エジプトは混乱と対立を乗り越え、安定を取り戻せるのか?

エジプトは混乱と対立を乗り越え、安定を取り戻せるのか? 9日、エジプトのモルシ大統領は反大統領派の抗議デモを誘発し、2週間近くもの混乱を招いた大統領の権限強化の大統領令を一部撤回すると発表した。これによって、混乱は収拾に向かうのか。憲法草案の行方はどうなるのか。海外各紙はこの2週間の経緯を振り返り、今後を占った。

 ニューヨーク・タイムズ紙によれば、モルシ氏が反対派の意表をついて、憲法令の一部撤回を発表したのは同大統領の呼びかけに応じ「危機回避のための国家的対話」に集った政治家や識者40名の助言によるものだという。これにより、大統領の決定が司法判断の対象外となるのは「憲法宣言」に限定されるが、検察官の罷免などを含め、前宣言下の決定はそのままとなる。同大統領はさらに、全派の賛成が得られれば、憲法に対する「一定の修正案」を受け入れる余地もあるとした。
 しかし、反対派はこれに一斉に反発。妥協の幅が曖昧なほか、反対派が強く求めていた国民投票の延期には応じず、ウォール・ストリート・ジャーナル誌が報じた識者の談のように、「ことはモルシ氏のシナリオ通りに動いている。地盤を完全に固めた上での点数稼ぎに過ぎない」とも思われるためだ。そもそも、「国家的対話」の正体は、反対派がほぼ完全にボイコットした、イスラム系勢力のみの話し合いだったという。
 とはいえ、少数多派からなる反対勢力の足並みは乱れ、憲法草案の撤回のための手段も、不信任投票とボイコットのあいだで揺れた。結局、ボイコットでほぼ固まったのは、国民投票が実施されれば、ほぼ確実に信任されるだろうと考えているだめだともされる。

 一方、ニューヨーク・タイムズ紙は、軍隊とモルシ大統領の接近にも注目した。内務省下の警察の無策ぶりに落胆したモルシ大統領は、軍隊に国の重要施設と投票所の警護を要請。これによって、軍には独自の逮捕権も生ずることになる。短期的とは言え、軍がモルシ氏の後ろ盾となり、国民投票を支持する格好となったことで、「独裁色を強めるモルシ氏を、軍隊が排除するのではないか」という囁きが否定されたことになり、反イスラム派勢力を落胆させたという。軍隊の方向性は、未だ定かではないが、対話を要請するトーンがモルシ氏と重なることから、反対派は、就任以来「ごますり」との揶揄も飛び出すほど軍の扱いに気を使ってきた同氏と軍との結託を危ぶんでいるともされる。
 このように、反対派に大きく水をあけたとも思えるイスラム勢力だが、その勢いがどこまで続くかは不明の模様。今回の、国を二分する大混乱を招いた大統領と、その背後のムスリム同胞団に対して、国民が失望と怒りを覚えているのは疑いがないとされる。国民投票の2ヶ月後に行われる議会選で、反対派勢力がムスリム同胞団の政治的ダメージにどこまでつけこめるかが注目される模様だ。
 エジプトの情勢はまだまだ予断を許さない段階にあることが改めて浮き彫りになった。

Text by NewSphere 編集部