%と、最大多数を占める。信教の自由はあるが、国教として定められてもいる。マレーシアの国旗に描かれている三日月と星は、イスラム教のシンボルマークだ。

【「アッラー」という語の使用をめぐって、高まる宗教的緊張】
 このような背景の下、「アッラー」という語を、イスラム教徒以外が使用することに対して、マレーシア国内で反対の声が強まっている。ガーディアン紙によると、2007年、キリスト教カトリック教会の機関紙が、「アッラー」という語を使用したため、内務省は、機関紙の発行許可を無効にすると脅しをかけた。マレーシアでは、印刷機・出版物法というものにより、新聞は、1年ごとに内務省から発行許可を得なくてはならないのだ。

 そもそも、「アッラー」という語は、英語では“the God”に相当するアラビア語で、固有名詞ではなく、唯一神を指す語だった。教会側はこのように主張し、語の使用を国が認めるよう、裁判所に提訴した。2009年には高裁において勝訴したが、昨年10月、上訴裁判所は、イスラム教徒以外が神を指すのに、この語を使用することを禁じる判決を下した。教会側は、最高裁に異議を申し立てるつもりである、とガーディアン紙は伝えている。

【イスラム教において、アッラーは唯一無二の存在】
 タイム誌によると、内務省は、ウルトラマンが子供たちにとってアイドル(偶像)であり、アッラーとウルトラマンキングを同一視すると、イスラム教徒の子供たちを困惑させ、彼らの信仰心を害することにもなるだろう、と声明で述べた。

 また、内務省筋は、「ウルトラマンの漫画シリーズで、キャラクターを説明するために“アッラー”という語を用いれば、それを読んだイスラム教徒の子供たちを、混乱させる可能性があることは、あまりにも明白だ」「イスラム教徒にとって、アッラーは何物にも似ていません」と、マレーシアの英字新聞スターに対して語っている。

 イスラム教では、アッラーは唯一絶対の超越的存在とされ、アッラー以外のすべてのものは神の被造物である。したがって、それらの被造物から、アッラーを類推しようとすることは、固く戒められている。また、神の似姿である偶像を作ることも、固く禁じられている。

 マレーシア国内で、これだけデリケートな扱いを要する語を、なぜウルトラマンの漫画本に使用しようとしたのか、疑問は残る。

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Text by NewSphere 編集部