[財政の崖]共和党の「代案」は、良手か悪手か?

[財政の崖]共和党の「代案」は、良手か悪手か? 今週初めから、大統領と共和党の「財政の崖」回避交渉が加速度的に重ねられている。共和党のベイナー下院議長が、年収100万ドル以上の富裕層に対する所得税率引き上げを認める妥協案を示し、オバマ大統領も、「減税措置を延長しない」層の所得水準を引き上げるとともに、一層の支出削減という譲歩案で応じた。ところがベイナー氏は、「合意レベルに達しない」という理由により、一層の歳出削減幅の拡大と減税縮小を求めて、この提案を一蹴。交渉継続への前向きな姿勢は堅持しつつも、年収100万ドル未満の所得者に一律で減税措置を延長する「代案」を明らかにした。
 ベイナー下院議長の思惑は?民主党はこれにどう応えるのか?海外各紙は波乱含みの交渉を多面的に分析した。

 フィナンシャル・タイムズは、両サイドの上層部が「妥協案」の提示と引き換えに、自陣の説得に追われる様子を報じた。ベイナー氏の課題は、「増税は一切認めない」党内保守派の説得と指摘。一方大統領側の課題は、社会保障給付金を、現行よりも上昇ペースが低く消費行動の変化を考慮した、「連鎖式消費者物価指数(CPI)」連動方式に改めることによる支出削減策への、リベラル派の理解を得ることだという。これが実現すれば、政府にとっては大幅な歳出削減が見込めるが、年金や退職金への依存度の高い高齢者層にとっては打撃となるとみられる。

 自陣を説得しつつ、相手陣営の落としどころを探る、粘り強い交渉のさなかに明らかにされた共和党の「代案」は、大統領側にとっては到底容認できるものではなく、カーニー報道官は「上院を通過するはずもなく、中間所得層を守る結果にもならない」と非難。ニューヨーク・タイムズ紙は代案提示を、大統領側に一層の妥協を求める「圧力」と示唆したが、カーニー氏は「(代案が)支出削減幅の拡大を引き出すことはない」と一蹴したという。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、「これだけ双方の意見が近づいていれば合意にいたらないはずがない」という民主党議員の声を伝えたほどの楽観ムードを、一気に棚上げするような「代案」だといえる。関係者によれば、大統領の側近からは、ベイナー氏の統率力への疑問の声や、ティーパーティーの圧力に屈して交渉を投げ出せば共和党の「恥」になるという声が上がっているほか、共和党内部からすら、「受け入れられるはずがない、無意味な策」という失望の声が上がっているという。

 では、ベイナー議長の足を引っ張っているかに見える、肝心の共和党内部の思惑はどうなのか。フィナンシャル・タイムズ紙は、「増税は一切認められない」という建前を堅持しつつ、オバマ側の最終提案が「アメリカ救済の大義の前に、増税に膝を屈せざるを得ない」ほど充実した、歳出を最大限削減するものであってほしいという共和党議員の声を紹介。共和党員の複雑な胸中と、合意の可能性を示唆した。

Text by NewSphere 編集部