フィリピンの首都マニラ市の面積は38平方キロほどで、日本なら沖縄の那覇市くらいの広さ。ここがスペイン人がフィリピンでの植民を始めた地だ。当時に建てられた教会や、コロニアル様式の建物が並び、『東洋の真珠」と呼ばれた趣が感じられる。マニラ市は小さいのだが、「メトロマニラ」は大都市圏だ。マニラ市を含めた16の市からなるマニラ首都圏一続きの広大な大都会で、東京23区ほどの広さだ。

メトロマニラ内を移動するのに便利なのはLight Rail Train1とLight Rail Train2、Metro Rail Trailの3線の電車だ。朝晩のラッシュ時の乗換駅は行列ができて身動きが取れないほど混雑する。通勤・通学の人たちがデイパックをちゃんと前に抱えていているのは混雑への対策もあるだろうが、どうもスリを避けるためでもあるらしい。

そんな電車に乗って、今回はマニラ首都圏の3つの市にある市場を訪れてみる。そして、フィリピンの家庭料理アドボの一つ、イカのアドボのレシピを紹介したい。

マニラ市中心の広大な屋外市場「キアポ マーケット」

マニラ市には古い建物が多い。人口の87%を占めるキリスト教徒たちが集まる歴史ある教会も、行政に関わるビル、それに人が済む住宅ビルも、人々の生活が感じられるような、年を重ねた良さがある。

中国本土から遠くないこの地には世界最古と言われる中華街があり、そのそばにあるのが『キアポ教会』(冒頭の写真)。等身大の黒いキリスト像『ブラックナザレ』が祀られていて、フィリピン中から信者が集まる。そして、この教会の南に広がるのが『キアポ マーケット』だ。教会のすぐそばには祈りのためのキリストの肖像や像、蝋燭などが売られている。そこから小さな路地が入り組んで、食料品、衣料品、電気機器など、生活に必要なあらゆるものが露店で売られていて活気がある。

それにしても人が多く、それにローカルの人たちの生活を支えるものばかりなので、観光客にとっては何か買おうという気にはならないが、店のおばさん、おじちゃんたちがなんだかんだ声をかけてくるから、冷かして歩くのは楽しい。

ケソン市の住宅街にある「ファーマーズ マーケット」

メトロマニラ最大のケソン市はマニラ市の北東にあって、住宅街と商業地が広がる地域だ。そこにあるのが食料品をメインとした「ファーマーズ マーケット」だ。巨大な体育館のような天井が高い建物の中に、水産品のブロック、精肉のブロック、野菜・果物のブロック、その他の商品のブロックが分かれていて、働く人や訪れる人たちのための食堂もある。

魚介類は新鮮で種類が多い。肉は豚肉が多く、あらゆる部位が並んでいる。青々とした野菜に、色とりどりのフルーツが生き生きと並んでいる。なにしろ、日本のスーパーのようにラップで個包装されていないので、新鮮だと感じやすいのかもしれない。

アヒルのタマゴの塩漬けも並んでいた。これはサラダやお粥などに使うもので、塩津家にシテから茹でたもの。フィリピンでは孵化しかけたアヒルのタマゴ「バロット」が有名だが、今回は出会わなかった。

たくさんの人たちが商いをして、街中から買い物客が集まるこの広い市場では、ざわざわと人の話し声や気配の音で満たされていて、市場の米屋の横では、疲れた若い人が荷の上でぐっすりと眠っていた。

新都心マカティ市の「サルチェード サタデー マーケット」

毎週土曜日にマカティ市で開かれる「サルチェード サタデー マーケット」に出かけた。マカティのあたりは新しい高層ビルが並ぶビジネス街もあり、ショッピングモールがいくつもつながった商業施設が人を集める。フィリピンの伝統料理やスィーツ、フィリピンで人気の各国由来の料理のテントが並ぶ。

実はここは、「旅行者が食べ歩くならここが安心」と現地の人に教えてもらったマーケット。どこの国際都市にでもあるような清潔感と、文化的な雰囲気があって安心できる。

海ブドウが山盛りで売られていた。沖縄の特産品だから暖かい海で捕れるわけで驚くこともないのだが、あらためて、沖縄、台湾、そしてその南にフィリピンの島々が続いているのだなと実感した。

ここで「バグース」という魚を背中から割って野菜の具を乗せた料理をいただいた。バグースは台湾なら「サバヒー」と呼ばれる白身がさっぱりとした30㎝ほどの大きさで、日本の沿岸では獲れないらしい。聞いてみれば「フィリピンの国魚」だそうだ。

フィリピンの伝統衣装や雑貨、クラフトを売るテントも並んでいる。化学合成繊維を減らすための団体が、農家に綿栽培を広めるための啓蒙をしつつ、綿をつかった製品を販売するテントもあった。そういった社会活動ができる人たちと、それをサポートしたい人たちも集まる。

アドボの味の決め手は独特のヴィネガー

さて、今回紹介するのは「アドボ」はフィリピンの煮込み料理で、鶏肉を使ったものがよく食されている。地元の料理家のお宅でイイダコをつかった「イカのアドボ」をいただいた。酢を使っているが火を入れているので酸っぱさはほどほどでむしろ甘みを感じる。

キッチンにはいくつかのヴィネガーが並んでいた。一般的な米酢もあるが今回使うのはサトウキビのヴィネガーだ。さらに、仕上げには「カラマンシー」という柑橘系の果実の果汁も使って作ってくれた。今回は日本の米酢とライム果汁で作る。

レシピ:イカのアドボ

材料:
・いか 250g~300g(スルメイカなら2杯)
・植物油 大さじ1
・玉ねぎ 1/4カップ みじん切り
・しょうが 大さじ1 みじん切り
・塩 適量
・にんにく 3かけ 潰したもの
・ミニトマト 5個 粗みじん
・オレガノ 小さじ1/2
・ベイリーフ 1枚
・唐辛子 1本
・酢 60ml
・黒コショウ 一つまみ 粗くひいたもの
・醤油 大さじ1
・砂糖 小さじ1
・無塩バター 大さじ2 小さなダイス
・ナンプラー 小さじ2
・ライム果汁 1/2個分

作り方:
1. いかの軟骨を外して、本体と足を1㎝程度のぶつ切りにする。すみとはらわたは取っておく。
2. フライパンを温めて植物油を入れて弱火にし、玉ねぎとしょうが、塩少々をいれて、香りが出るまで1分ほど炒める。
3. 中火にしてにんにく、トマト、オレガノ、ベイリーフ、唐辛子、塩一つまみを加え、30mlの水を入れて、沸騰したら弱火にし、すべてが柔らかくなるまで12~15分煮る。途中で水分が少なくなれば追加する。
4. 酢と水30mlを加えて中火にし、沸騰したら2分ほどそのまま煮る。
5. イカを加えて、塩コショウ、しょうゆを加えて、イカに火が通るまでさっと煮て、フライパンから出しておく。
6. 砂糖を入れて煮詰まり始めたら、バターを加えてよく溶かして全体に混ぜ、5を戻し、ナンプラーを加えて、ざっと沸騰させて火を止め、ライム果汁を回しかけて軽く混ぜる。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/