靖国参拝×問題 海外の反応まとめ

 閣僚の靖国神社の参拝を巡って、国内外が大きく揺れている。

 靖国神社とは、明治時代に創設された国家神道の中心的神社で、戊辰(ぼしん)戦争で戦死した軍人を祀るための招魂社として創建されたのがその起源とされている。その後も、数々の戦争において、日本国のために命を落とした軍人を称える場として、多くの人が参拝をする神社となった。靖国神社には、太平洋戦争を指導し、極東国際軍事裁判(東京裁判)で重大戦争犯罪人として起訴されたA級戦犯も祀られている。

 歴代の日本の首相らは、靖国神社を参拝する目的に、〈過去〉の戦死者に敬意を表すためとしているが、歴史上、日本による侵略を受けた中国や韓国は、A級戦犯を合祀した神社を首相が参拝するのは「侵略戦争を正当化する」として反発している。これが靖国参拝をめぐる大きな問題の一つとなっている。

 安倍政権発足後、再び靖国参拝をめぐる議論が活発化してきた。

 中国、韓国はもとより、欧米諸国までも、東アジア地域の政治的不安定な状況を危惧し、日本の靖国参拝に対する否定的な意見も目立ってきた。

 今や靖国参拝問題は国内問題を超えて、政治・外交における最大の火種の1つとなってしまった。足もとでも靖国参拝を巡る報道や賛否両論は途絶えることなく続いている。

 以下、昨今の主要な海外の反応をまとめる。

1)「安倍が本性をあらわした」中韓メディア、靖国参拝を強く非難

 昨年12月の安倍首相の参拝を受け、中国外務省報道官は、「参拝は日本の侵略と植民地支配を取り繕う行為で、戦後の国際社会の秩序を乱す」と強く非難した。

 韓国文化省は、「許されざる戦犯を祀る靖国参拝は、首相の誤った歴史認識の表れで、北東アジアの安定と協調を乱す時代錯誤の行動だ」と抗議した。

 韓国の聯合ニュースでは、靖国参拝は侵略の歴史を正当化するもので、外交的影響は計り知れないと報じている。コリア・タイムズ紙は、中韓は「安倍が本性をあらわした」とみている、と報じている。

(アメリカも参拝反対の立場を明確にし、強い懸念を表した。東京の米大使館は、「近隣諸国との緊張を高める行為は遺憾。過去の問題を乗り越える建設的な解決策を見出し、地域の平和と安定という共通の目的に向けて協調していくことを望む」と表明した。)
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2)“安倍が南京で跪けば、靖国参拝も許される” 首相のダボス講演に対する中国ネットの声

 安倍首相は、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の基調講演で、現在の日中関係を第一次大戦前夜の英独関係にたとえて発言した。また安倍首相は自身の靖国参拝についても所見を述べた。

 香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙では、「西ドイツのブラント元首相が1943年のワルシャワ蜂起の犠牲者に対して行ったように、安倍も南京大虐殺記念館の前で跪くべきた。そうすれば、靖国を訪れることも許されるだろう」といったインターネット上の書き込みを紹介している。

(菅義偉官房長官は、こうした海外の反応を受け、「安倍首相は、第一次世界大戦のようなことが再び起こってはならず、両国間の緊張緩和のための対話が必要だという意味で発言した」と、記者会見であらためて首相の真意を説明した。)
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3)結局「A級戦犯」のせい?海外紙が靖国参拝を問題視する理由

 中国外務省の洪磊報道官は、「靖国神社問題は日本が侵略の歴史を直視し、反省できるか否か、中国を含む無数の被害国人民の感情を尊重できるか否かに関わる」と述べた。

 また、タイム誌は、人民日報傘下のグローバル・タイムズ紙の報道を引用。「日本の政治家の多くが靖国参拝を、『戦死者への慰霊』というよりも『政治的なポイント稼ぎ』として行っている」とし、「しかし、それは、日本を害しかねない火遊びであり、中国や韓国の感情を著しく悪化させる危険な行為だ」との意見を紹介した。

 韓国の識者は「靖国は、日本の過去に対する謝罪拒否の象徴だ」とし、「現在の日韓両国関係はかつてないほど冷え込んでいる。麻生氏、あるいは、安倍首相が参拝を強行すれば、さらなる関係悪化を招くだろう」と断言している。

(米国の閣僚は、安倍氏の靖国神社への思い入れが、領土問題、従軍慰安婦問題などでただでさえ悪化した隣国との関係にさらに深いひびを入れるのではないかとの懸念を強めているという。)
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4)安倍首相の靖国参拝見送りは、中国への配慮か 保守主義との“微妙なバランス”を海外紙指摘

 海外各紙は、安倍首相が今年8月に靖国神社参拝を見送ったことについて、中国の習近平国家主席との首脳会談を意識したのだ、と報じている。

 ロイターは、安倍首相が保守主義と中韓への配慮との間で、微妙で難しいバランスをとろうとしている、と報じる。ブルームバーグも、今回の参拝見送りで、安倍首相は、国家主義の支持者からは批判を受けるだろうが、日中首脳会談への望みを繋ぎたいのだろう、とみている。
 
(中国外務省の華春瑩副報道局長は、安倍首相の私費での玉串料奉納や一部閣僚の参拝について「中国は断固として反対する」との談話を発表した(共同通信)。韓国政府も、「嘆かわしい」と非難する外交部報道官名義の論評を発表した。(聯合ニュース))
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5)“天皇陛下に、靖国神社を参拝していただきたい” 福岡遺族会、A級戦犯分祀を求める

 福岡県遺族連合会は、福岡市内で県戦没者遺族大会を開催し、A級戦犯の分祀の実現を目指すという内容の活動方針を決議した。「天皇・皇后両陛下、内閣総理大臣、全ての国民に、わだかまりなく靖国神社を参拝していただくため」というのがその理由だ。

 タイムズ紙の報道によると、福岡県遺族連合会は、靖国神社に対し、A級戦犯の「合祀を取りやめ」にし、この神社への中韓の反感の主要な原因を取り除いて、日本の指導者らによる参拝がもっと受け入れられるようにするよう求めているという。

 しかし、このA級戦犯の分祀の提案には、大きな困難が待ち受けているようだ。朝鮮日報は、「教義上、一度合祀したら分祀できない」というのが靖国神社の主張であり、A級戦犯もすでに他の御霊と一体の神となっているため、「分祀」は不可能であると主張している。

(朝鮮日報の報道は、客観的な記述で、ただの日本の国内ニュースに過ぎない、という雰囲気だ。そこに批判的ニュアンスは一切見られない。)
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6)「安倍首相、最大の敵は自民党」? 靖国参拝や集団的自衛権などめぐり、海外紙が分析

 靖国参拝などに関して、ディプロマット誌は、「安倍首相の最大の敵は自民党」と報じている。

 内閣総理大臣補佐官の衛藤晟一氏は、安倍首相の靖国参拝に対するアメリカ側の「失望した」という発言を非難する映像をYouTubeに投稿した。これが国内で報じられると、菅義偉官房長官は衛藤氏に、発言を撤回するよう求めることとなった。同時に、発言は日本政府による正式なものではないと釈明した。

 首相は、集団的自衛権を容認する憲法の再解釈について、「最終的な責任は自分にある」と発言しているが、自民党議員らは、党を軽視している一例だと見ているという。党議を経ずに集団的自衛権行使についての法改正を閣議決定しようとの首相の動きに明らかな疑問を呈した。

 安倍政権は政策決定の過程で、「閣内重視、党内調整はほどほど」というやり方をとっていることも批判されている、とディプロマット誌は指摘している。

(首相はこのような反発を受けて、決定を国会閉会後に延期することを検討せざるを得なくなっている。与党内に話し合いの場を設け、公明党との協議の前に、党内意見の統一を図りたい考えだ。)
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Text by NewSphere 編集部