オバマ政権に変化の兆し 混迷のシリアの未来は?

【米大統領の言質の重み】
 解決の兆しが見えないまま、2年以上が経過したシリア内戦。「当局へのささやかな抗議運動」として口火を切った騒乱は国中に広がり、今や、国連の発表によれば、死者数は7万人にのぼるとされる。
 日ましに窮地に追い込まれていくかに見えるアサド大統領は、かねてより、化学兵器を含む非通常兵器の大量備蓄を取りざたされてきた。オバマ大統領が、それらの兵器の使用を軍事行動開始の「レッドライン」(越えてはならない一線)として強く示唆してきたこともあって、国際的な注目を集めてきた。

〈レッドラインは越えられたのか?〉
 先週、イギリス、イスラエルなどの同盟国から、「それ」が起きたとの指摘がなされ、米国独自の調査網からも、化学兵器使用を裏付ける証拠が呈示されたとの発表がなされた。
 過去、ペトレイアス元CIA長官や、ヒラリー・クリントン元国務長官などの側近からの反体制勢力への武器供与の進言にも動かなかったオバマ大統領だが、ここにきて、国内の議会、国外の同盟国、シリアの反体制勢力からの強い「出動要請」にさらされている形だ。
 アメリカ大統領の「言質」はどう守られるのか。その答えの一端が、30日に明らかにされた。

〈引き上げられたハードル〉
 オバマ大統領は30日の記者会見で、シリアにおける化学兵器の使用について、「シリア国内で使われたことはわかっているが、いつ、どのように、誰によって使用されたのかは不確実だ」と前置き。「米国の国家安全保障に関する決定を下すためには、諸事実をしっかりつかんだという確信が必要だ」との見解を示し、「早まった介入に踏み切れば、米国は結局、孤立してしまいかねない」と述べた。
 そして、米国が具体的な介入行動に踏み切るためには、(1)シリアでの化学兵器の使用が、アサド大統領側によるものであるとの明確な証拠、(2)国際社会による(1)への賛同と介入へのコンセンサス、が必要だとの見解を示したという。

〈あるか、急展開?〉
 とはいえ、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、30日には政府情報筋が、「オバマ大統領には、反体制派への武器供与も含む関与を考慮する可能性がある」と語ったと報道。かねてより、大統領に二の足を踏ませてきた「反体制勢力とイスラム過激派とのつながり」や「過激派に武器が渡る可能性」についても、ニューヨーク・タイムズ紙は、反体制派勢力との協議のなかで、そうした可能性が排除できるとの信頼感が醸成されつつあると指摘している。ペンタゴンでも、すでに大統領のために各種の「オプション」を準備しているという。

【見えない真実 深まる混迷】
 ただしニューヨーク・タイムズ紙は、シリア国内の「事実と真実」を知る難しさをも浮き彫りにしている。
 同紙は、シリアのジャアファリ国連大使が、30日、反体制派がアレッポで化学兵器を使用したとして、国連に調査を要請したと伝えた。
 このほか、同氏はシリアは中東地域から大量破壊兵器を排除することに尽力してきたと述べ、同国政府が自国民に対して化学武器を向けることなどありえないと強調。反体制派が29日に北部の都市サラケブでも、人ごみで「ある種の化学物質とみられる」粉を散布し、少なくとも10名の市民が呼吸器に甚大な被害を受けたと非難した。ただし、反体制派はこれについても、政府軍の仕業としている。
 同日の、ブービートラップによるトラックの炎上や、トルコ国境沿いの難民キャンプへの爆撃などの大規模な暴力についても、政府と反体制派は互いに責任をなすりつけ、非難合戦を行っているという。

【戦時下の困窮に置き去りの民衆】
 一方フィナンシャル・タイムズ紙は、反体制側が制圧・統治している現地の「革命の熱気とは程遠い」様子を伝えた。
 そうした地域では、裁判所が置かれ、たとえば「道にゴミを捨てたら罰金」「パン屋が不当に高い値段をつけたことが三度発覚したら逮捕」など、イスラム法に基づく治安が行われている。
 しかし、反体制派には、インフレを抑える力もインフラを充実させるための資金もない。結果的に、中央政府が公務員の賃金をまかなう皮肉や、民衆の不満などが放置されているのが現実だという。

 シリアのほか、イギリス、フランスによる現地調査の要請を受け、「無条件で、徹底した」調査を行う意向の国連。国際社会は真実を明らかにし、「声が涸れるまで救いと援助を求め続けてきたが、誰も耳を貸してはくれない」という、シリアの民衆の絶望を救うことはできるのかが問われている。

Text by NewSphere 編集部