集団的自衛権 海外の反応まとめ

 集団的自衛権をめぐる議論が、国内外で激しさを増している。

 集団的自衛権とは、自国と密接な国が武力攻撃された際に、自国が攻撃されていなくとも実力を持って阻止する権利を指す。国連憲章によって各国の固有の権利として認められているが、日本においては、従来、憲法9条の制約によって行使できない、という立場をとってきた。

 安倍政権は、北朝鮮の挑発行為や中国の海洋進出など安全保障の問題が厳しさを増すなか、従来の憲法9条の解釈を変更し、集団的自衛権を行使できるようにすることを目指していた。そして近年、「新3要件」のもとで集団的自衛権の行使を認める閣議決定をした。今後は、この新たな方針に沿って、安全保障に関連する具体的な法整備が行われていくことになる。

 海外メディアからは、日本の集団的自衛権の行使を認める動きに対して肯定的な意見が出されている。

 一方で、近隣諸国である中国や韓国からは、安全保障上の観点からも容認しがたいと批判的な意見が出されている。

 以下、昨今の主要な海外の反応をまとめる。

1)「異常」な日本、「普通の国」へ一歩 海外識者、集団的自衛権の行使容認を論評

 「平和主義の日本がジワジワと“普通”に近づいている」と評したのは、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のコラムだ。世界中の「ほぼ全ての国が集団的自衛権を有している」とし、日本と同じ第2次大戦の敗戦国であるドイツでさえも「西(ドイツ)がNATOに加盟した1955年以来、同盟国を守る義務を負ってきた」と記す。そして、「主要国の中で日本だけが異常だった」と表現している。

 同紙は、日本が再び戦争を起こすという懸念や「安倍首相の国粋主義的なレトリック」に対する反対論者の嫌悪を皮肉りながら、「日本はほんの少し“普通の国”に近づいただけだ。我々はそのことを冷静に認めなければならない」としている。

(APが配信した識者座談会で、岩屋毅・自民党安全保障調査会長は「長期的視点に立てば、アジア太平洋地域全体をヨーロッパのように安全保障の傘で覆わねばならない」と発言。将来アジアにもできるであろうEUのような自由貿易ブロックを守るため、NATO(北大西洋条約機構)のような「集団的安全保障の枠組みの構築」が、将来的な目標だと述べた。)
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2)集団的自衛権、中韓だけ批判論調 米国は賛意…中国の脅威が背景か

 中国国営新華社通信は、安倍首相が日本を再び軍国主義国家にしようと試み、「戦争の亡霊と戯れている」と非難した。中国外務省の洪磊報道官は、「日本が第二次世界大戦後、長年堅持してきた平和的発展の方向を変えようとしているとしか思えない」と懸念を示した。(フィナンシャル・タイムズ紙)。

 また韓国は、日本が韓国政府の承認を得ずに朝鮮半島で集団的自衛権を行使することは認められない、と強調した(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。なお、閣議決定や記者会見で、朝鮮半島への言及はなかった(朝鮮日報)。

 ヘーゲル米国防長官は、日本が米国の重要な同盟国として、東アジアの防衛で「より積極的な役割を担う」ことになるだろう、と方針転換を歓迎する発言をしている(フィナンシャル・タイムズ紙)。

(日本政治・東アジア研究者であるトバイアス・ハリス氏は、中国が主張するような、「日本の軍国主義回帰」はありえない、としている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)。それよりは、中国の軍備拡張に合わせて、この傾向が徐々に強まっていくのかどうかを注視する必要があるとしている。)
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3)集団的自衛権の行使容認は、“安倍の勝利” 国民の反対や懸念を海外メディア報じる

 方針の転換は、安倍首相の政治的勝利だ、とロイターは報じている。また、平和憲法による自衛隊活動への縛りを緩め、日本が「普通の国」になるための最初の段階だ、とみている。ただ同紙の「普通の国」という表現には幾分皮肉も混じっているようだ。

 日本国内紙、日経、毎日、朝日3紙の先週の世論調査では、調査に応じたうち少なくとも半数の人が集団的自衛権行使に反対、3分の1以下が賛成だった。毎日新聞の調査では、71%の人が、海外での戦争に日本人が巻き込まれることを恐れている。

 同調査では、改憲ではなく解釈を改めることで、自衛隊の活動範囲を広げようとすることに対する不安を覚えている様子もみえる、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。

(集団的自衛権行使容認によって、具体的にどういう状況で自衛隊のどのような活動が認められるのかなどの詳細には、不明確な部分もある。行使を認めた公明党は、再解釈の範囲を制限することを強調。海外での紛争に日本人が巻き込まれるのでは、と不安な有権者は少なくない。)
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Text by NewSphere 編集部