「燃料電池車はガラケーの二の舞か」 FCV普及に懐疑的な海外、その理由は?

toyota_mirai

 日本が国を挙げて推す次世代エコカー、燃料電池車(FCV)の燃料を供給する水素ステーションの整備会社が年内に設立される見通しとなった。トヨタ、ホンダ、日産の自動車メーカーと石油元売り最大手のJXTGエネルギーなど11社が共同で新会社を設立することで、19日に合意した。次世代エコカーを巡っては、FCVと電気自動車(EV)が覇権を争っているが、FCVは世界的にEVに遅れを取っているのが現状だ。水素ステーションの不足もその大きな要因に挙げられており、新会社設立が起爆剤になるか注目される。

 EVが圧倒的に主流である欧米の海外メディアもこのニュースに注目しているが、FCVが抱えるさまざまな課題を取り上げる中で、水素ステーションの普及そのものにも懐疑的な見方が目立つ。「ガラパゴス」と揶揄され、スマートフォンに駆逐されつつある日本独自の携帯電話(フィーチャーフォン)と同じ運命を辿るという予想もある。海外メディアの論調は、概してトヨタや日本政府の熱意とは対照的に冷ややかなようだ。

◆水素の扱いにくさとコストがネックか
 環境とエネルギーの専門ニュースサイト『E&E NEWS』は、新会社設立のニュースを受け、「日本は水素が支配すると考えている。他に誰かいませんか?」という皮肉を込めたタイトルで、FCV普及の険しい道程を論じている。記者は日本のトヨタ本社を訪れ、同社のFCV『ミライ』に試乗し、好感触を得たようだが、続けて「ミライという名の通り、トヨタはFCVが普及する未来は数年内に訪れると考えている。しかし、世界の残りはそれには懐疑的だ」と書く。

 現在、日本国内の水素ステーションは90ヶ所程度にとどまっている。政府は東京オリンピックが開かれる2020年までに160ヶ所にする目標を掲げており、新会社設立によりこれが「2025年までに320ヶ所」にペースアップするとしている。これに対し、『E&E NEWS』は漏れやすく爆発しやすい水素の扱いにくい特性を挙げ、「高圧下で安全に保管し、移動させることのできる新たな素材が必要だ」と障壁の一つを挙げる。また、水素燃料がある程度普及しなければ、保管タンクやパイプライン、バルブなど水素ステーションを構成する部材の価格も下がらず、現状では1ヶ所あたり「200万ドルから500万ドルもかかる」と見ている。

 また、人口密度が高い日本ならではの問題も指摘する。「開発されていない土地が少なく、人が密集して暮らす日本では、水素の運用は特に難しい。例えば、他の国よりも水素タンクを居住地の近くに置かなければならないし、パイプラインも安全性を考慮してより厚みのあるものにしなければならないだろう。さらに、それらのインフラには慎重なテストや継続的なモニタリングが必要だ」。『E&E NEWS』は指摘していないが、地震への備えも日本が特に克服しなければならない課題であろう。一方で、同メディアは「都市部に人口が集中する日本では、人がまばらに暮らしている国よりは水素ステーションの数は必要ない」とメリットも挙げる。また、エネルギー価格がもともと高いため、水素の価格も他の国ほどは安くする必要はないとも見ている。

◆FCVは技術的なハードルが高くコストダウンが難しい
 日本政府は、FCVの技術こそが、日本の自動車産業再浮上の切り札になると考えている。FCVは自動車大国日本の高度な技術がなければ開発・生産が困難であり、他国のライバルの追随を許さないというのがその理由の一つだ。一方のEVは、基本的には既存技術の組み合わせであるため、自動車メーカーとしての技術の蓄積のない米テスラ・モーターズのようなベンチャー企業も実際に参入している。

 英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、「電気自動車ビジネスは、携帯電話に似ている。シンプルで、モジュラーを集めて簡単に組み立てることができ、中国やシリコンバレーの新規参入を許しやすい」「対照的に、FCVは自動車メーカーの製造技術の全てを必要とする」と書く。北米トヨタの先進技術車担当ナショナル・マネージャー、クレイグ・スコット氏も、自ら「FCVには多くの発明と特許技術が必要だ。EVを作る方がずっと単純だ」と語っている(E&E NEWS)。

 市場価格をいかに抑えるかということも、FCVの課題だ。『E&E NEWS』は、「ミライの最低価格は5万7000ドルで、テスラで最も安い『モデルS』の6万8000ドルを下回るが、電気自動車の日産リーフの3万ドルを上回る」とEVと比較する。FCVのシステムには高価な貴金属であるプラチナを必要とすることなど、最新の技術では使用量を最小限に抑えることに成功したものの、コストを抑えるのが難しい要因がいくつかあるようだ。

◆「ニワトリが先か卵が先か」
 以上のように、FCVの普及には、自動車メーカーの技術革新に加え、社会全体を巻き込んだインフラ整備、さらには経済面でのイノベーションも必要になり、「勝利への道のりは遠い」(E&E NEWS)というのが懐疑的な海外メディアの共通した見方だ。では、整備会社の設立により、水素ステーションの建設というインフラ整備の重要な部分についてはハードルをクリアしたかというと、そうともいえないと『E&E NEWS』などは見ているようだ。同メディアは、FCVの普及とインフラ整備は「ニワトリが先か、卵が先か」という命題に通じるものがあり、「結局、燃料を補給できる場所がなくては車を買いたいと思う人はいないし、お客がいなくては水素ステーションに投資したいと思う者もいない」と指摘する。

 米フォーブス誌も、「FCV vs EVは、もはや宗教戦争の様相を呈した聖戦と化している」としたうえで、日本でさえ「10万台以上が走り、7100以上の急速充電スタンドがあるEVの方がずっと先に進んでいる」と、趨勢は既にはっきりしていると言わんばかりだ。その中で、今回の整備会社設立にEV勢の日産が参加していることに着目するが、「この水素推進事業への日産の支援は心変わりを意味するのか? どうやらそうではないようだ」と、覚めた見方をしている。その証拠として、日産の内部の事情通が、「日産は、FCVに対し、トヨタがEVに示しているのと同等の熱心さしか持ち合わせていない」と語ったとしている。

 こうした海外メディアの懸念と批判を打ち消すように、安倍首相は今年1月、「水素エネルギーは、エネルギー安全保障と地球温暖化に対する切り札だ」「規制緩和のおかげで、未来の水素社会はここ日本で始まろうとしている」と宣言した(E&E NEWS)。東京オリンピックでは、世界に日本の水素社会をアピールするために、選手送迎バスにもFCVを導入する予定だ。「ニワトリが先か、卵が先か」というジレンマに対しては、トヨタのプロジェクト担当者が、FCVの生産とインフラ整備を「むしろ花とハチの関係にしたい」と反論している。

 FTは、「他国に売れない技術に日本を導くことにより、トヨタとホンダに率いられた日本の強力な自動車産業が、自ら作り上げたガラパゴスなシステムから抜け出せなくなる懸念が生じる。独自の無線基準が、日本の携帯電話産業を孤立させたことが繰り返されるのだろうか」と書く。そして、日本のFCVへの取り組みを紹介する特集記事を次の一文で結んでいる。「もし、日本の自動車技術が水素を制すれば日本は世界で良いポジションに立てるだろう。もしそうならなければ、日本政府は大きな計算違いをしたことになる」

Photo via Darren Brode/shutterstock.com

Text by 内村浩介