「ヤギの足をむさぼり食べた」脱北者たちが証言した悲惨な実態

 北朝鮮の強制収容所からの逃亡者たちが20日、韓国のソウルで開かれた国連調査委員会の公聴会で、北朝鮮の人権侵害の実態について証言した。これは、北朝鮮の人権問題に関する国連専門委員会による初めての調査だ。

 3人の委員による調査委員会は、国連人権理事会によって3月に設置された。1年間かけて、北朝鮮の「組織的で広範囲の深刻な人権の侵害」について調査する予定だ。8月のうちに、拉致被害者のいる日本でも聞き取り調査を行う予定だという。

 なお北朝鮮は、人権侵害の事実や強制収容所の存在を否定し、委員会が求める調査への協力を拒否している。

【大きくなる脱北者たちの声】
 脱北者の証言によると、強制収容所では、看守たちが投げてよこす、生きたねずみやヤギの足をむさぼり食べていたという。備品を壊したために指を切られたり、他の収容者の死刑を見るよう矯正されたり、と凄惨な状況が証言された。

 脱北者のひとり申東赫(シン・ドンヒョク)氏は、公聴会で「北朝鮮の国民は、自身が持つ権利を知るべきだ」と発言した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、このような発言ひとつでは大きな力を持つものではないが、北朝鮮国内へ脱北者の発言が伝わるようになり、体制の指導力を脅かす可能性が強まっている、と報じている。

 専門家は、人権侵害の実態を国際社会に訴える脱北者たちが増えたことは、北朝鮮の政権にとって頭が痛い問題となっていると述べた。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、委員会の行動は、北朝鮮の金正恩政権の人権侵害について、最も直接的な異議申し立てだと評価している。

【北朝鮮政府の亡命者防止策】
 一方北朝鮮は、脱北者の影響で体制に不安を生じさせないよう、多様な手段を講じている、とウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。

 脱北者の増加に対し、北朝鮮は2011年には、国境により多くの兵士や監視カメラを配置し、警備を強化したという。さらに、専門家や脱北者によると、逃亡者を見極めるための工作員を国境地帯に多く送り込んだという。最近では、連れ戻した脱北者を政府の広告に使うなどの方策も強化しているようだ。

 なお、韓国統一省によると、北朝鮮が2012年から国境地帯での対策を強化した結果、韓国への脱北者は、44%減り1509人であった。2013年はさらに減少する見込みだという。

【韓国と中国の立場】
 韓国は最近になるまで、北朝鮮に対して、人権擁護を公に求めることをためらっていた、とニューヨーク・タイムズ紙が指摘している。効果的な圧力をかけることができないまま人権問題を追求すれば、北朝鮮の核開発放棄への国際的な努力を妨げることになるのではないか、という不安があったためだ。
 
 一方、中国は脱北者を黙認する傾向があるが、北朝鮮への帰国に協力する姿勢もみせているという。このような中国の態度は、韓国との緊張を生んでいたようだ。ただ、韓国の朴槿恵大統領と中国の習国家主席は、6月に北京で会談した際、脱北者についての両国の意見を交換したというが、詳細は発表されていない。

 グローブ・アンド・メール紙(カナダ)は、「北朝鮮は妥協する様子が全くみられない相手で、国連の対策も限られている。人権問題を改善しようとするには、北朝鮮の政治体制を根本的に変えなければならないだろう」という専門家の意見を取り上げている。

Text by NewSphere 編集部