ナイジェリア政府を悩ますイスラム過激派による外国人殺害事件 解決策はあるのか?

 9日、「アンサル」と名乗るイスラム武装集団が、2月に誘拐した7人の外国人建設作業員を殺害したとの声明を発表した。誘拐の背景として、マリやアフガニスタンなどのイスラム国家に対するヨーロッパの軍事介入を挙げた。殺害の直接の動機としては、イギリス、ナイジェリアが救出作戦に乗り出したことを挙げ、「信じるもの」1人の魂は、「信ぜざる者」何千人もの魂に値する、と宣言したという。

 殺害されたと見られる7人はそれぞれ、イタリア人、ギリシア人、イギリス人の3人の欧米人と、レバノン人を含む中東出身者4人。10日、イギリスのヘイグ外相、イタリアの外務省は、自国民が殺害された強い可能性を認め「残虐非道な行為」を激しく糾弾した。ギリシアの外務省は、アンサルから人質解放の条件などについて一切呈示を受けなかったと明かし、イタリアと並んで救出作戦への関与を否定した。
 ただし、指摘された「イギリスの救出作戦」についても、ナイジェリアの報道機関が、軍事作戦支援でマリに向かう途上の英航空機を救出目的と誤報し、それがアンサルに伝わったとの報道もある。

 事件を起こした「アンサル」は、ナイジェリア北部を拠点とし、過去4年間近く、反政府活動を展開してきたボコ・ハラムの分派だと、ニューヨーク・タイムズ紙は報じた。従来、公的機関や施設への襲撃を常套手段としてきたが、多数の市民の犠牲を伴う手段を忌避した一派が新しく立ち上げたものだとされる。昨年には、2011年にナイジェリア北部で誘拐されたイギリス人とイタリア人の建築作業員2名を殺害したほか、12月、1月にはマリ派遣予定のフランス人を誘拐・殺害して一躍有名になった。

 フィナンシャル・タイムズ紙によれば、豊かな石油資源に恵まれたナイジェリア南部のデルタ地帯では、以前から外国人の誘拐は「割のよいビジネス」であり、身代金を惜しまなければ、被害者の身柄は無事に戻ってきたものだったという。
 しかし、北部での「誘拐」は多くの場合「死」に直結する。アンサルが得意とする、外国人の誘拐と殺害の手法がアルカイダに酷似していることから、関係を取りざたされることが多いが、詳細は未だ謎に包まれているという。

 アンサルの母集団であるボコ・ハラムは2月、隣国カメルーンで起きた、現地派遣のフランス人技師一家5人(うち2名は子ども)の誘拐についても犯行声明を出している。ただしその手法は、ボコ・ハラムよりもむしろアンサル寄りであると指摘する声もある模様だ。

 ナイジェリアの建設業は昨年18%の成長を示したという。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、昨今の外国人狙いの悪質な犯罪の急増を受けて、すでにフランスの巨大石油企業TotalSAがテロリストの襲撃を受けた首都から南部に拠点を移動したほか、専門家は、今後も社員の派遣を見合わせる企業が増え、ただでさえ貧困に喘ぐ同地域の発展に大きな影響を及ぼすと見ていると報じた。

 なお「アンサル」の正式名称を訳すと、「ブラックアフリカ(サハラ砂漠以南)のイスラム教徒を守る先鋒隊」となる。海外各紙の報道は、イスラム教徒を「守る」はずのアンサルが、同胞を苦境に陥れようとしている皮肉な現状を強く示唆した。

Text by NewSphere 編集部