焦るEU、余裕のロシア WTO提訴問題の行方

 欧州連合(EU)は9日、ロシアを世界貿易機関(WTO)に提訴した。ロシアが輸入車に対してリサイクル税名目で課税しているのは、輸入車排除をねらった差別的で不当な措置だとしている。
 これにより、EUとロシアは今後60日間、当事者同士の話し合いを持つことになる。その後合意に至らなければ、専門家の委員会が裁定を行うことになる。
 なおロシアは、18年間に及ぶ話し合いの後、2012年8月にWTOに加盟したばかりだ。
 EUがロシアを提訴するのは初めて。海外各紙はその背景と今後の行方を報じている。

【ロシアの態度に業を煮やしたEU】
 EUは、1年近く、ロシアに課税の改善を求めていたが、結局納得のいく対応は得られず、今回の提訴に踏み切ったようだ。
 これに対し、ロシアの反応は冷静で、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「予想できたこと」だったとロシア側の見方を伝えている。

 同紙は、過去10年間にわたり、ロシアが国内自動車産業を活性化させるため、保護貿易政策を頻繁に利用してきたと指摘している。ロシアはWTO加盟後も、車、鶏肉、ヤシ油に対する関税を基準以上に引き上げていた。
 さらに、健康と安全を理由に輸入を制限できるというWTOの例外規定を利用し、数多くの食品に輸入禁止措置をとった。EUはこれも、例外規定の乱用だと非難しているという。
 EUのカレル・デ=ヒュフト貿易担当委員は、昨年12月の委員会で、「ロシアはWTOの加盟国となったというのに、加盟国がとるべき行動や約束したことと全く逆のことをしている。とても迷惑な態度だ」との不満を漏らしたと、フィナンシャル・タイムズ紙が報じている。

【提訴の代償を支払うのは誰か?】
 EUは、今回の提訴により、法律に則った貿易制度にロシアをつなぎとめることができると期待しているという。
 しかし、もし60日間の話し合いがうまくいかなければ、その後専門家の委員会による裁定には、数年間かかることになる。
 専門家は、ロシアは話し合いで合意するのではなく、長期間に及ぶWTOの裁定に任せるだろうと推測している。つまり、ロシアを裁こうとすれば、EUがその代償を支払い、無意味な時間を消費することになる。
 実際、ロシア政府の動きは時間稼ぎのように鈍いものだ。2月に課税に関する改善案の提出に言及の後、ようやく5月の終わりになって、輸入、国産どちらにも統一してリサイクル税をかけるとする法案を提出した。
 しかし、これは、下院を通過し、連邦院でも承認され、大統領が署名して初めて発効する。法案は下院を通過しないまま、国会は夏休みに入ってしまった。

 またロシア国営リアノーボスチ通信によると、ロシア側は、「EUの申し出に関しては、WTOの正式な問題解決の手続きに従う」としている。一方、ロシア製肥料への反ダンピング関税撤廃についてWTOに訴えるなど、反撃に出る動きもみられるとフィナンシャル・タイムズ紙が報じている。

Text by NewSphere 編集部