チュニジアの混乱が投げかける、「民意」の曖昧さ

 チュニジアでは、反アンナハダ政権.の急先鋒だった世俗派野党指導者のベルイード氏の暗殺後、折からの政情不安が顕在化し、国を揺るがしている模様だ。「アラブの春」後、選挙という正統性を持ってたった現イスラム主義政権は、その拠り所である「民意」を失っていないのか。
 それぞれの着眼点からチュニジアの今後を占った海外各紙の論調も大きく分かれ、同国の混乱を改めて印象づけている。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、「ベルイード氏暗殺後の混乱の非は、ニュースメディアや世俗派エリートや旧政権の残党にある」という現政権の見解を紹介した。同紙によれば、アンナハダ党は大衆の支持に対する自信をにじませ、ごく一部の特権階級が不支持に回っているに過ぎないとしているという。ガンヌーシ元首相はインタビューで、アンナハダ党は「オープンで受容的」であり、イスラム主義的政治に反対するチュニジア人は20%にも満たないと強調。民衆のほとんどは、イデオロギーよりも食べ物や薬に関心があると述べたという。

 一方フィナンシャル・タイムズ紙は、イスラム教主義者で政府支持団体でもあり、暗殺事件への関与を強く囁かれる「革命擁護同盟」に着目。革命後、政治の空白状態を埋めるために自発的に誕生した自警団を母体とし、「民衆と政府の仲立ち」を存在意義として掲げる同同盟が、意にそぐわない個人や団体に「反政府」のレッテルを貼り、排除しようとする傾向に警鐘を鳴らした。国内にも、政府官僚とのパイプにより「免罪符」を手にしているとの批判もあり、懸念が強まっている模様だ。

 ただし、現政権への非難一色かに思われる情勢にも異論がある模様だ。ガーディアン紙は、チュニジア人識者ブラヘム氏の寄稿記事で、9日に起きた同国の大規模な反フランスデモを取り上げた。
 デモの原因は、フランス内務相のヴァルス氏が暗殺事件をうけて、現政権を「イスラム主義的ファシズム」と非難し、権利や自由への弾圧を「フランスは容認できない」と発言したことだという。ブラヘム氏は、民主化には時間がかかり、紆余曲折がつきものだと述べ、この過程の「一事件」をあげつらって内政に干渉する姿勢を非難した。こうした動きは、フランスが、現政権、ひいては「イスラム主義」を選択した民意への不信の現れであり、マリ進撃の際の領空通過を拒否するなど、意にそぐわない政権への不満が見え隠れすると批判した。
 またチュニジア国内では、ジャバーリー首相により、政党を問わず能力のある人物を登用して政府を構成すべきとする「実務家内閣」イニシアチブが投げかけられているが、ここにも、ベンアリ政権時代の残党が、今回の暗殺事件を逆手に取って選挙の意義をないがしろにしようとする思惑が働いているという。

 同氏は最後に、フランスが革命後、民主主義確立までに1世紀以上を要したことを引き、チュニジア人の「自己決定権」の尊重を訴えた。

Text by NewSphere 編集部